第8話 えっ? 冒険者になるには魔力が必要なんですか?
「なに!? 身分証や冒険者カードがなければ、保証金も持っていないだと!? そんな奴を町に入れるわけないだろう! 論外だ、さっさとここを去れ!」
町にやってきた俺に待ち構えていたのは、悲しくも門番からの𠮟責だった。
どうやら身分を証明できない人物は中に入れてもらえないらしい。
(いやまあ、よくよく考えたらそれ自体は普通だよな。何かの間違えで犯罪者なんかを入れるわけにはいかないだろうし)
とはいえ、これは困った。
【時空の狭間】から直接
身分を保証できるものはもちろん、お金も。
あるとすれば犬からもらった金色の石や、モニカから渡されたペンダントくらいだが――
「おい、待て。そのペンダントは何だ?」
「えっ?」
俺が取り出したペンダントを見て、門番はなぜか目を丸くした。
俺は戸惑いながらも素直に応える。
「えっと、ここに来る途中でモニカって女の子から貰いました」
「モニカ……? はっ、まさか! すまない、それをよく見せてくれ!」
「ちょ、ちょっと!?」
強引に身を乗り出してきた門番は、ペンダントに描かれている紋章を見た瞬間、驚愕に目を見開いた。
「この紋様……間違いない、パーティー『晴天の四象』の物! まさか彼女たちのお知り合いだったとは。引き止めてしまい申し訳ありませんでした、どうぞ中にお入りください!」
「……えっと、いいんですか?」
「もちろんです!」
そんなやり取りの末、なぜかそのまま町の中に入ることができた。
門を通りながら、俺はペンダントを太陽に透かせるようにして観察する。
「まさかこれを見せた瞬間、あっさり中に入れるとは……“せいてんのししょう”だっけ? 思ってた以上にモニカはすごいパーティーの一員なのかもな」
これを渡してくれたモニカに内心感謝をしつつ、改めて視線を前方に向ける。
するとそこには初めて見る街並みが広がっていた。
真ん中には巨大な街道が存在し、そこを幾つもの馬車が通る。
両脇には歩道が用意されており、それに沿って数多くの露店が立ち並んでいた。
露店の内容は様々。
八百屋や肉屋といった見慣れた物もあれば、武器屋や魔道具店といった異世界ならではの物も多い。
どこもかしこも気になるが、お金を持っていないため寄るのはまた今度にしよう。
そして、露店以外にも興味を引かれたものがある。
それはこの街道を行き交う人々だ。
耳の長い女性や獣耳の生えた男の子など、地球とは異なる多種多様の人種が当たり前のようにそこら辺を歩いている。
「……本当に、異世界に来たんだな」
ここから俺の新しい人生が始まる。
そう考えると、胸の高鳴りを抑えられない。
「けど、異世界を楽しむためにもまずは先立つものを手に入れなくちゃな。運よく町に入れたとはいえ、無一文の状態じゃ何もできん」
その辺りをあの門番に相談したところ、冒険者ギルドに向かうことを勧められた。
ギルドでなら、その日のうちにクエストを受けてお金を稼げるとのことだ。
そんな門番とのやり取りを思い出し、俺はにっと笑みを浮かべる。
「冒険者ギルドか。ますます異世界らしくなってきたな」
ネット小説を読んだことがある者なら、誰でも一回は目にしたことがある冒険者ギルド。
活動するためには最低限の実力が必要となるだろうが、そこは大丈夫。
なにせ俺は1000年間の修行で低級剣士と名乗れるだけの力を得た。
低級モンスター相手なら、問題なく戦えるはずだ!
そんなことを考えながら、俺は門番から聞いた冒険者ギルドがある地区に向かうのだった。
◇◇◇
カランカラ~ン
冒険者ギルドにやってきた俺は重い扉を開け、ゆっくりと中に入った。
瞬間、爆音が耳に飛び込んでくる。
ギルドの中は大きく二つに分かれており、片方は依頼を受けられる受付所、もう片方は酒場になっているようだ。
そのため、そこら中で怒声や鎧がこすれ合う音が響き渡っていた。
「ここが冒険者ギルドか……まあ、だいたいイメージ通りだな」
そう呟いた後、俺は受付に向かった。
幾つかの列があったため、その中の一つに並ぶこと数分、ようやく俺の番がやってくる。
すると、一人の可愛らしい受付嬢が笑顔で俺を迎えてくれた。
「お待たせしました、受付担当のリサです。本日はどういったご用件でしょうか?」
「冒険者登録がしたいんですが」
「分かりました、それではこちらの書類を読んでからサインをお願いします」
そう言って、受付嬢のリサは注意事項が書かれた紙を数枚渡してきた。
転生特典のおかげか、会話だけじゃなく文字も読めることを確認した俺はしっかりと読み込んでいく。
内容は冒険者のランク制度や依頼を受けた時の報酬、失敗した際のペナルティといったイメージ通りの内容だった。
特に問題がなかったため、そのままサインするとリサは笑顔を浮かべた。
「ありがとうございます、これで記載していただくものは全てですね」
「これで終わりなんですか? ずいぶん簡単に冒険者になれるんですね」
「あはは、ギルドは常に人材不足ですし、冒険者を目指す方の多くが複雑なやり取りを嫌うという事情もありまして……」
「なるほど」
確かに冒険者といえば、学より力で成り上がろうとする者が多い印象がある。
そのおかげで俺も簡単に冒険者になれたのだ。ここは感謝しておこう。
そう思い安堵する俺だったが、悲劇はこの直後に待ち構えていた。
一度どこかに離れたリサが、一枚のカードを持って戻ってくる。
そこには『ユーリ・イズミ』という俺の名前や、『ランク:F』といった文字が描かれていた。
「お待たせしました。こちら、ユーリさんの冒険者カードです。初めは全員Fランクから始まることになっていますが、依頼を達成していけばランクアップもできるのでご安心ください」
「分かりました。ありがとうございま――」
「では、最後に魔力を注いでいただけますか?」
「――え?」
魔力?
いま、もしかして魔力って言った?
まさかと疑うような気持ちで問いかける。
「あの、今、魔力を注ぐって聞こえた気が」
「はい、言いましたよ。冒険者カードは所有者の魔力を注いで初めて効果を発揮するようになるので……この工程が終わらなければ登録は終了しません」
「………………」
「ユーリさん? どうかしましたか?」
これは困った。
それはつまり、魔力0の俺は冒険者登録を終えられないということ。
とはいえ、誤魔化すこともできない。
俺は意を決して正直に伝えることにした。
「すみません。実は俺、魔力を一切持ってなくて……」
「……え?」
リサは俺の言葉を聞いてしばらくポカンとした後、内容を理解すると同時に大きく目を見開いた。
そして、
「えええええぇぇぇ!? 魔力がないぃ!?」
ギルドいっぱいに響き渡るほどの声量でそう叫ぶのだった。
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異世界あるあるその①
・個人情報をなぜか大声で言う受付嬢
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