異世界に転生したけど魔力0だったので、1000年間剣技を鍛えてみた ~自分を低級剣士だと思い込んでいる世界最強は無自覚に無双するようです〜

八又ナガト

第一章 冒険者の町グラントリー編

第1話 どうやら俺の魔力は0らしい

 俺こと出水いずみ 悠里ゆうり(18歳)はある日、トラックに轢かれそうになっている女の子を助けた際に命を落としてしまった。


 そんな俺の前に現れたのは、異世界の女神を名乗る銀髪の美少女アリスティア。

 彼女曰く、本来ならあの事故で亡くなるのは俺ではなく女の子だったらしい。


「つまり、あなたは定められた運命を自らの手で覆したのです」


「それで自分の命を落としたんだから、喜ぶに喜べないが……」


「ご安心ください。偉業を成し遂げたあなたには転生の権利が与えられます」


「転生の権利?」


「はい。規則ルール上、地球とは異なる世界にはなってしまうのですが……」


 つまるところ、Web小説なんかでよくある異世界転生の機会を得られたらしい。

 当然断る理由はないため、受け入れることにした。


 となると次に気になるのは、転生先となる異世界についてだ。

 尋ねると、アリスティアは丁寧に説明してくれた。

 剣や魔法、そしてモンスターが存在する世界。異世界と聞いて真っ先にイメージした通りの、ファンタジー満載な世界のようだった。


「ちなみにユーリさんには、転生者特典としてスキルが三つ与えられることになっています」


「それは助かる。さすがに生身のままじゃ、異世界で生き抜くなんて無茶だからな」


「こちらがスキルの候補になります。この中からぜひ、好きなものを選んでいただければと」


 そういって、アリスティアは一冊の本を差し出してくる。

 まるでカタログギフトだ。


 とはいえ、この中からどれを選ぶかで俺の今後が決まる。

 俺は興奮したまま本を開いた。


 しかし――


「あれ? おかしいな、何も書かれてないぞ」


 本の中は白紙だった。

 想定していない自体に困惑する俺を見て、アリスティアも首を傾げる。


「本当ですか? そんなはずは……っ、まさか!」


 何かに思い至ったように、アリスティアがバッと立ち上がった。


「どうしたんだ?」


「一つだけ心当たりがありまして。ユーリさん、失礼いたします」


 そう告げた後、アリスティアは俺に両手を伸ばした。

 両手からは純白の光が生じ、俺の体を包み込む。

 数秒後、アリスティアは驚いた様子で声を上げた。


「うそ……魔力保有量が0!?」


「そんなに驚くほど珍しいのか?」


「は、はい。生まれた世界にかかわらず、本来なら生物はある程度の魔力を有しているものなのです。しかし、それがないとなると……」


 その後、アリスティアは幾つもの懸念点について教えてくれた。

 まず、スキルの発動には必ず魔力が必要らしい。

 魔力を持っていない俺に扱えるスキルは存在せず、そのため冊子も白紙だったのだとか。


 とはいえ、だ。

 せっかく転生するわけだから、その際に魔力を持っている体に作り替えることはできないのか? という当然の疑問を尋ねてみた。

 しかし転生とは、あくまで元の体を復活させたうえで異世界に送り込む儀式。

 元々の保有量が0であれば、転生後も必ず0になってしまうらしい。


 アリスティアは申し訳なさそうな表情を浮かべる。


「申し訳ありません。せめてわずかでも魔力があれば、増やす手段はあったのですが……」


「最初から0の場合だと、どうすることもできないと?」


「はい。そうなってしまいます……」


「…………」


 ついさっきまでは、物語で見てきたようなチート能力で無双する異世界ライフが送れると思っていた。

 そのため正直なところかなりショックを受けているんだが、この反応を見るにどうしようもないんだろう。

 だったら、切り替えていくしかない。


「スキルの代わりに、何か武器をもらえたりはするのか?」


「もちろんそれは構いませんが……今のユーリさんでは、武器を手にしたところでスキルなしでは低級モンスターにも敵わないでしょう」


「うっ」


 元々分かっていたこととはいえ、直接言われたせいでグサッときた。

 とはいえ、そう落ち込んでばかりもいられない。

 アリスティアはあくまで、と言った。


「それじゃあ追加で、異世界に転生する前に修行する時間をくれ」


「修行ですか?」


「ああ。せめて低級モンスターに問題なく勝てるくらいの力は欲しいからな」


「……そうですね、分かりました」


 俺の決意が伝わったのか、アリスティアが真剣な表情で頷く。


「では、【時空の狭間】を用意しましょう」


「時空の狭間……?」


「ユーリさんと同じように、転生前にスキルを試したいという方はいらっしゃいます。【時空の狭間】では外界と時間の流れが変わるため年を取らず、さらに内部でどれだけのダメージ・疲労があろうと瞬時に回復する仕組みになっているのです。そこでならユーリさんが納得いくまで鍛えることができるかと」


「そうか、助かるよ」


「いえ、これが私の役目ですから」


 方針は決まった。


 その後、アリスティアから一振りの剣をもらった。

 銀色の刀身が目立つ、いたって普通の剣だ。


「これが俺の武器か……」


「準備ができましたよ」


 興味津々で剣を眺めていると、いつの間にか目の前の空間がぐにゃりとゆがみ、別の次元に繋げられていた。

 どうやらこの先が俺専用の【時空の狭間】らしい。

 俺はゆっくりと、そのゆがみに向かう。


「それじゃあ、行ってくるよ」


「はい。ユーリさんが仰っていたように、で連れ戻させていただきますね」


「ああ、頼む」


 具体的に低級モンスターがどれだけの強さなのかは分からないが、そこはアリスティアに任せておけばいいだろう。

 俺は改めて、【時空の狭間】の中に入るのだった。



 ◇◆◇



 ユーリが【時空の狭間】に向かった後。

 残されたアリスティアは、改めて申し訳なさそうな表情を浮かべていた。


「まさかユーリさんが魔力を少しも持っていなかったとは。せめて異世界では、安寧に暮らしてほしかったのですが……」


 そんなことを考えていると、突如として目の前の空間にゆがみが生じる。

 ユーリの身に何かイレギュラーがあったのかと考えるアリスティアだったが、すぐにそれが杞憂だあることに気付いた。


「アリスティア様、ただいま戻りました」


 ゆがみから現れたのは、アリスティアの配下である一人の少女だった。

 少女はアリスティアの様子を見るや否や、不思議そうな表情を浮かべる。


「アリスティア様? お困りのようですが、何かございましたか?」


「実はですね……」


 アリスティアは配下にここまでの経緯を伝える。

 ユーリを異世界に転生しようとするも魔力がなかったこと。

 そのため、スキルの代わりに剣を渡すと共に、最低限の実力がつくまで【時空の狭間】に向かわせたこと。


 最後まで話を聞いた配下は、何かが引っかかったのかきょとんとしていた。


「【時空の狭間】ですか?」


「ええ。あなたもよく知っているでしょう?」


 転生者の魔力が0というのは今回が初めてだが、【時空の狭間】自体は以前から何度も活用している。

 だからこその確認だったが、少女は首を横に振った。


「いえ、そういうことではなくて。その転生者に魔力がないのでしたら、追跡マーキングはどうやって行うのですか?」


「……え?」


「ですから、【時空の狭間】は無限の空間の中に点在する極小の拠点エリア。その中から対象を見つけ出すには、魔力の痕跡を辿る以外に方法がないはずじゃ……」


「……あ、あああああああああああっ!?」


 ようやく合点がいったアリスティアは、清楚さと高貴さをどこかに放り出すかのように、叫びながら立ち上がった。

 魔力を持たない存在などこれまでに存在しなかったため、アリスティアはその懸念点を考慮していなかったのだ。

 そんな主の様子を見て、配下の少女の顔がどんどん青ざめていく。


「アリスティア様、まさか……」


「ど、どうしましょう。このままだと、ユーリさんが【時空の狭間】に一生囚われることに……」


 さらに厄介な点が一つ。

 【時空の狭間】は外界と時間の流れが異なる。

 基本的には外界より流れが早いことが多く、倍率に至っては確認されている限り最大で10000倍に達する。

 もしその場合なら、アリスティアがこうして話している間に数日以上経っている可能性すらある。


「こ、このままではいけません。一刻も早く、ユーリさんが向かった【時空の狭間】を見つけ出さなくては」


 このままだとユーリが最低限の力を得る以前に、無限の牢獄に囚われる苦しみによって魂が滅んでしまう。

 そのことを何より恐れたアリスティアは、無限の空間からユーリを探すことを決意した。



 ――そして、そんなアリスティアの焦りも知らず。

 【時空の狭間】にたどり着いたユーリは、さっそく修行を始めていたのだった。



―――――――――――――――


新連載です!

もしよろしければ、


・本作をフォロー

・下の『☆で称える』の+ボタンを3回押す


をしたうえで、本作を読み進めていただけると幸いです。

どうぞよろしくお願いいたします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る