第34話 里音と由愛
「私はいったい今どこで何をしているのか」
「流石γといったところかしら。春樹の攻撃を受けてまだHPが残ってるなんて」
「そうはいっても私は何もすることが出来なかった」
「それはそうね、春樹の力はバグだわ」
「ふ、そうね」
「γ、いや堀本凛、貴方に聞きたいことがあるの。1年前のナノの拠点を覆ったゲームの具現化、その生き残りにあなたもいたのね」
「ええ、そうだわ」
「1年前にナノの拠点でゲームがあったんですか」
「ええ、春樹にはそろそろ私の過去を明かそうと思ってたの。この機会に是非とも聞いてちょうだい」
「分かりました」
里音先輩の過去か、初めて彼女の家を訪れた時に、由愛という人物のことを呟いていたのを思い出す。彼女の過去にいったい何があったのだろうか。
ー
「由愛今日も何もなかったね」
「里音ちゃん、あなたはこれからどうするつもりなの」
私と由愛はナノの会員にされていた。仮想領域による半ば強制とも呼べる誘拐である。 仮想領域の記憶の抹消は外の世界にも適用されたゆえに私たちは外の世界から消えた存在となっていたのである。
学校を模したナノの拠点で、私と同時期につれてこられたのが由愛、年が近かったため徐々に馴染んでいった。
半ば閉じ込められた形で一緒の部屋で過ごしているのが由愛である。
「私はこの組織にずっといるつもりはないのよ。隙を見て脱出の糸口を探るわ」
「強いんだね。私には出来そうもないわ」
「なんでやる前から諦めるのよ。やってみないと分からないわよ」
「そうかも」
私は周りを見ると、見張りが消えていることに気づいた。
「さあいくわよ」
「私はいいよ」
「どうして?」
「分かるんだ。私はね運命が見える性質なの」
「何を言ってるの?」
「ここに集められた人はきっと何か凄い才能があるに違いないわ。入る時オーナーの人が私たちに何か薬物を投与したでしょ。それできっと能力が開花するよう仕込まれていたのよ」
「そんなこと知っているわよ。でも能力って言っても仮想領域の中で発動するものでしょ。ここは現実世界、そこで運命が見える能力ってありえないわよ」
「そうかもね。でも私は行かない、そこに未来はないから」
「はあ、じゃあそこで一人じっとしてなさい」
「はいはい里音ちゃんの無事を祈ってます」
「何を」
私は由愛の言っていることが分からずに、一人でナノの拠点を出ようとした。
「ここが制御室、後少しで出口に出れる」
「とでも思ったのかい?」
「っ! あなたは? 誰?」
「いやだな僕は君をお迎えに来て上げたじゃないか」
「こいつは」
仮想領域を展開して、私を突如連れ去った男であった。
「また私は失敗したの……」
「うん? もうあきらめちゃったのかい? もっと戦うとかさ、できないの?」
「私にそんな力はない」
「はあ、ちょっと僕はがっかりだな。君たちにはもっと刺激が必要なのかな」
「意味が分からない。もう好きにしなさい」
「うん、君は元の場所に戻ってもらうよ。それに近々実験をしようと思ってね。君に忠告しておくと、もっと自分の力を信じた方がいいよ。じゃないと君はもうおしまいだ」
「?」
私はその男が言ってる意味が分からなかった。
「ほら入れ」
「ガタっ」
「……」
「あれ? 里音ちゃんまた戻ってきたの?」
「うるさいわね。あなたこの展開を予想していたんでしょ」
「うんまあね。ここから出るなんて無理だよ」
「そう、とてもつまらない能力ね」
「えええ? 酷いわ。なんでそんなことをいうの?」
「運命が分かるなんて、何も面白くない。私は運命なんて自分の力で切り開くものだと思ってるから」
「凄い凄いね里音ちゃん。じゃあ私の分は里音ちゃんに託そうかな?」
「どういうことよ」
「賭けをしない? もし里音ちゃんが運命を自分の力で切り開くことが出来たら、私は里音ちゃんに全てを捧げるわ。もし里音ちゃんが運命を切り開けなかったら、これはもう何も言う必要はないでしょ」
「何を言っているの? それじゃフェアじゃないわ。さっさと私が失敗した時の由愛の要求を言いなさいよ」
「あのね里音ちゃん、あなたが失敗すれば全てが終わるのよ。この先に未来はないわ」
「何をいってるの?」
「私見ちゃったのよ。全てが終わる時を。ナノの仮想領域が全てを包みこみ、ボスが全てを掌握する世界を」
「そんなことがあり得るわけないでしょ」
「じゃあ、賭け開始ね。今日が私と里音ちゃん、そして普通の人にとっての大きな分岐点になるわよ」
「何を言っ……」
「ブーブーブー」
「っ!」
「緊急避難警報!緊急避難警報!」
「システム暴走、システム暴走、直ぐにここから離れてください。容量がオーバーフローを起こしています」
「うわああああ」
「ナノのメンバーがみんな騒ぎ出してる。一体これはどういうことなの由愛」
「これは始まりの合図だね。戻すことのない大きな余波がこの拠点を覆うよ」
「何を言って…っ!」
次の瞬間、ナノの学校式の拠点は仮想領域に包まれた。
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