第3話 ゴミ捨て場の少女
朝5時、アラームをかけた時間よりも早く目が覚めた。
「さむい……」
流石、冬の朝は冷えるなあ。私は頭も布団の中に入れて縮こまる。布団の中は暖かい。
このまま2度寝をかまそうと思ったが、ふとゴミ出しのことを思い出した。重い腰をあげてベットから降り、もこもこスリッパを履きカーテンを開ける。
陽の光が全身を覆う……訳もなく。
私はカーテンを締めなおす。辺りはまだ真っ暗だった。冬場は朝6時を過ぎても暗いから、たまに起きた時間が朝か夕方かわからなくなるときがある。昼寝から起きたときとか特にそう。
部屋の電気を付けて洗面所に行き、お湯を出して洗顔をする。この寒い中で水で顔を洗うのは流石に苦行だろう。
顔を洗い終わった私は台所に行った。電気ケトルに水を入れてボタンを押す。
お湯を沸かしている間に私はインスタントのコーンポタージュを取り出しマグカップに入れる。買い物袋から昨日買ったパンを取り出した。どうやら昨日の私は焼きそばパンが食べたかったらしい。
ポン! と音がした。流石あっという間にすぐに沸く電気ケトル。もうお湯が沸いたらしい。私はお湯をマグカップに注ぐ。
私はこのお湯を注ぐ音が好きだ。そういえば水とお湯では注ぐ時の音が違うらしい。水は細い音でお湯は太い音だと電三郎先生がテレビで言っていた気がする。
「ごちそうさまでした」
おそまつさまでした。
さて、ゴミを捨てに行きますか。パンとインスタントポタージュのゴミを入れ袋を縛る。
ゴミ捨てだけだし部屋着のままでいいか。私はパンパンのゴミ袋を2つ持って玄関のドアを開けた。そして1歩外に出る。
「……さぶ。さぶさぶさぶさぶ」
私は部屋に戻った。流石に部屋着は寒すぎるのでコートを着てマフラーを巻いた。
これでよし。私は再び外へでた。
上半身は暖かいけど裸足でサンダルだからあんよが寒い。早くゴミを捨てて部屋に戻ろう。今日は休みだし掃除機かけてこたつ布団をだそう。そうしよう。
休日の過ごし方を考えながら私はゴミ捨て場についた。
そして、ネットをのけてゴミを投げ込もうとする自分の手を、止めた。
あきらかにおかしな物が目に写り、思考がショートする。
私は一瞬寝ぼけているのかと思い、目をぱちぱちさせたり、指で目を擦ったりした。
それでもそれは消えなかった。
女の子が寝ているのだ。
それも、ゴミ袋を枕にして。縮こまってくぅくぅと寝息を立てて。
「いやなんで?」
と。思わずツッコミが出た。
昨日帰ってきた時には確実にいなかったのを覚えている。
なんでゴミ捨て場で女の子が寝ているんだ。そんな訳ないだろう。
おとぎ噺ですらありえないだろ。寝起きの頭をフル回転させているが、事態が飲み込めない。何度も目をこすっても女の子は消えない。
摩擦で目が痛くなってきた。幻覚でもなければ夢でもないらしい。
いったん深呼吸をして落ち着こう。
冷たい空気を肺一杯に吸い込んで、ゆっくりと吐き出した。
とりあえず……この子のことを起こそう! こんな所で寝てたら風邪ひいちゃうし。
いや先に警察を呼んだ方がいいのかな?
この時の私は冷静な判断ができていなかった。
私は女の子の手首に手を添えた。
「冷たっ……」
まるで氷かって思うくらい冷たかった。
声をかけながら体を揺らしてみる。すると女の子は唸り声をあげながら身体を起こした。
黒くて腰まで伸びる髪の毛、そして靴どころか靴下すら履かれていない足。モコモコしている白いパジャマ。両腕の裾に、黒く乾いた汚れが目立っている。他にも、至る所に黒い汚れが付いている。膝や、肘などにも。
小柄で、顔つきから見て多分この子は小学生くらいだと思う。一体、何があったのだろうか……。
目を覚まして私を見た女の子は酷く動揺した様子を隠せないでいた。
「嫌、来ないでッ!」
何かから逃げて来たのだろうかと思うほどに、身体を縮め、怯えた細い声を出した。
「嫌ぁ……殺さないで……殺さないで……ごめんなさい、ごめんなさい」
女の子は泣きながら何度もその言葉を繰り返した。
その様子に、私は胸が締め付けられた。
『殺さないで』その言葉が、小学生くらいの女の子から出ていることに、言葉を失っていた。どれほどの恐怖を、この子は植え付けられたのだろうか。
女の子の身体が震えているのを見て私は着ていたコートを脱いだ。
それを見た女の子は、私が自分を殺そうとしていると思ったのか、その場にあったゴミ袋を私に投げつけ、必死に『来ないで』と言って後ずさった。
私は脱いだコートで女の子を包み、抱きしめた。
必死に私を引き離そうとする女の子。
「大丈夫、大丈夫だよ。ここにあなたを殺そうとする人はいないよ。大丈夫だから、落ち着いて」
女の子の頭をなでながら、何度も『大丈夫』を口にした。
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