ハッピーエンドの終点を君へ
海月 灰
第0話 古傷
私は林原奈緒美。24歳の一般女性。
高校2年生の時に男性教師からセクハラをされた。そのことがトラウマで男性恐怖症になり、一時期自分の部屋に引きこもっていたことがある。
おしりを触られた。胸を揉まれた。だけなら嫌な思い出になるくらいかもしれなかった。
だけど私がされたのはそんな生ぬるいものではなかった。学校で水筒に薬を盛られ、犯されそうになったのだ。あの時の教師の眼は、まるで獣のようだった。いつも私に向けられていた視線は、こんなにも恐ろしいものだったのかと、恐怖で一杯になった。
忘れたくても忘れられない。心の負った深い傷とはそういうものだ。
正直こんな風にあのことを話せるくらいに立ち直れているのが自分でも信じられないが、当時いつも私の隣にいてくれた親友のおかげだろう。あの頃の私は毎日が灰色で、自殺することも考えたほど辛かった。
どんどん沈んでいく海の中で、身体がぐちゃぐちゃに潰されていくような日々。そんな日々から、親友は私を救ってくれた。命の恩人である。
私を救ってくれた親友は高校卒業後に海外の大学に行ってそれ以降一度も会っていないし、連絡も来ていない。嵐のように現れ、嵐のように去っていった女だ。
今はどこにいるのかもわからない。当時の電話番号だけがかろうじて残っている。
それももう過去の話。高校卒業から6年が経った。20歳の時に母親の薦めで里親登録をした。理由は男性恐怖症を克服するためである。最初から青年や成人男性と接触を図るのではなく、小さい子どもから慣れていけというお達しだ。おかげで去年まで3年間、男の子と1つ屋根の下で暮らしていたわけだけれど。
その甲斐あってか、男の子と話すのには慣れた。まだ成人男性とかと話すのには抵抗があるけど。
私は今は1人で住民の少ないアパートを借りて暮らしていて、こじんまりとしたカフェの厨房でバイトをしている。女性従業員が多くてなおかつ時給がいい。店長には事情を話していて、接客はやらなくていいと言われている。優しい世界だ。
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