夢を見たあとに、現実になるように

リオ

第1話 クリスマス

主人公は殿巻リオ23歳 

人気ブランドが軒を連ねる路面店で

ラグジュアリーブランドショップのセールスアソシエイトとして働いている。

リオは短大を卒業した後、

転々とアルバイトばかりを繰り返していた。

そんな時に求人広告でこのブランドショップを見つけて応募をしたのだった。

武器と言えるものは特になかったが

日常会話程度の中国語を話せることが採用につながった。

月曜と火曜が休暇となっているが、

時短勤務のスタッフに頼まれれば気持ちよくシフト変更も引き受けるのでスタッフからは重宝されていた。

妹のアリアは美大を卒業した後、芸能事務所に所属し、ボイスレッスンに励む一方、美術モデルのアルバイトなども掛け持ちをしていた。


両親はリオが中学3年の時に離婚して、

いまは父と双子の妹のアリアと3人暮らしである

姉妹はセレモニーホールから頻繁に鳴らされる間違い電話に悩まされていた。

しかしリオはこの電話をきっかけにして予知夢や予知能力が開花してしまったのだった。


1997年のクリスマス・イヴの前日。

厚底ブーツにミニスカート、ストリートファッションで街は溢れかえっていた。

ショップの売上は去年と比べ落ち込んでいた。ほこりを払うとすぐに売れるというセオリーを信じて細部までチェックをして商品を並べる。

リオはお客様へ商品を受け渡すラストプレゼンターという役割なのだ。


先日、偶然街で出会った高校時代の友人の藍奈と会うためにリオは急いで制服を着替えていた。

お土産に渡すサンプルのパルファムも忘れずにバッグに入れてヒールをロッカーに投げ入れると用意していたバレエ・シューズに履き替えた。

ドアを開けるとビュッと風が吹き付けて、

ミドルノートが冷たくなったリオの頬をふわりとかすめた。


街路樹には幹まで飾り付けられた電球色が街を見守るように連続している。

定刻に鳴らされるカリヨンの鐘が道行く人の心を休めていた。

リオは教会の前で歩く速度をゆるめて、慣れ親しんだ賛美歌を思い浮かべていた。


藍奈と待ち合わせたのはクラシカル調のJazz Barでリオが勤めるショップから10分ほどの場所だった。複数の縦長の窓に囲まれており、一窓ごとに濃い茶色の木枠で縁取られている。

店内はチョコレート色の絨毯が敷き詰められ、あたたかいブラケットライトがウォールナットテーブルの天板をわずかに反射していた。


「おまたせ。」


リオは楕円の背もたれを片手で引きながら

周囲に気を遣うようそっと腰掛けた。

ビロードのしっとりとした心地よさが

心身の奥深い場所まで届いてゆくようだった。


ウエイターにホットワインを注文すると、仕事用のバッグを空いている椅子にドサッと置く。


「おつかれ。」

藍奈は労うような笑顔を浮かべると、

サラサラに手入れした長い髪を手のひらで避け、控えめなネイルの長い指先でストローを持ち溶けた氷をカラリンッと鳴らした。


ガラス越しに映るクリスマスツリーが今年もまたきらびやかに街を飾っていた。



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