場面的トランスエイジ
決定
場面的トランスエイジ
ロリコン、何度この言葉を浴びせられたことか。なんでそうなるんだよ。もっと考えてくれ。
放課後、リュックを背負ってさぁ、帰ろうとするが、話しかけられてしまった。
「なあ、どうして小原は学童保育のバイトなんてしてんだ?」
と、この男は質問してくる。
小原はほんの少し動揺したが表情には出なかった。
「強いて言えば恩があるから」
「どんな恩よ?」
ニヤついてるこの男の顔をぶん殴ってやりたい。
「元々その学童にいたんだよ。その時の先生もいるから辞めるにも辞めれないの」
「あと、人手不足」とその理由を説明した。コネ入社と人手不足は簡単には辞められないのだ。
正直なところ子どもの相手をするのは好きではない。
宿題をしない子、屁理屈ばかりいう子、こういった子どもの悪いところばかり目に入ってしまうのだ。
「なんだか君、めんどくさいな」
「は、言ってろ」
と言い捨て今日も学童のバイトに向かう。
「お疲れさまでーす」
という挨拶をして入室していく。学童のバイトは四時からなので、学校kらいつも直行してきている。指導員に会釈して、荷物を置く。
「なんだたつやか〜」
二年生の女の子が、がっかりした感じを隠そうとせず言う。こういう時は少しふざけた感じで返すのが効果的。
「なによ。私じゃ不満ってワケ!?」
ちょっとおネエ口調で問い詰める。
「うん!なっちゃんがいい!」
子どもらしい無邪気な笑顔で答えてくる。
なっちゃんとは俺と同じ高校生の女の子だ。
夏休み限定でアルバイトをしていた。
どこからか「うええ。たつやか」という声が聞こえてくる。いつもこれなのでもう慣れた。
この子らの言葉を軽く聞き流し、
「今日は何かありましたか?」
専任の先生に問題発生していないかを確認する。
「特にないですね」
とパソコンで子どもたちの塗り絵をコピーしていた。
「よかったです」
今も昔も学童保育の教育方針は場所によって全然違う。
塾のような所。
社会性を学ばせる所。
そして、小原竜也のバイト先の学童は『家族愛』を大事にしている。
この教育の要は子どもたちが自由に自分らしく伸び伸びと育ってくれればいい。という話だそうだ。
しかし、最近はこの教育方針も破綻してきている。
モンペに対処していった結果、「お前」や「邪魔」などの言葉も暴言となった。
当然、肉体的暴力もダメで、その定義「ねぇ」と肩をトントンしたくらいで暴力と言われる時代になってしまったからだ。
この影響で誰一人例外なく指導員のことを舐め腐っている。
そのあらわれは、私のことを名前呼びをしてくるのもあるが、舎弟を呼ぶかのように「たぁつぅやぁ」言ってくるからだ。
これはいつの時代のことかもしれないが、叱ったりしたとしても反省の色がないと感じる。私が小学生の時は、もっと先生の言葉を自分に響かせていたのだが。
この環境ははっきり言って悪だ。
学童で働くのは至って簡単で子どもと遊んでいればいい。私は子ども達と接する時できるだけ距離を近くする。子供たちよりも遊ぶことを楽しみ、指導員としてではなく自分が子どもならどう思うか、を大事にして子どもたちと関わっている。
その時だけは自分も小学生になったような気持ちだ。
もちろん、してはいけないことをしたら軽く叱る。
今はおやつの時間だ。おやつを食べている姿を離れた場所から見守る。
「私がおやつの時間終了を告げましょうか?」
と専任の先生は話しかける。おやつを食べていた一人が私の声をききつけて言う。
「なんで、たつや男なのに私っていってるの?」
即座になんて返したらいいか分からなくなり、
「別に男だからって使っちゃダメなわけじゃないの」
目上の人と話す時は『私』と言わなければならないことを伝えればいいが、伝わらないかも、と思ってしまい言葉を省略してしまう。
「ダメだよ!男なんだから!ねぇ」
とみんなに同意を求める。
だめだよ!と、みんなが賛成してきた。
「まぁ小学生だし、そのうちわかるよ」
こんなとき、教えることが向いていないと実感してしまう。今だって子どもたちをあおってしまうような言い方でこの会話を終わらせてしまった。
男だから、女だからこうであるべきという考え方での会話はここでしか聞けない。
今の時代は多様性が大事、マイノリティは保護しなければならないという言葉がどこにいても耳に入ってくる。
そして小学校だって多様性に配慮した教育を施しているはず、なのに何故こんな言葉が子どもたちの口から出てくるのだろうか。
『男らしくない』『女らしくない』そんなことを言ってはいけない世の中なのになぜ子どもたちは言って良くて自分たちの価値観を人に押し付けてくるのか。
まだ、考える力が十分に備わってないから?
自我が確立されてないから?
そんなんで、多様性を将来受け止められんのかよ。
こっちは受け止めきれてねぇよ。
自分は心と愛を優先して、繁殖は他人に任せます。なんて無責任な事を言ってきてる被害者ヅラしてるやつらのことをよ。
日本は中途半端な教育してんじゃねぇよ。
名ばかりの多様性なら辞めちまえよ。
成長してから学ばせるんじゃ、遅せぇんだよ。
専任の先生が新型コロナウイルスにかかり、高校生の私とと七十代後半の先生二人で一週間ここの学童を経営することになった。
社長は何してるのだ。
うちは一応グループの一つの学童だ。
グループ内から、誰か人をよこしてくれたっていいのでは?この一週間は学校が終わったらソッコウで学童に行く生活となった。
専任の先生の話はある程度子どもたちは耳を傾ける。しかし、七十代後半のおばあちゃんの話など聞くハズもないので、今の学童を知っている私が指揮を取ることになりそうだ。なにか問題が起きたとしても、専任不在の環境をそのままにした社長の責任だ。
毎日、専任の先生はこないのか、質問されその後に俺と交代してと言われる。俺だってここにきたくてきてんじゃねぇよ。日々、子どもたちの純粋で心ない言葉に不満とイライラが積み重なっていった。
宿題を教えてる時のことだった。
「あ、やべ。私が間違えたわ」
宿題の答えを間違えてしまった。
「もーちゃんとしてよ。オトナでしょ」
「これだからたつやはダメなんだよ」
「また、私って言ってるし」
と大バッシングをいつも一緒にいる二年生の女子三人組に言われた。
いつもの俺なら流せるが、我慢の限界がきていた。
なんだよ。オトナでしょ。ってお前らいつも俺のこと、高校生って分かってるのに小学生とか中学生とかいってくるじゃねぇか。こういう時だけオトナって使うなよ。
「俺のことバカにしてんのか?」
と気づいた子どもたちに向けて怒鳴っていた。
「お前らの言ってることはよ。もう、俺をバカにしてるとしか思えねぇよ!」
俺の激怒に気づいた子どもたちの表情が固まる。
「お前って言わないで」
怒っているのにも関わらずそんな事を言ってきやがった。俺の怒りは加速し、
「今はかんけぇねぇだろうがよ!」
と一蹴した。
「え?何がダメなの?人間誰しも失敗はするよな?それって言う必要あるか?」
こんなにも怒られてると思っていなかったのだろう。みんなうつむいている。
「何か言えよ。おい、こっちを向けよ!」
説教が快楽た歌う曲が頭の中で再生される。そんなワケないだろ。
「俺の目を見ろ。何か言えよ」
すると、言ったのか言ってないのか分からないくらいの声で、
「.....バカにしてない」
つむいたまま、そういった一人の子には目に涙が溜まっていた。
「バカにしてない?俺にはバカにしてるようにしか聞こえねぇよ!」
カチカチと爪で机を叩く。
三人ともボロボロと泣き出してしまった。
非常に良くない怒り方をしていると自覚し、少し冷静になる。
「バカにするのも大概にしろよ」
結局、叱るだけ叱ってしまった。
叱り終わった後に
「絶対にママに言ってる」とぬかしていたが、言えばいい。それでここを辞められるなら本望だ。
いつものように学童にいく。専任の先生が復活していた。あの三人組に今日はちゃんと話をしようと思っていたが姿が見られなかった。
「あれ、三人組は休みなんですね」
「そうなんですよ」
全員あずかるのは週五が基本なのにめずらしい。
最後の子も帰り、パタンとドアを静かに閉めた。
「お話があります」
専任の先生が深刻そうな顔をしてそう告げた。
少しするとここの法人の社長がきた。
「お前、何をしたか分かってるよな?」
対面して座る形でそう、問い詰められる。
心当たりは怒り散らした事だが、そのくらいで社長が出てくるはずがない。
「……分からないです」
「僕のいないあいだにね。二年女子三人組が竜也くんに胸を触られたって保護者を通して訴えてきたらしいんだ」
とくもりきった表情の専任の先生。
胸を触った?そんなことするワケないじゃないか。なに言ってんだ?
「さ、さわってないです」
バゴンッ。机をぶっ叩く音と共に私は社長に胸ぐらを掴まれた。
「嘘ついてんじゃねぇぞ!」
社長の怒鳴り声がキーンと頭の中に響く。
「本当はやっちまったんじゃねぇのか?」
飛び散ったつばが顔にかかる。
「やってません」
なんでだよ。やってなんか、ない。
目を見て、うったえる。社長の怒りで染まっている瞳から目を離さなかった。
パッと掴んでいた私から手を離してた
「三人に謝ってこい」
なんでそんなことしなきゃいけないんだよ。
「いや、」
ガラガラと玄関の開ける音がした。
ドタドタと結構な人数の人が入ってきた。
この場にいるだけで吐き気を催した。
軽蔑している冷ややかな目と、今にも殺そうと憤怒する意志がズキズキと刺さった。この状況が未だに理解できない。
「この度は娘さんに深い傷をつけてしまい、申し訳ございませんでした」
と俺は頭を地につけ、親子三人組に謝罪した。
「ふざけるな!」
と一人のお父さんに怒鳴られる。
俺は「申し訳ございません」と機械のように謝り倒すことしかできなかった。
どのくらいたったのだろうか。今度は子どもたちに対し、謝ることになった。
「本当にごめんなさい」
親の背に隠れて出てこなかった三人だが、頭だけを出して俺を人ではない何かを見るような表情をしていた。そのあとは、保護者の怒号に耐えていた。
結局、俺の話など聞く耳を一人も持たないままでこの場を終えた。
幸いなことに、俺がここを辞めることを条件に警察や学校には通報と報告をしないでくれるとのことだった。
保護者どもが話している時、三人がチラチラと見てきた時の顔の方に意識がいっていた。あの顔を忘れもしないだろう。純粋ながらも悪に染まったあの笑み。してやったぞとでも言いたげな勝ち誇った顔。
殺したい。今すぐにでも殺したい。コイツらを素っ裸にして十分に嬲ったあとに殺してやりたい。希望もなく絶望して死んでいくのを見届けたい。この悪魔どもを殺してやりたい。
私は学童を辞めた。警察が来ることも裁判所から手紙は来ることはなかった。一方で私が女児の胸を触ったという話はどこからか、広がってしまい、友達からも親戚からも家族からも見放されてしまった。
高校にもそれが情報が届き、後ろ指をさされた人からはロリコンとしか呼ばれなくなっていた。
そして、いつのまにか「小学生と援交した」や「小学生を盗撮していた」など根も葉もない
話まで、でてきてしまった。
この話を広げたのは私が学童をやっている理由を聞いてきたあの男だった。あいつとは高校の中では一番話していたが、私の性加害が分かると手のひらを返すのにうに私をいじめだしたのだ。
それにより、誹謗中傷がさらに増して、もはやストレス解消のサンドバッグ状態となっていった。学校は私をいじめていても、何も動かなかったことも原因の一つの理由だろう。私は学校すら見捨てられ、腫れ物扱いされていたのだ。
この状況に必死に耐えていたが、それも虚しく私は学校から逃げ出した。
ロリコン、ロリコンうるせー。
なんでだよ。人から聞いた話を信じきるなよ。噂程度の話より本人の話を聞けよ。そんぐらい分かるだろ。家族も友達だったやつも学校のやつも一方的に突っぱねて寄ってたかって俺をいじめてそんなに楽しいのかよ。ロリコンっていけないことなのかよ。ロリコン、ロリコンってうるせーよ。
もう、全てどうでもいい。全部失った。
失った?そうか、俺は無敵だ。
平日の一時、公園には小学生がいる。
ミンミンととごからもせみの声が聞こえてくる。
外にいるだけであせがふき出てくる。
七人の少年少女だ。多分小学五、六年生だろう。タコの形をした公園でおにごっこをして、女の子の成長中のおっぱいがゆれている。
タコの頭のてっぺんには一人の男の子がいてみんなを見下ろしながらあおっていた。
おれは一人の男の子に話しかける。
「ねぇ、おれも入れてよ」
このくらいの学年だとオトナが子どもに話しかけるのは不しん者になる。
その子はピタッと固まり、
「だ、だいじょうぶです」
「なんでよー。おれも君と同じ小学生だよ?」
「えっと......」
「にげろ!」と他の子にさけびながらにげていったその子のこわがってる顔からみんなも気づいて、キャーなどの声を上げてにげていった。
「まってよぉ」
ウキウキしながらみんなのことを追いかけた。
俺は場面的トランスエイジだ。
遊ぶ時とかも十二歳の男子になるし、性的対象も恋愛対象も十二歳だ。それが場面的トランスエイジ。ロリコンでも、精神異常者でもない。今の多様性が大事、マイノリティは保護を、の時代の一つの個性だ。だからいいんだ。
俺の子供の視点で考える教育の根っことなっているものだったんだ。
十二歳になりきるんじゃなくて、十二歳になるんだ。十二歳なんだよ。
暴言吐いたって、暴力を振るったって、クソみたいな屁理屈言ったって許されるんだよ。その時はまだ未熟な十二歳だ。学童にいた六年生男子は許されていた。だからいいんだよ。俺は悪くない。
気づいたらまわりはまっくら!汗でベトベトだ。
そして、おれの右手には黒い水玉も様のパンツがにぎられてる。小学生がはいてそうなパンツだ。
「あははははははははははははははははははは」
とつ然笑いがこみ上げてくる。自分のことを知れた。男にもなれた。
もう、やることはねぇなぁ。
いや、まだやることが残っていた。
あの三人組だ。あいつらをヤってしまおう。
一人でもいいや。もう、時間もない。
そのあとで死のう。
小学生殺人事件の犯人の投稿を発見した。
『ロリコンじゃねぇ、場面的トランスエイジだ』
場面的トランスエイジ 決定 @Kettei
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