第6話  予想外デス

 呆然とするハナ。


「妹はお前と似ているか?」


「疑ったことも無いので、そう言われましても」


「そうか。まあ人間の子なら別に良いじゃないか。この先はお前の産んだ男児が受け継げばよい。次は必ず忘れないように安倍家と契らせなさい」


「は……はぁ」


「葛城家はお前が継ぐのだ。まあシマがそこはなんとでもするから任せておけばよい。それよりもう飯は無いのか?」


「あっ、あります。おむすびにしますか?」


「いや、そのままでよい。それと、口調!」


「あっ! ごめん」


「まあ良い。飯が終わったら伝承文書を教える。今回は教え甲斐がありそうだな。ふふふ」


「オテヤワラカニオネガイシマス」


「ふふふ……」


 ハナが手渡した山もりの白飯を、がつがつと搔き込みながら嫌な笑いを浮かべたおじいちゃんを、ジトっと見ながら溜息を吐いた。


「ああそれと。お前は自分の力のことがわかっていないようだったな」


「ああ、言霊ってやつ?」


「そうそう、それ。口に出したら実現するという力だ。言葉に霊力が乗るのだが、下界は気が淀んでいるから効きにくい。だがここは神界だ。ふとした独り言でも叶うほど気が満ちている。気をつけなさい」


「うん、わかった」


「お代わりだ」


「おじいちゃん。食べすぎ」


「そうか? じゃあ酒。冷でいい」


「糖尿病になっちゃうよ?」


「神は死なんから心配するな」


 ハナは大ぶりな徳利に入った酒を渡しながら、乾いた笑いを浮かべた。


「ははは……私は毎日ここには通ってくるって感じ?」


「神語を習得したら通いでもいいぞ。飯が食いたくなったら呼ぶし」


「習得したら? それまではまた滝の前に行かなくちゃいけないのかぁ」


「神語で移動を唱えれば瞬時にどこへでも思いのままだ。だから神語は必須。それができるまでは住み込みだな。俺はずっとでもいいが、それだとお前が子をなせないからなぁ」


「うっ……」


 木で作ったコップのようなものに、なみなみと手酌で酒を注ぎながら言う。


「お前、彼氏とかいるの?」


「……いない」


「ふぅん」


 流されたことで余計に傷ついた気分になったハナは、さっさと片づけを始めた。

 おじいちゃんは座敷に寝転がってスルメの足をしゃぶっている。

 

「ねえ、おじいちゃん。勉強っていつから始めるの?」


「今日から」


「教科書とかあるの?」


「たくさんあるから心配するな。それより夜は肉が食いたい」


「神様ってお肉食べても良いの?」


「制限など無いさ。お前も欲しいものがあるならシマに言って供えさせろ」


「シマさんとは連絡が取れるんだ?」


「祈れ。通じる」


 ハナはなんだかバカバカしくなって口を噤んだ。

 ふと気付くと、釜を洗っている水が暖かい。

 振り向くとおじいちゃんが慌ててそっぽを向いた。


「ありがとうね、おじいちゃん」


「おっ、おうよ」


 おじいちゃんは案外照れ屋らしい。

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