第8話 パーティ殺し


 問題を起こしてしまったカリーナと、さっき出会った厨二病少女二人で冒険者ギルドの受付にいる職員のお姉さんから説明を受けていた。


 一方の俺は、柱の陰で聞き耳を立てながら見守っていた。


「いえいえ、先の問題のことはお気になさらないでください。Bランクだからと付け上がって色々と問題行動を起こしていたのはシュバルツの方です。ギルドマスターに連絡して事の経緯を説明したところ、今回の騒動は不問にするとのことです」


 冒険者同士の喧嘩はダメという項目はちゃんと規約にあるらしいが、ギルドはカリーナがシュバルツを殴ってしまったことについては目を瞑ってくれるらしい。

 冒険者ギルドの職員が、逆に申し訳なさそうにしていた。


「冒険者カードの剥奪は……?」


「ありませんよ。せっかくのAランク冒険者様を手放すわけにはいきませんし。ガンガン依頼を受注してくださいね」


 職員のお姉さんの目が光っていた。

 あれは仕事を日々愉しんでいる人間の目だ。


 とりあえず仕事場を失わずにすんだことに胸を撫で下ろす。


「だってさ師匠」


 肩をツンツンされて振り返ると、満面の笑みのカリーナがいた。

 もう説明が終わったらしい、早いな。


「なんで柱の陰に隠れているのさ? もしかして陰の住人なのか汝は?」


 そして、何故かいる厨二病少女。

 証人になってくれると言ってくれたが、あの場には元々大勢の目撃者がいたので、必要なかったなこの子。


「ああ、よかった。これで路銀を稼げるな」


「うん、でさ。職員さんから報酬のいい依頼を勧められて、C級の討伐任務だけど師匠と私なら余裕だと思ってね」


 そう言ってカリーナに依頼の内容が書かれた紙を渡される。

 森の中で発生したダンジョンの内部で、対象の魔物を討伐する。


 ダークスライム、ブラックウルフ、ポイズンバッド、5体ずつ討伐すれば報酬は2万ゴルド(1円=1ゴルド)。


 少ないように見えるが、他の依頼と比べたら高額な方だ。

 それにダンジョン内は素材豊富と聞く。


 ついでに素材も集めて、それらを売却すれば今回の依頼はかなりの金になる。


「よし、受けようじゃないか。さっそく準備に取り掛かるとしよう」


「うん! じゃ、私は職員のお姉さんに受けるって言ってくるね!」


「ああ、頼んだ」


 ワクワクした表情で、カリーナは受付へとトコトコ走っていった。

 さっきの恐ろしいカリーナは、やはり別人格だな。


「フフフ、ダンジョン攻略か。左手の封印が疼く、眼帯の裏で神眼も疼く、だが恐るな! 何故なら、このメシアであるボクがいるからな!」


 右手で包帯を巻いた左腕を握って、左腕を眼帯にあてるよく分からないポーズをとる少女。

 そんなに疼くなら、まず病院に行った方がいいんじゃないか?


「……」


「……」


「……アレ、何で何も言わないの? メシアであるこのボクがいるんだぞ?」


 さっきから何を言っているんだ、この子は。

 あ、もしかして、そういう勘違い……。


「あのー、勘違いしているようだから言うけど。君とはパーティを組まないよ?」


「……え」


 変なポーズのまま固まる厨二病少女。

 自信満々な表情が、真顔になっていた。


「で、で、でもボクは……君たちを無罪だと訴え……」


「したけど、ギルド側は元々カリーナを処分する気はなかったし、悪いけど居ても居なくても変わらないというか、なんというか」


「……く……ふ……」


 厨二病少女の目から、大粒の涙がポロポロ溢れる。

 あかん、泣き出してしまった。


「うわああああああん!」


 冒険者ギルドの建物全体に聞こえるほどの泣き声に、思わず耳を塞ぐ。


 この土地でラインベルトの名前があまり知られてない、なおかつフードを深く被っているおかげで闇魔法使いであることをバレる確率は低い。


 だが、三度目の注目を集めてしまったため、慌てて厨二病少女を抱き上げて口元を手で覆う。


「静かにしてくれ! 分かった! パーティに入れてやるから泣くのは勘弁してくれ!」


「フッ、やはりボクが必要じゃないか。もしや、君はツンデレという属性をお持ちなのかね?」


 泣き止むの早いし、ムカつく顔だな。

 やっぱり断ろうかと思ったが、また泣かれると困るので仮加入という段階でパーティに入れて様子見をするとしよう。


「パーティに入れるのはいいが、まだ俺たちは君の名前を知らない。まず自己紹介してくれよ」


 名前も分からない人間を、仲間として迎え入れるわけにいかない。

 そう言うと、中二病少女は顔を上げて「ハハハ!」とうるさく笑った。


「いいだろう! そんなに気になるのなら名乗ろうではないか眷属よ!」


 誰が眷属だ。


「闇より出でし陰、太陽よりも鮮烈な光! このボクこそが、人呼んで―――」



「……おい、アレって」


「ああ、あの女だろ。『パーティ殺しのフラン』」


「おいよせって。あれは事故だって片付けられたはずだろ?」


「でもなぁ、色々とおかしかっただろ。B級の素材採取依頼で、Fランクのアイツだけが生き残った。それだけならいいんだが、ちゃんと素材を持って依頼を達成したんだぞ? どう考えても、報酬を独り占めするために仲間を裏切ったんだろ」


「でもFランクのアイツががCランク以上を殺せるわけが……」


「毒とか罠、色々手段があるだろうが……」


 冒険者の中にある酒場で、冒険者たちが少女に険しい目を向けながらコソコソ話していたが、全部丸聞こえだ。


 どうやら少女の名前はフランらしい。

 だが、パーティ殺しがどういうことだ?

 この子以外がが全滅しただと?


「……」


 スカートの裾をギュッと掴んで、フランは俯いて黙り込んだ。

 彼女も冒険者たちの話しが聞こえたらしい。


「本当のことなのか?」


 なにも云わないフランに、小さな声で聞く。


「違う……ボクは殺してない」


 目を向けず、弱々しい答えが返ってきた。

 それが本当なのか嘘なのか、分からないが。


 さきほどから彼女が、冒険者たちに避けられていたことには気付いていた。

 危険人物のように扱われているのだ。


「そうか」


 フランに近づき、頭に手をのせる。


「え……」


 知っている。

 周りから嫌われることが、どれほど辛いことなのか。


 驚いて見上げてきたフランの瞳は、俺と同じだ。


「依頼の同行を許す。だが正式なパーティ加入は君の働き次第だ」


 そう言って、遠くで見守っていた不機嫌なカリーナさんの元へと行く。

 先日、購入した剣に手をあててこちらを見ていた。


「ふぅん、他の女の子のことも撫でちゃうんだ。ふぅん……」


 他の女性と喋るとカリーナが不機嫌になるのは毎回のことだ。

 こういう時の対処方は、


「大丈夫、俺の一番はカリーナだよ」


「ふ、ふぅん……知っているし、私も師匠が大好きだし!」


 そう言うとカリーナは照れて、すぐに許してくれた。

 そのチョロさのせいで将来カリーナが男に騙されないか心配だ。


「準備は整ったかいボクの眷属たちよ!困ったことがあったらいつでもパーティリーダーであるボクに頼り給え! 神眼で君たちを導いてあげようではないか!」


 うるさかったり、泣いたり、落ち込んだり、色々と忙しい厨二病だなこの子は。

 だけど、まだパーティだと認めていない。


 同情で仮加入させたが、フランが本当に危険な人物なら裏切られるはずだ。

 最後まで警戒を緩めず、依頼をこなしていこう。


「さあ! 出発だ諸君! ハハハハッ!」


 健気な子供のような笑顔を浮かべるフランを見て、やれやれと肩を落とす。


 そんなフランをカリーナは、何を考えているのか分からない顔でジーッと見つめていた。

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