第3話 買い物


「ひッ! 闇魔法使いラインベルトだ!」


「何で、こんなちっぽけな町なんかにッ!?」


 記憶喪失の女の子カリーナとの出会いから3日後のこと。


 子供を歩かせ続けるわけにもいかなかったので、町で休憩を取るつもりだったのだが、相変わらずの反応をされる。

 隣で歩いているカリーナは、不安そうに俺の袖を引っ張った。


 何故、住民たちが俺を怖がっているのか分かっていないからだ。


「なんで……ラインベルトさんを怖がっているの……?」


「……」


 闇魔法。

 世界が使用を禁じている、人を殺めるためだけに編み出された魔法だ。


 このキャラはそれを知っていて、自分の恐ろしさを誇示するために使っていた。

 恐れられるのも無理もない。


 まだ、言い訳ができる段階じゃない。

 だから俺は、人助けをしなければならない。

 いつか俺の行動が、報われるその日がやってくるまで。


「気にしなくていい。周りが勝手に騒いでいるだけだから」


「うん、そうだよね。だってラインベルトさんは私を助けてくれた……優しい人だから」


 記憶がないとはいえ、そう言ってくれるカリーナの頭を撫でる。

 彼女のおかげで一歩踏み出せたような気がした。


「ありがとう、そう言ってくれて嬉しいよ」


 そう言うと、カリーナが顔を染めて顔をそらした。

 え、何で、まだ顔が怖いのかな?





 野営ばかりだと疲れるので、宿に泊まることにした。

 金に余裕はあるのでかなり高めの場所だ。


 チェックインするとき店主に萎縮されたが、金を宿泊代よりも多く出せば、心良く部屋の鍵を渡してくれた。


「フカフカのベッド〜!」


 部屋に入って気付いたことがある。

 ベッドがたった一つしかない、二人いるのにだ。


 ちゃんと店主に確認とってから鍵を受け取るべきだった。


「ラインベルトさん、一緒に寝ようね!」


 だけどカリーナは嫌だとは思っていないらしい。

 会ったばかりの女の子と同じベッドで寝るというの流石に、いや子供だから別にいいか。


「時間は、まだ昼頃か。カリーナ、買い物に行くけどお留守番できるかな?」


「お買い物!? 私も行く!」


 手をピンと伸ばして、カリーナは言った。

 ものすごく行きたそうな顔をしているけど、このまま部屋で待っていてほしいのが本音だ。


 人々が俺に向ける態度には慣れてきたけど、彼女はそうじゃない。


「お願いします!」


 だけど、あまりにも可愛く頼むものなので、承諾してしまった。


 まさか、買い物の途中で事件が起きるとは知らずに――――






 宿代にご飯も含まれているので、俺たちが買いに行くのは旅用の食材と日用品とかだ。


 リストを手に商店街を回るが、なんかほとんどが閉店している。

 人通りも少なく、俺を見るや逃げ出す人間ばかり。


 その時、カリーナは明確に俺が周りから悪い意味で避けられていること理解したのか、泣きそうな顔で言った。


「ひどい、ひどいよ……ラインベルトさん。何も悪いことしていないのに」


「カリーナ……」


 そうだよな、と同意できない。

 ラインベルトは使うことが禁じられている闇魔法で大勢の人間を傷つけてきたのだ。


 カリーナは記憶を失くしているから知らない。俺が転生したあとのラインベルトしか知らない。


「仕方ない、今日は帰ろう」


 買い物ですらロクにできない。

 落ち込むカリーナの手をひいて帰路につく。


「でもカリーナだけは、ラインベルトさんの味方だから。私だけが……」


 そう言ってもらえるだけで嬉しい。

 だけど、いつか彼女の記憶が戻って、なにもかもを思い出したときがお別れなのだ。


 永遠に一緒にいられるわけじゃない。

 いつかは分からないが、近いうちに思い出すかもしれない。

 大変喜ばしいことなのだが、胸のあたりが痛くなる。



「……?」


 道の先に、大勢の兵士が剣を手に待ち構えていた。

 足を止めて、振り返ると建物の陰から次々と同じ格好をした兵士たちが姿を現した。


 カリーナを抱きしめるように引き寄せ、手に魔力を込める。


「なんですかアナタたち。道の邪魔になっているので退いてくだい」


「通すわけなかろう馬鹿が。ラインベルド・クロード、王国から貴様の抹殺命令が出ている。悪いが、大人しくこの場で処刑されてくれ」


 一番偉そうな兵士がそう言って、ニヤリと笑った。

 王国からの命令という言葉に驚きながらも、戦闘態勢に入る。


 腕の中で震えるカリーナを見て、手に込める魔力を強める。

 俺が選択を間違えたから、彼女を危険にさらしてしまった。


 人助けをすることは立派だが。

それよりもっと大切なのは、自分が守りたいと思った人を命をかけても守ること。


「そうか、なら死ぬ気でこいよ?」


この世界で、初めて他人に向けた殺意だった。

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