ファーストフード店でのひととき

「あつっ」


 ピロー型の箱のふたを開けて、少しだけ苦戦しつつ中のパイを口元に運ぶ。一口齧ると思っていたよりも熱くて、思わず落としそうになってしまった。

 気を付けてパイを一旦トレイの上に戻し、冷たいお茶で口の中を冷やす。


「大丈夫?」


 向かいに座るなずなに気遣う視線を向けられて、茜は軽く苦笑しつつ頷いた。

 パイは冷めるまで少し待つことにする。


「茜、ポテト食べる?」

「うん、ありがとう」


 横に座る柚香からポテトを差し出され、つまませてもらう。適当に取った一本は思ったより長くて、一度には口に入らない。

 茜がちまちまとポテトを食べている間に、柚香は豪快にハンバーガーにかぶりついていた。たまごが挟まった、期間限定の月見バーガーだ。


 柚香となずなと一緒に買い物に出かけた帰り、小腹が空いたという柚香の提案でファーストフード店に寄り道をしていた。

 期間限定のものにはつい惹かれてしまうので、茜となずなは限定のスイーツ一品とドリンクのみを注文したのだが、柚香はがっつりとセットメニューを頼んでいた。少し前にお昼を食べたばかりだというのに。


「相変わらずたくさん食べるね〜」

「だってお腹空くんだもん。なずなもポテトいる?」

「ん、もらう」


 和風なソフトクリームのデザートを食べていたなずなが手を止めて、ポテトに手を伸ばす。茜ももっと食べていいよと促されたので、再びつまませてもらう。今度は短いポテトだったので、一口で口の中に入れてしまう。


 一緒に暮らす夏癸はジャンクフードの類をあまり好まないので、彼とこういう店に入ったことはほとんどない。茜はいうと幼い頃から母とともに時々食べていたので親しみがあった。

 夏癸が作ってくれる栄養バランスを考えた美味しいご飯はもちろん好きだけれど、友達同士でファーストフード店で過ごす時間も好きだ。


 少し冷めて食べやすい温度になったパイに改めて口をつける。

 ほんの少し塩気があるさくさくのパイ生地の食感と、柔らかいお餅と餡子の優しい甘さがほどよく合っていて美味しい。


「そういえば、そろそろ中間テストだよねー」

「やめろー思い出させるなー!」


 なずなが何気なく口にした一言に、柚香がすぐさま顔をしかめる。

 茜は口の中のパイを飲み込んでから、苦笑混じりに口を開いた。


「うちでまた一緒に勉強しよう?」

「うん、お願い。今回英語と数学と理科と社会がやばい」

「いや、ほとんどじゃん。でも私も数学はマジでやばいかも……」

「数学の範囲難しいよね。なずなちゃんも一緒にやろうね」

「うん。塾ない日なら行けると思う」

「そういえば、昨日部活でさ――」


 他愛のないおしゃべりをしているうちに楽しい時間はあっという間に過ぎてしまった。

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