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「くさったメロンくださーい!」
健太は前のめりになる。
店主も、その場に居合わせた数人の客も、あまりの大音量と意外な言葉に、一斉に健太の方を向いた。
「えっ! 坊や。腐った……?」
「そうだよ。くさったヤツだよ!」
得意げに胸を張る。店内から客の笑い声が漏れてくる。が、なぜ自分の方を見て皆笑っているのか分からない。
「坊や、うちはね、腐ったメロンなんて置いてないんだよ」
店主は笑いながら健太の傍へ歩み寄ると、中腰で健太の目線になった。「ねえ、どうして腐ったメロンなの?」
「コレ!」
健太は茶色に変色したバナナのひと盛りを指差した。「このバナナくさってるでしょ。だから、まっきいろのバナナよりやすいじゃないか。だから……」
「ああ、そういうことか。ねえ、坊や。これはね、腐ってるわけじゃないんだよ」
「これ、くさってないの?」
「そうだよ。腐ったものはお店には置かないんだよ。食べられないからね」
店主の顔を見つめながらいっとき考えると、鮮魚店を指差した。
「くさってもタイって言ってたよ。ウソなの?」
「参ったなあ……」
店主は帽子を脱いで頭を掻き掻き、笑いながらしかめっ面をする。
その様子に、いけないことを言ってしまったのだろうか、と健太の胸は痛んだ。
「じゃあ……くさったメロンも……ないの?」
「そうなんだ。そんなメロンもないんだよ。それにね、うちは季節の果物しか置かないから、もうメロンは……来年にならないと……ないんだよ」
「えっ! メロンはないの?」
「ごめんね」
店主は健太の頭を優しく撫でてくれた。
「ちょっとご主人、いいかしら?」
店の奥から、甲高い女性客の声が健太の耳に飛び込んだ。
「はい、ただいま!」
店主は威勢のいい返事をすると、その客の方へと小走りに、健太の目の前から消えてしまった。
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