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「オレは無実だ! 不当逮捕じゃねえか!」

 容疑者は声を荒げ、激しく机を叩いた。

「証拠は挙がっています」

 穏やかな口調で警部補は微笑む。

「あるわけねえ、何もやってねえ!」

「窃盗、恐喝、強盗、強姦、殺人未遂。身に覚えがあるはずですよ」

「フン、ねえよ。見たヤツでもいるのかねえ……」

 容疑者はそっぽを向いてうそぶく。

「目撃者などいませんよ」

「ナニ! そんじゃ、何でだ? あっ、誰かがタレこみやがったな。それを鵜呑みにしたのか、そうだろう!」

「いいえ、誰も」

「抜け抜けと……じゃあ、何でオレを逮捕出来る?」

「証拠は挙がってます、と申し上げました」

「だったら、その証拠とやらを拝ませてもらおうじゃねえか!」

 警部補は徐に立ち上がった。鏡の前まで歩み寄ると、容疑者に手招きする。

 容疑者はふてぶてしい態度で舌打ちすると渋々従って鏡の前に立つ。

 鏡は容疑者の姿を映し出した。

 と、鏡を覗き込み、しばらく己の姿を見つめたのち、また舌打ちして横に立つ警部補を睨みつけながら詰め寄った。

 私はいざという時のため、身構えながら成り行きを見守った。

 警部補は鏡の下のセンサーに素早く手をかざす。一瞬で指紋と静脈を読み取り、鏡の向こう側の光景が目の当たりになる。

 突然、音声が響いてきた。隣の取調室から発する声だ。

 容疑者の顔色が変わった。不安げに隣室の様子を食い入るように見つめる。

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