春乃光

プロローグ

 途中下船して小舟にのりかえた。

 苦楽を共にしてきた家族との旅路が胸に去来し、たったひとり、遠ざかる船影を見送りながら、切なさと寂しさにさいなまれた。

 ──娘の手を取って引き寄せ、抱き締めてやりたい!

 ──全身全霊で守ってやりたい!

 願望は海の藻屑もくずと消え、手を差しのべることは到底できはしないのだ。

 家族をのせた船は、沖へ沖へと次第に小さくなり、やがて視界から消失した。

 嘆き、叫んでも声は届かない。この、母の思いは最早伝わらない。

 やるせない刹那を、取り残された小舟の上で耐えなければならない。小舟で大海原をゆかねばならない。

 死出しで道行みちゆきを嗚咽しながら、娘の無事を私は祈った。祈ることだけが、せめてものはなむけなのだ。残された者へのせめてもの……。

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