山の音がきこえる
笠井 野里
山の音がきこえる
山の音は未だ聴こえず、ぼくはつまらない顔して、階段を登り神社に行き、一礼二拍手。五円を二枚投げ入れて、やはり鎌倉の死のようで、死ではないただ物悲しいだけの無骨な静寂に耳を澄ませていた。
ザクザク。と足音がする。そして少しの喋り声。
「静かだねー、ここは」
「ねー」
後ろを振り向くと、セーラー服と学生服が四人。修学旅行生だった。
ぼくは青春の邪魔をしないように、息を殺すようにした。ぼくは、彼らの青春に居ていい存在ではない。
集団のざわめきが聴こえる。孤独なぼくにささくれ立つような感覚。
「すみませーん」
ぼくに向けられたであろうその声に振り向くと、青春たちの一人がこちらによってきた。眼鏡をかけた少年。昔のぼくを思い出す
ぼくは立ち止まり、最近めっきりやっていない、ほほえみの顔を作る。それに
「写真、撮ってもらってもいいですか?」
と
「いいですよ」
と、ひん曲がった
スマートフォンを両手に少し
「もっと笑ってぇー!」
ぼくの声で少し崩れた彼らの笑顔にいいねいいねと言いながら、スマートフォンの、カメラの白丸をタップする。
カシャリ、鎌倉のあたりを囲む険しい山々に音が響いた。
「はいもう一回、いくよー! ハイ、チーズ!」
カシャリ、スマホの画面が青春を写す。
「これでだいじょぶそ?」
ぼくは眼鏡の彼にスマホを渡し確認をさせる。彼はほほえみ、ダイジョウブですと答えた。
ぼくは安堵の表情をしながら、よかったとほほえみを返し、階段に向かってゆく。
「ありがとうございました!」
眼鏡の彼のお礼にぼくは手をひらひら振りながら、
「修学旅行、楽しみなよ」
と、先輩風を吹かす。
「ハイ、ありがとうございます」
という四人の声が後ろから聴こえた。
ぼくは行きとは違う明るい気持ちになりながら、階段を下ってゆく。下には古都鎌倉の、ため息つくような
ぼくは、山の音を聴いたな、と満足げに
山の音がきこえる 笠井 野里 @good-kura
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