第15話 コラボ配信 part2

今日の配信にスタッフは同行していない。

もう失いたくないという感情と、なによりも……


「――電磁砲レール・ガン


「ギェ!!」


魔術を行使したリナの手元から、電気の塊が射出される。

バチバチと周囲に火花を散らしながらそれは対象に直撃、煙の中からは黒焦げになった肉塊が姿を現した。


彼女という存在がそうさせた。

なにせ彼女のランクはMeiriaの中でもトップであり、ランクBはあのカシマさんと同じランクなのだ。

今日来ているダンジョンが推奨Dランクということもあって、マネージャーも納得したという訳である。


「つっても噛み応えがねえなあ、ここ」


「すいません。私のランクとの兼ね合いで、ボスまで行くならここしかなくて」


低層階で配信するならともかく、ボスまで行くとなれば推奨ランクに従わざる負えない。

そういう理由により、彼女の実力の数ランク下のダンジョンにわざわざ同行してもらったのだ。

申し訳なさそうにする結花であるが、それに対してリナは思いっきりたじろいだ。


「ああ!すまん!そういう意味で言ったわけじゃなくてだな!その……何と言うか、やっぱりこう配信映えみたいな……」


:あーあリナちゃんやっちゃったー

:先生(運営)に言ったろ~

:ユイカちゃんかわいそ~


「だああ!!ごめんユイカ、傷つけるつもりはなかったんだ、この通り、悪かったよ。……だけどお前らは許さんからな」


「ちょっと!!顔上げてください!!私別に何とも思っていないので!」


深々と頭を下げてきたリナに、今度は結花の方がたじろいでしまう。

本当に何とも思っていない、自分のせいなのだから彼女が何か責任を感じる必要はないのだ。


「そういや、ユイカってMeiria入って何か月経ったんだっけ?」


「今月で確か……5か月目だったと思います」


「もうそんな経ったのか、周りの奴らとは馴染めたか?」


「はい!皆さん優しい方ばかりで、いつも先輩たちには助けてもらってます」


「そっか、それなら良かったよ」


他愛もない会話をしながら、淡々と上層階へ登っていく。



「――電弾エレキ・ショット


「グア!!」


――やっぱり強いな、この人……


またリナによって倒されたモンスターを見ながら、結花は痛感していた。

彼女の索敵から魔術の行使に至るまで速度は結花と比べ物にならない。

現に結花が敵を視認した時には、もうリナが討伐してしまっていることがほとんどだ。

従って結花は今の所何もしていない。


――私も……頑張らないと……


進むと決めた、彼女に並ぶと決めたのだ。

今は比肩することすらおこがましい相手だが、いずれはそうなると心に刻んだのだ。

そしてこの配信はその一歩にするとも自分に誓ったのだ。

その足掛かり、純然たる疑問として結花は一つの問いを彼女にぶつける。


「――リナさんは……どうやってそんなに強くなったんですか?」


「んーそうだな。……いろいろあると思うけど、俺は精神的なモンがでかいと思う」


「精神……」


「そう。誰かを守りたいとか、誰かを超えたいとか、そうなりたいって強く思うことが人を強くするんじゃねえかな」


「なるほど……」


彼女にも誰かを守りたい、そう思ってがむしゃらに進んだ時があったのだろうか。

そう考えると、自分の遥か先にいると思っていた彼女との距離が少し縮まったような気がした。

彼女も悩み、苦しみ、強くなったのだ。

自分も近づいていけるのではないか、そう思えたのだ。


「なあユイカ、後ろにいるモンスター狩ってきてくれねえか?多分100m位後ろにいるやつ」


「そんなとこまで気配でわかるんですね。分かりました!行ってきますね」


そんな彼女から託された依頼に、結花が断る理由など無かった。

気付きもしなかったが彼女が言うのであればきっとそこに敵がいる、そう思って踵を返すと指示された方向へと進んでいく。

その時だった。


「――磁界操作マグネット・コマンド


彼女は唐突に魔術を行使する。

途端結花と彼女の間に、側壁から削り取られて来た瓦礫が壁を作った。

完全に分断された形だ、これが示す事態は一つしかない。


「どうしたんですか!!ねえ、リナさん!!」


急いで走り寄って、瓦礫の壁を叩いて叫ぶ結花。

きっとただ事じゃないのだ、彼女が言葉足らずに結花と別れようとするなんてあり得ない。

何かから結花を庇おうとしている。

そしてその構図は結花が最も嫌うそれにあまりにも重なるのだ。


「――逃げろ!!!」


何度目だ、本当に何度同じ声を聞けば気が済むのだろうか。

彼女の切羽詰まった離脱の命は、立ち直りかけた結花の心をぽっきりとへし折ったのだった。








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