第13話 コラボ配信 part1

「逃げ……て、必ず……生きてね」


「――止めろ!!」


目の前で彼女が彼女だった何かに変わっていく瞬間。

肉塊と化した少女は、辺り一面を真紅に染め上げていく。

それを見届ける中畑 里奈の表情は絶望に満ちていた。


「私のせいだ……私が……ああああああ!!」


苦しい、苦しい、苦しい。

私にもっと力があれば、私がもっと強くあれば、君の手を取れたはずなのに。

届かなかったその距離はあまりに近くて遠い、のうのうと生きてきた自分が憎くて堪らない。

踏み出す一歩、その足は沼にでも沈んでいるかのように重い。

だが逃げなければいけない、彼女の遺した言葉はある種の呪いだった。

言葉にならない感情を吐き出して、一歩また一歩と歩を進めていく。


「……ごめんなさい……ごめんなさい」


後ろで絶えず響く轟音に紛れて、届かない謝罪が口から零れ落ちていた。



「――あぁ!!くっそ!!」


ベッドの上、里奈は目を覚ました。

その様相はお世辞にも健康的とは言えず、ひどい寝汗がベッドに染み付き、飛び起きた彼女は異常なまでの動悸に襲われている。

定期的に見るこの夢は、彼女の過去の話だ。

一番忘れたくて、一番忘れてはいけない話。

その背負った業は、今でも彼女を苦しめ続けている。


「なあ……いつまで引きずってんだよ、私」


いつの間にか目からあふれ出したものをぬぐって、自分にそう言い聞かせる。

もう先に進まないといけないのに、彼女の後ろ髪は何時までたっても引っかかったままなのだ。


「行かなきゃ……」


今度こそ誰も失わないように、そう心に決めたのだ。

そんな覚悟を再確認し、リナはユイカの元へと向かった。


=======

「皆さーん!!聞こえてますかー!!」


:聞こえてるよー

:大丈夫!

:バッチリだよ


場所は都内のとあるダンジョン、快活明朗な声が一階層のフロアにて発せられる。

その声の主、一ノ瀬 結花は飛んでいるカメラに向かって手を振っていた。


「お!良かった、良かった。じゃあ……初めましての方は初めまして!そうでない方は……ごめんなさい、お久しぶりです!Meiria所属ダンジョンアイドルのユイカです!そして……」


「リナだ、よろしくな」


:えええええ!!

:マジ!?

:落ち着けまだそっくりさんの可能性もある


はきはきとした挨拶に続いて、対照的な声と共にフレームインしてくるのは、見た目も対照的な女――リナだ。

機能性とアイドルらしさを追求した、Meiriaの正装であるアイドル衣装を身に纏っている結花と異なり、リナの格好といえばタンクトップにショーパンとほぼ部屋着の様なものだ。

本人曰くアイドル衣装は似合わないし、動きづらいらしい。


「今日はこの二人で、ダンジョン攻略していこうと思います!」


「パパっとボス倒して帰ろうぜ」


:リナがほかのメンバーと同じ画角にいるの久しぶりに見たわ

:奇跡を見た気がする

:今度リナをダンジョンで見るのは何か月後なんだろうか


コメント欄はリナがいることへの驚きで埋まっている。

それもそうだ、なにせ彼女はMeiriaに在籍しながら飲酒配信と雑談配信がメインであり、アイドルらしいことをほとんど行っていないのだ。


そんな彼女がダンジョン配信、しかもコラボとくるのだからその驚きもひとしおどころではないことは容易に想像できる。

なにせ今コラボをしている結花自身ですら、未だに現実感がないのだ。


――久しぶりに来た気がする……


周囲を見渡しながら、しみじみとそう思う。

あの一件があって以降、結花の配信頻度はぐっと落ちた。

少しずつ前を向こう、そう意気込んではいたがやはりダンジョンというものに対する恐怖心がこびりついていたのか、雑談であったり歌枠であったりダンジョンとは無関係のものしかすることが出来なかった。

今日だって、彼女がいなければここで配信を出来ていなかっただろう。

だから、


「今日は誘ってくれてありがとうございます!私足引っ張らないように頑張りますから!」


「あー、別に俺がやりたかっただけだからいいんだよ。気合い入れずにゆるく行こうぜ」


ありったけの感謝を伝える。

このままではいけない、いずれは向き合わないといけない。

結花の中であったそんな感情に、彼女は手を差し伸べてくれたのだ。


見てくれはあんな感じだが、彼女はそれと対を為すような優しさを持っている。

結花が彼女を接しやすいと思っている理由の一つがそれだった。


:リナが誘ったってマ!?

:明日大雪か?

:勘弁してくれ俺ら明日死ぬんか?


「――うるせえなぁお前ら!別に俺が誘うことだってあるだろうが!」


そんな結花の気持ちもつゆ知らず、リナは視聴者とプロレスを始めていた。


視聴者の人たちは、よっぽどリナが自発的にコラボを誘ったことが信じられないらしい。

そんな彼らに腕まくりをして臨戦態勢をとるリナを「まあまあ」となだめ、


「――とりあえず先に進みましょう!」


「……命拾いしたな、お前ら」


結花達はダンジョンの奥へと進んでいくのだった。


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