アリスは異種族通訳者! ~転移してしまった落ちこぼれ魔術師、異種族通訳者として覚醒す~
わさびもち
転移、そして覚醒
「あ。 アリスさん? 明日から貴女学校に来なくていいから」
「……は?」
呼び出された校長室にて無慈悲にも告げられたその言葉に私は耳を疑った。
ええと……明日から学校に来なくていい?
私の耳がおかしくなければ確かにそう聞こえたはず……。
「それは……『もう私たちからお前に教えることは何も無い!』という意味でしょうか?」
「……どう好意的に解釈したらそうなるのよ!? 落第よ、らくだい!」
「ですよねぇ……」
腰ほどまで伸ばした銀髪を揺らしてがっくり。
校長さんによって手渡されたのは前年度の私の魔法大学においての成績だった。
ううん……知ってはいたけれどやっぱり低いなぁ。
「去年は温情で落第を回避してあげたけど……流石に今年はもう無理よ。 貴女はこの魔法大学における卒業基準を満たせなかった」
「……あ! そういえば退学とか落第する人には、仕事が斡旋されると聞いていたのですが……そういった筋のお話はないのですか?」
「ないわね。あまり言いたくはないけれど……全部断られたわ」
「何でですかっ!? この魔法大学ってかなり高名だったはずでは!?」
「貴女のレベルがこの学校を中退した人達に比べて圧倒的に低いのよ! だから何処も全部断られたのよ!」
「そんなバカなッ!?」
あまりの残酷な現実にそのままゴロゴロと転がりたくなるが……その衝動を何とか堪えた私は今一度校長に向かい直る。
「時に校長さん。 ひとつお願いがあるのですが……」
「……何かしら? 私だって少しは力になってあげたいと思ってるから……」
「裏口入学っていけますか?」
「……帰りなさい。 明日までに荷物をまとめて出ていくのよ? 分かった?」
……あ。 やっぱりダメだった。
私は最後に「ふーんだっ! どーせ誰も私なんて求めてないですよー!」と不貞腐れながらの捨て台詞を披露し、校長室を後にするのだった。
★
「はぁ……もうやってられないよ……」
夕暮れ時の路地裏で私はひとり愚痴る。
あれから寮に戻ったものの、私物らしい私物は殆ど無いので荷造りはすぐに終わってしまった。
それにしても……本当にこれからどうしようかな?
「『人類は更に一歩前進した。 エルフ族との交流成功なるか!?』……か。 景気がいいことで。 というか、魔族の言葉が分かる人だなんてひと握りなんだから、そんな事よりも浮浪者を助ける事とかに注力してよ!」
風に煽られて飛んできた新聞を読みながら悪態をつく。
世の中の景気が良くなったのは何も悪いことではない。
だがしかし、私がこうして路頭に迷っているというのに何もかも上手くいった連中がいると思うと……正直言って腹立たしいのだ。
まぁ……私自身、うまくいかない原因のひとつでもあるのだけれども……。
「はぁ……お金は貯金がそこそこあったから良かったけど……。 家には帰りにくいなぁ……」
数十年前に人類が魔族との戦いを終了し、お互いが過干渉を避けるようになってからというもの、それまで戦いの道具としか考えられていなかった魔術が生活に密接したものへと変わった。
今では魔導技術の発達により、火を起こすことも水を出すことも出来るし、遠くの人と会話することもできる。
それだけでなく空を飛ぶことや、地中深く潜ることだって可能だ。 ……私はできないけど。
そして……極めつけに誰もが扱えるようになった魔術によって様々な分野への応用が可能になったのだ。
日々生活水準が向上し続ける現在で、魔術という勝ち馬に乗るしかない、と考えた私は親の反対を押し切って家を飛び出し、魔法大学に入学したのだが……。
「まさかこんなことになるとはなぁ……」
私はもう一度ため息をついて手に持った杖を見る。
「はぁ……でも仕方ないか。 親にしっかりと話してみよ」
私は浮かない気分ながらも杖を振る。 すぐに私の足元に魔法陣が現れ、そこから光の柱が立ち昇った。
これは転移魔法の類いで、自分の行きたい場所へ一瞬にして移動できる便利なものである。
しかし、半ば自暴自棄になっていた私は忘れていた。
この魔法は非常に精密なもので、転移先の座標をしっかりと把握していないと失敗してしまうことを……。
「…………ん? ここは一体……」
眩い光が収まると同時に、目に飛び込んできた光景を見て唖然とする。
そこは見渡す限り広がる森の中で……しかも見たことのないような植物が生えており、明らかに人里離れた場所であることが分かる。
「うわっ! 何これ!?」
突如として現れた大森林を見て叫ぶ私だが……ここでハッとする。
もしかしてここが転移先なのかと。
「えぇ……何でこんなところに来ちゃったの?」
とりあえず辺りを見回したが、近くに人の気配は全く感じられなかった。
「とにかく誰かいないか探さないといけない。 このままじゃ野垂れ死んじゃう」
私が歩き出そうとしたその時……近くの茂みからガサリ、と音が聞こえた。
「ひぃっ!?」
突然の出来事に思わず尻餅をつく。
心臓がバクバク鳴って煩いが……音の正体を確認しようと恐る恐る近付いてみると……そこには小さな女の子がいた。
「に……人間の女の子?」
どういう状況なのかは分からないけど……歳はまだ10にも満たないであろうその少女は、艶やかな長い黒髪で可愛らしい顔をしていた。
しかし、着ている服がボロ布を纏っているだけで靴も履いてなく、何より驚いたのはその全身に青黒いアザがあることだった。
「君! 大丈夫!?」
慌てて駆け寄るとその子はゆっくりと顔を上げる。その瞳は虚ろだった。
「お姉ちゃん……誰?」
「私はアリス。 あなたは?」
「分からない……」
「……? どういうこと?」
「わたしは……生まれた時からずっとひとりだったから……」
状況はよく分からないけど……何か訳ありなのだろう。
「……そっか。 よしよし、辛かったね…………ん?」
少女を抱き寄せた私は、その長く美しい黒髪の下に隠された耳の違和感に気がついた。
「…………お姉ちゃん? どうしたの?」
それは……分かりやすく尖った耳。
私が人間だと思い込んでいた彼女は紛れもなく、私達人間とは言語の違うはずのエルフの少女であった。
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