涙の味

ミハネショウジ

本編

「こんなところで、どうしたの」

 若い男がコーラを片手に少年に話しかける。少年は海を見つめながら立ち尽くしていた。

「海を見ると…なんか懐かしい気持ちになるんです。何故かは分からないけど」

「…そうなんだ」

 少年は男からコーラを受け取り蓋を開け、少しずつ飲み始めた。


「あー…しゅわしゅわする」

「どう、おいしい?」

「うん…まあ」

 これ、どこかで飲んだことある気がする。1回も飲んだことがない飲み物なのに、何故か覚えている。いつ?どこでこれを?

 少年の手からコーラの缶が零れ落ちた。そのまま向こうの出店に向かって行く。男も後を追う。


「あれ?もしかしてラムネの方が好きだったかな?」

 少年はじっとラムネの瓶を見つめる。自分の覚えてる限りでは見たことの無い飲み物だったが、海のように綺麗な青色だったので不思議と引き込まれる。

 男はラムネを1つ買って蓋を開け、少年にやった。


 少年は時折瓶で海を透かしながら飲んだ。中身を飲みながら少年は男にある疑問をぶつけた。

「俺、なんで何も覚えてないの?」

「ん?」

「気付いたらあんたと一緒にいたんだ、その前の記憶なんて無い。あんた、誰?」


「…君ね、1回死んでるんだよ」


「去年君はこの海で溺れて死んだんだよ。でも暫くして死体が消え去った…何故だと思う?俺が持ち帰って色々弄ったんだよ。そして海まで持ってきたらいきなり君が動き出してさ。びっくりしたよ」

「俺死んでるの?」

「今はギリ生きてるけど死んだも同然。家族も友人も怖がって近づかないし、君と会話を交わすのは俺だけ」


 少年はラムネを飲み干した瞬間、全てを思い出した。

「じゃあもう誰も、俺の事覚えてないんですか?」

「記憶にはあるけど忘れようとしてるんだ。昔からいなかったようにね」


「ふぅん…俺死んでたんだ…知らなかった」

 少年が声を震わせながら呟く。

 炭酸の強いラムネは涙の味がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

涙の味 ミハネショウジ @38ne44

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ