第12話 村への帰還と勘違い
そろそろ森を出られるかなという頃に、わたしの腕の中にいたココが身じろぎをして、ゆっくりと目を覚ました。
「ふわぁ、寝ちゃってた?」
「うん。ぐっすりだったよ。力を使うといつも寝ちゃうの?」
「うーん、いつもはそんなことないんだけど、フィオレがいたからかな……」
そんなことを言われたら注意することもあまりできず、わたしはココの頭を指先で撫でる。
「森の中で寝るのは危ないからね」
「うん。気をつけるよ」
ココはわたしの言葉に頷くと、伸びをするように羽を伸ばして目の前に飛び立った。そして肩の上に着地すると――驚いたような声を上げる。
「何これ!?」
宙に浮かぶファイヤーヒヒに驚いたみたいだ。
「倒した魔物を村に持ち帰ろうと思って、重力魔法と風魔法で浮かべてるの」
「ふぇ〜、フィオレ、凄いね」
ココは感心したような声音でそう言ってくれて、わたしはなんだか擽ったくなる。
「ありがと。でも五匹が限界だったんだ」
それ以上運ぶと、途中で魔物に襲われた時に余裕を持って対処が難しいと判断してやめておいた。重力魔法もかなり魔力消費が激しい魔法なのだ。
「五匹でも凄いよ!」
そう言ったココはわたしの肩から飛び立ち、今度は頭の上に止まる。
「僕の定位置はどっちがいいかな。フィオレはどっちの方が大変じゃない?」
「ココは軽いから、わたしはどっちでも大丈夫だよ」
「そっか……じゃあ肩にする!」
そう言うと肩に降り立ち、そのすぐ後に顎下あたりに柔らかな感触を感じた。ココが頭を擦り付けてきたみたいだ。
その仕草を想像するだけで胸がギュッとなり、ココを抱きしめたい衝動に駆られる。本当にココって可愛い精霊だよね……。
それにしても、村ではココのことをなんて説明しよう。ずっとわたしの肩に乗ってる小鳥なんて不自然すぎるし、ココは動きが鳥らしくないから凄く目立つはずだ。
色合いも特殊だし……もう精霊って話しちゃった方がいいかな。深淵の魔女だってことも話してるし、精霊の存在が増えたぐらい大きな問題じゃない……よね?
「ココの声って他の人にも聞こえる?」
「もちろん聞こえるよ?」
「そうだよね」
それならやっぱり隠すのは無理かな。ココに人前で話さないでって言うのは、さすがにココが窮屈すぎる。もう開き直って皆に紹介しよう。
わたしの居場所や精霊と契約したことが、王宮にバレたらって心配は少しあるけど……その時はその時だ。
どこに住むのかなんてわたしの自由だし、そう大変な事態にはならないよね。一部の貴族はわたしの存在が気に食わないみたいだったし。
そう結論づけたところで、そろそろ村が見えてきた。
「ココ、あそこに見えるのがわたしが住んでる村だよ」
「あっ、見えた!」
ココは嬉しそうに肩から飛び立って、わたしの頭上をぐるぐると回る。今まで森の中でずっと一人で寂しかったのなら、たくさんの人に紹介してあげよう。
「そうだココ、好きな食べ物はある? あと食べられないものとか」
「うーん、食べられないものはないかな。好きなものは甘い木の実とか果物!」
甘い木の実に果物ね……それなら村でも問題なく手に入るけど、甘いものが好きならケーキとかも好きじゃないのかな。材料が手に入ったら、今度作ってあげよう。
あっ、ケーキじゃなくてフルーツタルトもいいかも。後はドライフルーツを練り込んだパンもありかなぁ。
ココが喜ぶ様子を思い浮かべてレシピを考えるのは凄く楽しくて、思わず頬が緩んでしまう。誰かのために料理をするっていうのも久しぶりだ。
そうしてわたしが甘いレシピに思考を飛ばしていると、不思議そうな声音で呟かれたココの声が聞こえてきた。
「ねぇ、フィオレ。なんだか村の人たちが焦ってるみたいだよ?」
その言葉に顔を上げてみると、確かに門番の男性が慌てて武器を持ち、物見櫓でもバタバタと動く人たちが見える気がする。
何があったんだろう。もしかして魔物でも見えてる?
そう考えた瞬間、魔物の襲来など緊急事態を示す鐘の音が響き渡った。それを聞いた瞬間にわたしは周囲を魔法で索敵するけど、特に魔物を発見することはできない。
わたしが気づいてない敵がいる? それとも皆が何かを勘違いしてる――
そこまで考えたところで、信じたくない事実に思い至った。
「もしかして、このファイヤーヒヒが原因!?」
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