第11話 精霊の能力

 契約は一瞬で終わったけど、ココとの間に繋がりができたような不思議な感覚があって、わたしは嬉しくてココの頭を指先で軽く撫でた。


「ありがとう。これからよろしくね」

「うん!」

「ところで、ココはどんな能力を持ってるの?」


 精霊には多種多様な、人間にはない能力が備わっているという話は有名なのだ。

 なので軽い世間話程度のつもりで、ココの能力を聞いてみたんだけど……ココはさっきまでの楽しそうな雰囲気を一瞬にして萎ませてしまった。


「ご、ごめんね。嫌なら答えなくても……」


 答えなくてもいい、そう言おうとしたらココは首を横に振って、さっきまでよりも小さな声で答えてくれる。


「……僕は植物の成長促進と、効能を高めるぐらいしか出来ないんだ。で、でも、もっと成長すれば色々できるようになるはずだよ!」


 そう必死に言い募るココだけど、わたしは現在の能力だけで十分に驚いていた。

 だって植物の成長促進や効能を高めるって、確かに攻撃魔法のような派手な凄さはないけど、かなり有用な能力だ。


 特に辺境の村のような自給自足に近い場所では、畑の成長度は人々の暮らしに直結する。


「ココ、凄い能力だね」


 本心でそう告げると、ココは少しの間だけポカンと呆気に取られた様子で固まり、すぐに照れたのか羽を無駄に動かし始めた。


「そ、そ、そうかなぁ。えへへ、そんなことは、ないと思うんだけど」


 わたしはそんなココを見て、内心で悶えていた。


 この子、なんて可愛いんだろう……!


「ううん、凄いよ。今度ココの能力を見せてね」

「もちろん! 今見せようか? 小さい花を咲かせるぐらいならできるよ」


 わたしに褒められて興奮している様子のココは、手のひらの上からふわっと飛び立つと、羽を細かく動かしてわたしの目の前に留まる。


 その動きがまた可愛くて、さらに癒された。


「じゃあ……そこにある小さな蕾を咲かせられる?」


 よくある雑草の蕾を示すと、ココは元気よく頷いて蕾に向かって飛んでいった。そして地面に降り立ち、背が低い雑草の蕾を嘴で軽くつつく。


 するとその瞬間――淡い光に包まれた蕾は、可愛らしい花を咲かせた。わたしはその光景に驚き、すぐに動くことができない。


「えへへ、どうかな? まだ全然力は強くないんだけど、このぐらいならできるよ」


 そう言って嬉しそうにわたしのことを振り返ってくれたココに、慌てて口を開いた。


「す、凄いよ……!」


 ココを手のひらに載せて持ち上げると、ココは羽を器用に動かして、照れた様子で頭を掻くような仕草をする。

 普通の鳥には到底できないだろう動きに、改めてココが精霊であることを実感した。


「こんなに褒めてもらえるなんて、思ってなかったな。フィオレは優しいね!」

「ううん、ココの力が凄いからだよ」

「ありがと。……でもちょっと、疲れちゃったかも」


 ココはさっきの蕾を咲かせたことで力の大部分を使ったのか、わたしの手のひらの上に座り込む。そしてトロンと眠そうに瞼を動かした。


「能力を使うと、しばらく休まないとダメなの?」

「そう。ちょっと休めば回復するよ。今の僕はフィオレと契約したから、すぐ回復するはず……」

「わたしと契約したから?」


 それが力の回復になんの影響があるのだろうと首を傾げると、ココから驚きの事実を告げられた。


「そう。契約すると、フィオレから僕に少しずつ魔力が流れてくるから、それによって回復が早くなるんだぁ」


 眠そうにゆったりとした口調で告げられたけど、それって契約前に言うことじゃない!?


「ココ! それってわたしに悪影響ないよね? たとえば魔法が使えなくなるとか!」


 慌てて聞くと、ココは呑気に答えてくれた。


「大丈夫だよ。そもそも精霊がもらう魔力量が、その人の自然回復量を上回る場合は契約できないし、何よりもフィオレの自然回復量は凄いから……減ったことを全く感じられない程度だと、思うよ〜」


 それぐらいなら……問題ないかな。わたしは安心して、体に入っていた力を抜いた。


「はぁ……ココ、大切なことは先に言わなきゃダメだよ?」


 自由な精霊なんだからと思いつつ、そんなココのことを強く怒ることはできない。わたしって明確な悪意がない人には、本当に弱いんだよね……。


 自分でも分かってるけど治せない。それもこれも、わたしに世話を焼かせ続けてたディアナさんのせいだ。ディアナさんに会うことがあったら、文句を言わないと。


 真紅の魔女という二つ名に相応しい豪奢な赤髪を思い浮かべながら、わたしは決意した。


 すると今にも眠りそうなココが、ぼんやりとした声音で告げる。


「魔力をもらう代わりに、僕がたくさんフィオレを助けるからね〜……」


 そう言って完全に瞳を閉じてしまったココは、とても可愛らしい寝顔だ。

 こんな場所で寝てしまうことに色々と小言を言いたくなるけど、わたしのことを信頼してくれてると思えば嬉しくて、口元がニヨニヨと動いてしまう。


「ありがとう」


 寝ているココにそう伝え、わたしは周囲を見回した。倒したファイヤーヒヒがそのままになってるけど……村に持ち帰るべきか悩む。


 ココと出会わなければこの後も森の探索を続けるつもりだったので、このまま放置一択だった。ただ寝ているココを危険な森の中で連れ回すわけにはいかないから、予定より早いけど村に帰るつもりだ。


 そうなると、ファイヤーヒヒを持ち帰れる。肉は微妙かもしれないけど、毛皮や爪は使えるだろうし……村への貢献のためにも持ち帰ろうかな。


「よしっ」


 わたしは異空間に収納してある杖を取り出して気合を入れてから、ファイヤーヒヒを五匹だけ重力魔法と風魔法を併用して宙に浮かせた。


 異空間に収納するのもありだけど、ここまで大きくて重量があるものを収納するのは魔力が大量に必要で、それならまだこっちの方が効率がいいのだ。


「異空間に収納するのって、難しいんだよね……」


 異空間収納はディアナさんが本当に上手く、わたしはまだまだディアナさんほどの域に達せていない。

 必要なものや大切なものを収納しておく分には問題なく使いこなせるけど、これからは大きな魔物を運びたい機会も増えるかもしれないし、もっと練習するべきかな。


 そんなことを考えながら片手でココを大切に抱いて、もう片方の手で杖を持ちファイヤーヒヒを操りながら、村に向かって足を進めた。


 スピスピとたまに聞こえてくるココの寝息に、とても癒された。

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