第7話 村の案内と問題発生

 わたしの手を引いてずんずん先に進んでいくヴァンに遅れないよう、慌てて足を動かして隣に並んだ。

 するとヴァンは自然と手を離して、わたしの顔を覗き込む。その表情は楽しそうな笑顔で、思わず少しだけ見入ってしまった。


 何だかヴァンって、女性の扱いに慣れてるよね……いや、これはわたしが女性と認識されてないから? それとも田舎ではこれが標準なの?


 王宮にいた癖の強い知り合いたちを思い浮かべながら考えてたけど、途中で王宮での知り合いたちは普通じゃなかったことを思い出す。

 比較対象としては、全く参考にならないね。


「フィオレ、どうしたんだ?」


 思わず遠い目をしていたらヴァンに不思議そうに問いかけられたので、首を横に振って知り合いたちを頭の中から追い出した。


「ううん、何でもない。それで店通りって?」

「それならいいけど。――店通りは名前の通り、この村にある店が全部集まってる通りのことなんだ。欲しいものがあれば、大抵はそこで買えるぜ」

「おおっ、便利だね。色々と足りないものばかりだから、買い物も済ませようかな」


 わたしのその言葉にニッと笑ったヴァンは、早く案内をしたいのか、進む足を少し速めた。



 店通りはわたしの家から歩いて十分ほどの場所にあり、幾つもの商店が密集して連なっていた。買い物に来ている村の人たちもたくさんいて、とても活気がある。


「どうだ、凄いだろ? まあフィオレは王都から来たから、そこと比べたら全然だろうけど……」

「ううん、そんなことないよ。凄く好きな雰囲気かも」


 確かに賑やかさで比べたら王都の市場の方が圧倒的だけど、ここはなんだか温かい雰囲気がして思わず頬が緩んでしまう。わたしもここの一員になれるように頑張らないと。


 そう決意をしていると、さっそく近くのお店の人が声を掛けてくれた。


「ヴァン! もしかして連れてるのは移住してきた嬢ちゃんか?」

「八百屋のおっちゃん。そうだぜ、フィオレって言うんだ」

「フィオレです。よろしくお願いします」

「随分と可愛い子だなぁ。しかも魔物を一人で倒せるぐらい強いんだろ? いい子が来てくれて嬉しいな」


 八百屋をやってるらしいおじさんは、そう言ってニカっと明るい笑みを見せてくれた。


「この村のお役に立てるように頑張ります」

「おうっ、頼もしいな。うちの野菜も贔屓にしてくれよ」

「もちろんです。美味しそうな野菜ばかりですね」

「だろ? 俺が認めた質の野菜しか売らねぇからな」


 そう言ったおじさんは自信ありげな表情だ。野菜はここで買えば間違いないかも。さっそくいくつか買ってスープにしたり、ここまで新鮮ならそのままサラダもありかな。


 王宮では基本的に食堂でご飯を食べて自炊はしなかったから、久しぶりに料理も楽しもう。ディアナさんの家では毎食作ってたから、そこまで衰えてないはずだ。


「帰りに野菜を買いに寄りますね」

「待ってるな」


 八百屋のおじさんと話しをしていると、隣のお店のお姉さんが声を掛けてくれる。


「フィオレちゃんって言うのよね。これからよろしくね」


 若くて可愛らしいお姉さんがやってるお店は、色々なものを売ってる雑貨屋みたいだ。食材以外のものが欲しい時にはここに来ればいいのかな。


「よろしくお願いします。ここに売ってないものって、街に行かないと手に入りませんか?」

「ううん。注文してもらえば、私たちが街に買い出しに行く時に買ってくるわ」

「そうなのですね。では後で足りないものがあったら頼みます」

「ええ、任せておいて」


 そうしてわたしが村の人たちと話をしていると、にこにこと楽しそうな笑みを浮かべたヴァンがわたしの顔を覗き込んでくる。


「フィオレ、もう馴染んでるな」

「本当? そう見えるなら嬉しいよ」

「何よヴァン、フィオレちゃんのこと口説いてるの?」


 ヴァンと話をしていると、雑貨屋のお姉さんにそう声を掛けられた。ヴァンはその言葉に照れることなく、普通に言葉を返す。


「姉ちゃん、まずは友達からだろ?」

「あらあら、あなたも大人になったわね」

「俺だってもう十七歳だからな」

「ふふっ、そうね〜」


 二人のやりとりを見ていたら、なんだかほっこりして頬が緩んでしまった。村全体が家族とまではいかないけど、親戚みたいな仲良い雰囲気、凄く好きだなぁ。


「フィオレ、姉ちゃんはうるさいから次行くぞ」

「はーい」


 わたしは苦笑しつつ頷いて、雑貨屋のお姉さんに手を振りながらヴァンの後に続いた。

 次は調味料を売ってるお店のようだけど、店先には人がいなくて中を覗き込もうとしたその時――


 突然、遠くから誰かの叫ぶ声が聞こえた。

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