第5話 衝撃の告白と会いたい人
「し、深淵の魔女様って、王宮にいるお方だろう!? 私でも知ってるほどに有名だよ!」
エリザさんが瞳をこれでもかと見開きながら叫んだ言葉に、わたしは苦笑しつつ答えた。
「確かに王宮にいたんですが、嫌になって魔術師団を辞めてきちゃいました」
「辞めてきちゃったって、そんなことができるのかい?」
「前例があるのかは分かりませんが、陛下に了承いただいたので大丈夫です」
この国のトップである陛下の了承付きなんだから、文句を言われることはないはずだ。王宮にいた優しかった人たちを思い出すと少しだけ罪悪感が湧くけど……それは仕方がないことだろう。
わたしは意識して気持ちを切り替えて、これからの村での楽しい生活を考えた。
「はぁ……なんだか疲れたね。フィオレが予想以上に凄い人だってことは分かったよ。でもここでは普通に接するけど、それでいいかい?」
「もちろんです。あっ、できれば深淵の魔女ってことは、あまり広めないようにお願いできますか? 嘘をついたり誤魔化したりする必要はないですが、積極的に広めようとは思ってなくて。特に村の外にはあまり広めたくないんです」
陛下には知られてる気がするけど、せっかく行き先を告げずに王都を出たんだから、自分から居場所を伝えるようなことはできれば避けたい。
ここにいることがバレたら、のんびりとした生活ができるとは思えないからね……。
「分かった。私がこの事実を言いふらすことはないよ。村の人たちにも必要があれば自分で言いな」
「ありがとうございます」
そこでわたしたちの話は一区切りつき、苦笑混じりの笑みを浮かべたエリザさんが、わたしの頭にポンポンと手を置いた。
「色々と驚いたが、強い移住者は大歓迎だ。フィオレ、改めてこれからよろしくね」
「はい。この村のために頑張ります」
「心強いよ。じゃあ、家はここでいいかい?」
「もちろんです。素敵な家をありがとうございます」
そうしてわたしの新居は、ここで正式に決定となった。
エリザさんは家の中をもう一度見回して、問題ないことを確認するように頷くと、最後にはわたしに視線を固定する。
「それじゃあ私は帰るけど、何かあったらなんでも言いなね。あと今日の夜は食事の準備も大変だろうし、歓迎会をするよ。暗くなったらうちにおいで」
「本当ですか! 楽しみにしてます」
急に来たのに歓迎会をしてもらえるなんて、優しい人たちだね。
わたしの返答に満足そうな笑みを浮かべたエリザさんは、手を振りながら帰っていった。そんなエリザさんを見送ったわたしは、家の中に視線を戻して、よしっと気合を入れる。
「最低限の虫対策はしたけど、夜までに掃除もしないと」
まずは寝る場所からということで、寝室の掃除から始めることにした。寝室にはベッドとちょっとしたテーブルにタンスが置かれているけど、ベッドに布団は入っていない。木枠のみだ。
「タンスの中に布団ってあるのかな……」
少し歪んでいるのか硬い引き出しをぐっと開けると、中には真っ白な布団が入っていた。取り出してみると、特に問題なく使えそうだ。
「あっ、防虫袋だ」
空き家もちゃんと管理されてるんだね……さすがエリザさん、ありがとうございます。
布団を洗わずに使うのは嫌なので、さっそく家の外に持ち出して魔法を使って洗濯をしていく。さっきかなり魔力を消費したけど、洗濯をするぐらいの魔法なら、わたしにとっては全く問題ない。
水球の中で布団を綺麗に洗い、水魔法で布団に染み込んだ水分に干渉して適当に水気をなくし、細かい部分は火魔法と風魔法で乾かした。
「たまには洗剤で洗いたいし、その辺は買わないとダメかな」
そんなことを考えながら洗濯を終えてベッドに布団を設置したら、寝室の掃除は終わりだ。もちろん布団を入れる前に、木枠や寝室の床は綺麗に掃除をした。
次はどこを掃除しようかなと思ってリビングで部屋を見回すと、さっきは開けなかった裏口の扉が目に止まる。
「そういえば、裏庭があるんだったよね」
何気なく裏口のドアを開くと……そこに広がる光景に、思わず瞳を見開いてしまった。
直射日光が苦手な植物を育てるための日当たりが悪い花壇に、農作業に使う道具を仕舞っておくのだろう、ちょっとした屋根がついた物置、そして自然に咲いているのだろう雑草が咲かせた小さな白い花。
「ディアナさんの家に、凄く似てる……」
真紅の魔女であるディアナさんの家は山の中にポツンとあったから、この家じゃないことは明白だ。でも本当に似ている。
……多分よくある光景なんだろう。田舎の家なんて、大抵がこんな作りなんだと思う。でも昔の記憶と完全に繋がってしまい、なぜか寂しい気持ちが湧き上がった。
ディアナさんは、よく裏庭の花壇を眺めてたよね。それから裏庭の物置で昼寝をしてたのは――。
「エルヴィン、今どこにいるんだろう」
今までずっと意識して考えないようにしていた、数年間ディアナさんの下で一緒に暮らしていた男の子。わたしの四つ年上で、そっけなかったけど実は凄く優しかったことを知っている。
「なんで突然、いなくなったのかな」
いつかまた、会えるだろうか。どうしてももう一度会って聞きたい。何も言わずにわたしたちの下から消えた理由を。
くだらない理由だったら……許さないんだから。
わたしはグッと拳を握りしめてから、自分の頬を少し強めに叩いた。
「もっと明るいことを考えよう」
思い出した過去はまた心の奥に仕舞い込み、意識して笑顔をつくった。楽しい新生活が始まるところなんだから、気分を上げていかないと。その方が絶対に色々と上手くいく。
「次は……リビングを掃除しようかな!」
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