第331話 新種オーガ
2体のオーガを撃退したレイヴァーは、クロウ達がサリア達の方へ向かい合流した。
「サリア、そっちも平気か?」
「大丈夫だよ!この前のオーガとはかなり違かったけど、途中でハデス達が魔法で回収したみたい。」
「それだけ、失いたくない媒体を使っているってことよ。……将軍たちのような。」
「やはり、アーの知る魔王10将軍を媒体にしているのか?」
「そうとしか考えられないわ。私の知っている魔力もあったし、何よりあれほどの力を制御するには相当の力が必要なはずだもの。」
アーシェは、メイドとして城にいた時に見た10将軍の顔が頭に浮かぶ。
「確かに、あの人たちも父と母を殺そうとしているメンバーだったかもしれない。けど、本人の意思を無視して別の生き物として無理やり生きさせるのは絶対にやってはいけない。」
「これまでのゴーレム、オーガが無理やり作られたものの可能性は高い、命の重さをハデスとハーデンは理解していない。僕らは、助けられる命を助けないと。」
「当たり前だ。……ただ、あのオーガからは俺も感じたものがあるんだ。」
クロウはオーガとの戦闘で感じたものについて話し始める。
「なに、感じたものって?魔力を感じ取れないあなたが、オーガから何を感じたの?」
「詳しいことは分からない、けど、あの顔、あの声、そして、ないよりあいつは震えていたんだ。」
「クロくん、どういうこと?」
「多分、あのオーガは、怖がっているんだと思う。人の命を、無闇に奪ってしまう自分の体が。」
「それって、あの体になっても抗っているっていう事?媒体にされてしまった、元々の人達が?」
クロウの頭に、先ほど戦ったオーガの声が響く。
「確証はないし、証拠もない。けど、あいつは100%の力を俺にぶつけてきたわけじゃなかった。もし全力の攻撃だったらこんな軽い怪我じゃすまなかったはずだ。けど、オーガ単体の力は俺たちを超えてる、てことは抑えてるってのが正解じゃないか?」
「確かに、僕も攻撃を受けたけど、正直予想以上にダメージは軽かった。見かけだましや、そういう作戦なのかとも考えたけどクロウガルトのような考えもあるね。」
「だとしたら、媒体にされた人たちはまだ意志を持ってるということよね。だとしたら。」
「救い出せる方法がある場合、私たちのやり方次第でまた元の姿で生きていけるかもしれないな。」
もちろん、オーガは多くの人や生き物を殺してきた、俗にいう悪という存在なのかもしれない。
だが、無理やり悪にされている者を、そのまま放置して倒すなど、レイヴァーには出来ないことだった。
クロウは、皆の前で改めて誓った。
「俺は、今の大切なお前たちを守りたいし、俺たちを信じてくれるアンジュやミラの両親、ダイカンたちも守りたい。……けど、オーガみたいに無理やり作り出され戦うことを強制させられている奴らも、見捨てたくない。」
「クロくん……。」
「確かに、オーガは罪を犯しているのかもしれない。だからって、罪を犯したから死んで償えっていうのはおかしい。やり直すチャンスを、選択という時間を上げたい。」
「いいんじゃないかしら、あなたらしくて。楽観主義なのかもしれないけど、そんなあなたがリーダーだから私たちはついていこうと思った。あなたの考えは、いつも美しいから。」
「まぁ、アーの場合はついていくだけでなく婚約までしてしまっているがな。」
カァー。
アーシェの顔がリンゴのように赤くなる。
「どうした、アーシェ?ミラは事実を言っただけだろ?」
「じ、事実だとしても、少し、動揺することくらいあるわ!」
「ちなみに、アーシェさんは何に動揺したんですか?」
リィンはにやけ顔でアーシェに問う。
アーシェの頭には、クロウとの口づけの瞬間が明確に思い起こされる。
温かく、そして心が安らぐあの瞬間を。
自分は1人じゃない、どんな過去を背負っていても、どれだけ進もうとする道が険しくてもついて来てくれると誓ったクロウの言葉。
そして、クロウだけじゃなくサリア、ノエル、ミラ、リィンも一緒の空間をアーシェは心地よく感じていた。
「な、何でもないわ!ほら、早く先に進むわよ!」
「アーシェさん、可愛いです!」
「な、何言っているのリィンは!」
「遊んでないで、早く先に行こうぜ。」
「誰のせいでこんなことになっていると思っているの!!」
「俺が悪いの!?」
スタッスタッ。
アーシェは足早に1人先に進む。
「俺、何か間違えたかな?」
「うーん、クロ君が間違えたわけじゃないけど、まぁ後で少し焼かれるかもね!」
「何でだ!」
ここは敵地のど真ん中。
いつ敵に襲われてもおかしくない状況。
そんな中でも、いつも通りに会話ができ、いつも通りに行動できる彼らはやはり、この世界で唯一ハデスとハーデンを止められる希望なのかもしれない。
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