第325話 恩返し

緊張感漂う空間で、レイヴァーは選択を迫られていた。


武装解除することで、目の前で殺されようとしている魔族を助けるか、ハデスとハーデンの野望を阻止するためにこのまま戦い続けるか。


「クロウ、私たちが武器を下ろすことの意味、分かるわよね。」

「ああ、俺たちが戦うことを辞めたら、たぶんこの世界は白き世界に作り替えられてしまう。」

「分かっているなら、どうにかハデスを倒す方法をーー。」

「それでも、俺は守りたい。」


クロウの発言に、アーシェは反論する。


「確かに彼らの命を散らせたくない気持ちは分かる、でも、私達がやらなかったらこの世界は終わってしまうのよ!」

「だからって、いつか世界を変えるから今は我慢して死んでくれなんて、俺は口が裂けても言えない!あいつらの命も、俺らの命も同じ命だ!」

「でも、私たちが戦わなくてはさらに多くの命が失われる!彼らの十字架を背負う覚悟はできているわーー。」

「目の前の命を助けられない存在に、この世界を救えるとは俺は思えない!頼むアーシェ、俺を、信じてくれないか。」


クロウは真剣な眼差しでアーシェを見つめる。


(クロウ……本当に、あなたという人を理解するのはまだ何年もかかりそうだわ。でも、その欲張りで真っすぐ、何よりも自分の正義を貫く姿に私は惹かれたんだから、仕方がないわね。)


「さぁ、答えを聞こうか、レイヴァー。」


ハデスの問いかけに対し、


「全員、武装解除だ。」

「クロくん!?そんなことしたらーー。」

「いいの、サリー。みんなお願い、クロウの言う通りにして。」

「……分かりました。」


カチャンッ。

全員武器を外し、地面に置く。


「良い判断だ、魔法を使える者は両手を前に出して組め。」


本来、魔法を使うには手で魔力を操る必要がある。

そのため、手を組むことで魔力を操作することが出来ず、攻撃の手段がなくなるのだ。


クロウとミラ以外は手を前で組み、残りの2人は両手を上げる。



「さすがだ、賢い選択ができる部隊で安心したぞ。私も、無駄な命は消したくないのでな。」

「どの口が言ってやがる、これまで数えきれない人間を犠牲にしてきた奴が!」

「ゴーレムとオーガは、これからの世界を作る道先案内人だ、そんな名誉ある役割を全うできるのがどれほど幸せかお前たちには分からないだろう。」

「僕たちの武装を解除させて、この後どうするつもりだ。」


ハデスの頬が不気味なほどに上がり、にやけ顔になる。


「そうだな、オールドタイプは使い物になるか分からんのでな、まずはそこらへんの奴隷にしておこう、魔法を使える、特にアフロディテには最高の贄になれる素質がある。良い未来を約束しよう!」

「あらそう、私だけ特等席を用意してもらえるようで光栄だわ。」


この会話の瞬間、クロウには違和感が。


(……なるほどな、もう少しやってみるか。)


「なぁ、俺たちは武器を下ろしたんだ、もうお前たちを止められる方法もない、白き世界がどんなものか冥途の土産に教えてくれよ。」

「ほう、そんなに興味があるか。」

「ああ、俺たちが思いつけなかった世界だ、是非聞かせてほしいね。」


2人のやり取りに、ミラも違和感を覚える。


(クロ、何をしているんだ。こんなところで時間を稼いでも……まさか。)


「時間があまりないのでな、私の城に連れて行ってやろう、それからでも遅くはないだろーー。」

「いいや、私も詳しく聞きたいな。この世界がどう変わるのか気にならない方がおかしいだろ?貴様も、興味のあることはすぐ知りたい質じゃないか?」

「なるほど、一理あるな。ならば。」


スタッ、スタッ。

ハデスはレイヴァーに向けて歩き出す。


「いいだろう、ならば教えてやろう。」

「案外優しいんだな、お前。」

「そうだな、私も同じ考えを持つ者は殺したくないからな。だが、教えてやるのは!」


パリーンッ!

クロウ達に見えていた映像の魔法が砕け、そこから見たことのない虎のモンスターが3体現れる。


「あなた、何を!!」

「この映像は私が過去に作ったものだ!それに私の世界には、オールドタイプは確実に不要でな、烏と狼にはここで死んでもらう!」

「外道な魔族が!」


アーシェ達が攻撃の態勢に入る前に、全長3mほどの虎がクロウとミラに迫る。


1頭が先行し、クロウまで残り30㎝の距離。


「クロウ!逃げて!」


弾丸のように迫る爪が、クロウの顔面まで伸びて来る。



(嫌だ、お願い、死なないで!)


アーシェが念じた瞬間、


「ようハデス、いつから俺たちが6人だって勘違いしてた?」

「なに!?」


ズシャンッ!

鋭利なものが突き刺さる音が響く。



そこには、



「そうですわね、レイヴァーは6人ですが、レイヴァーの仲間はまだいますわ!」

「アンジュ王女!?」


虎を貫いたのは、テーベで共にレイヴァーと戦ったアンジュだった。


完全に気配を消すことが得意な彼女は、ハデスの死角からレイヴァーを助ける機会を伺っていたのだ。


「待ってたぜ、腹黒王女。」

「あら、また2人っきりの密会にご招待しようと思っているのですが?」

「できれば、密会じゃなく対談で願いたいね!」


さらに2頭の虎が迫る。


「ミラ!」

「任せてもらおう!」


ガゴーンッ!

2人の鋭い蹴りが、虎の顔面を怯ませる。


「な、何だお前は!」

「これは失礼しました、テーベ国が王女、アンジュ・セレスティアと申します。以後、お見知りおきを!」


ジャギンッ!ジャギンッ!

さらに2体の虎をレイピアで斬り裂きレイヴァーを守る。


「くそっ、生意気なエルフが!」

「隙だらけよ、ハデス! 燃え上がれ!白炎花フローラム!」


ボァァ!

油断していたハデスを、大きな火の柱が包み込む。


続けて、


「クロウさん!」


アンジュからレイピアを受け取り、


獣の声ケモノノコエ八式ハチシキ大蛇の咬切ヒュドラ!」


バゴーンッ!

大剣で使う技を、レイピアで補い大きな斬撃を放つ。


シュインッ!

炎の柱が真っ二つに切られる。



が、そこにはハデスの姿がない。


「ちっ、逃がしたか。」

「そうみたいね、にしても良くアンジュ王女が助けに来てるのが分かったわね。」

「匂いだよ。殺気と気配を殺すのは、こいつの十八番だ。でも、匂いは誰にも消せるものではない、だから時間を稼いだーー。」

「あら、私の匂いを覚えているなんて、そんなに忘れられなかったのでしょうか?」


意地らしい顔で、クロウを見つめるアンジュ。


その言葉によって、アーシェの眉間にしわが寄るのが分かった。



「と、とにかく助かった!まずは、話し合いからしようぜ!」



レイヴァーは、テーベの王女アンジュの助太刀により命を救われた。



そして、まだ戦いは始まったばかりなのは忘れてはいけなかった。


第64章 完



◆◆◆お礼・お願い◆◆◆


第64章まで読んで頂きありがとうございました。


ついにハデスと対面し、戦いを始めるレイヴァー。

しかし、ハデスの作戦に嵌められピンチに陥る。

そこで、テーベの王女アンジュが助太刀に入りピンチを乗り切る。


懐かしいキャラが登場!

どんどん先に進むよ!

これからもレイヴァー応援しているぞ!


と思ってくださいましたら、

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ここまで読んで頂きありがとうございます!今後とも宜しくお願いいたします!

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