第321話 スパルタの異変
レイヴァーは、シャープとの戦闘を終えスパルタに異変が起きていることは大体理解できていた。
魔王10将軍の1人であるシャープの肉親にも手を出すハデスに、アーシェの憤りはこの上なく高ぶっていた。
「ハデス、あなたは何を考えているの。私が城に潜入してるときは、10将軍を信頼して多くの町の統治を任せていた、もちろん向き不向きもあったけど、実際、シャープ将軍が統治していた町の繁栄は他の町よりも大きく、住民からの支持も高かったし私も尊敬する部分があった。」
「なのに、ハデスはシャープの妻を手にかけた。それは、自分の主を信頼できるとかできないとか以前に、他人がやっていいことの範疇を超えている。」
「そうよ、それにハデスは私の両親を殺そうとしている、加えて国全体を滅ぼしかねないことをしている。スパルタだけじゃない、アトランティス全てを呑みこもうと。次会ったら、私のこの手であいつをーー。」
スッ。
クロウの手が優しく怒りで震えるアーシェの肩に乗せられる。
「憤るのは俺にもよくわかる。けど、アーシェはハデスを自分の手ですぐ殺すつもりか?」
「……本当はそうしてやりたいわよ、一瞬たりともチャンスを見逃さないで消してやりたい。でも、私はレイヴァーよ。あなたの志す不殺の掟はとても美しいと理解している、だからこの怒りは抑えてどうにかするわ。」
「さすが、俺のパートナーだな。前にも言ったかもしれないけど、どんなに卑劣なことを犯したやつを、誰かの手で簡単に殺すのは当人にとっては楽な結果でしかない。」
「そんなこと言っていたわね、だったらどうするつもり?」
クロウはアーシェの目をしっかり捉えて話す。
「簡単だ、この世界には死ぬことより辛い生き方があるのを体に刻み込んでやればいい。罪を償うっていうのは、そういうことだろ?」
「死より辛い生き方、具体的には?」
「ああ、アーシェを幻滅させるかもしれないけど、自分の犯した罪の重さを実感するには、それ以上の恐怖や後悔、負の感情に覆わせる必要があると思う。そうして、自分がやってきた事の重大さを、体に教え込む。」
「それが、後のハデスに人生において辛い生き方になる。」
「そうだ、殺してくれって言われて殺すのはナンセンスだ。殺してくれって言われても、その苦しみの中で死ぬまで生き続けろっていうのが、最大の復讐になるんじゃないかと俺は思う。」
クロウから出る言葉とは思えない内容に、アーシェは驚きを隠せず目を真ん丸にさせる。
「どうした?いつも誰も殺すなって、平和主義者みたいに振舞っている俺からは想像できなかったか?」
「いいえ、案外えぐいことを考えててなんだか新鮮だったわ。というより、平和主義者の様に振舞っているつもりだったの?私には、自分の信念を曲げない真っすぐな馬鹿にしか見えなかったわ。」
「褒めるのか貶すのかどっちかにしろ、反応しづらいだろ。」
「あら、褒め言葉よ?意外にも頭をよく使っていて、少し安心したわ。」
「アーシェ、そういうところがあるから周りから好かれないんだぞ。次期スパルタの王女がそれでいいのか?」
「別にいいわ、あなたとレイヴァーに好かれるのなら。まぁ、国を統べるようになったらそんなことは言っていられないのでしょうけど。」
サリア達4人は、遠目から2人を見つめていた。
「サリアさ、2人が会ったばかりって時から一緒にいるけど、あんなに変われるものなんだね。アーちゃんはすごい正直になって、周りを気に掛けるようになってる。クロくんも、自分の意見だけじゃなく、周りの意見も聞いて最善の選択を導き出している、そして何より2人とも無茶をしなくなった。」
「それが、人の良いところなんだと思うよ。僕は、彼らを監視することが使命として蠢く会に所属していた。そして共に行動をすることで、2人の偉大さを実感した。2人なら、世界を大きく動かすこともできる、蠢く会と魔族の野望も止められると思う。」
サリアとノエルはこれまでの事を振り返る。
「私は、クロが仮面の力を使える者と噂を聞いて接触した。正直、私はクロと波長が合うとは思っていなかった、彼は優しすぎるから。でも、その優しさがあったから私は変われた、だから恩返しも含めてこれから最後まで、私はクロの盾となる。」
「あたしは小さいころからクロウさんの成長を見ていました。彼ほど真っすぐで、周りを惹きつけるカリスマ性、そして固い信念を持っている人は他にいない。力がないあたしは、そんなクロウさんにあこがれてアテナ家の槍術を手に入れた。あたしは、目標に近づくために、レイヴァーとして生きます。」
スタッ、スタッ。
クロウとアーシェが4人の元に戻ってくる。
「クロくん、アーちゃん、これからの作戦は決まった?」
「ああ、俺たちがやることはただ1つ。白き世界を作らせないこと。」
「そのために、茨の道を最短で突き抜けるわ、王国まで、そして彼らを止めるまで私たちは止まらない。ついて来てくれる?」
「当たり前であろう、私たちはレイヴァーとして、そして自分の意志でここにいる。連れて行ってくれ、2人の作る世界まで。」
レイヴァーは、王国まで足早に進み始めた。
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