第312話 ご報告
次の日の朝。
クロウの部屋に、眩しいほど明るい日が差し朝の訪れを告げる。
「……っ、朝か。……なんだ、いつもより体が温かい。」
顔を横に向けると、アーシェがこちらを向いて寝ている姿が目に入る。
「そうだった、昨日の夜にたくさんやりあったっけな。アーシェの意志もこれまでで1番強かった、それだけ俺たちを大切に思ってくれてるんだよな。まぁ、突っ走りがちなのは問題……俺が人の事を言えないか。」
サァー。
クロウはアーシェの髪をなでる。
銀色のロングヘアーは、見る者を魅了するほどに美しく触り心地も抜群。
これまで1度も触れたことのない感覚に、クロウも感動をしていた。
「こんな戦闘ばかりの場所で、良くこの美しさをキープできるな。相当気を遣っているんだろうな。」
髪を撫でながら、昨日の夜のことを思い起こす。
アーシェの表情、心の声、自分の決意。
全てが真正面からぶつかり合い、2人は婚約をして共に生きていくことを誓った。
(俺は、何があってもアーシェを守る。あの時誓った、お前が世界を壊すほどの力を求めるなら手に入れてやる、苦しみや悲しみは一緒に背負ってやる、この先の長い人生を共に生きるパートナーとして。)
クロウは少しぼーっとしつつも、髪を撫で続けていた。
すると、
「ねぇ、いつまで撫でてるつもり?」
「え!?」
アーシェが目を開いてこちらを見ていることに気づいていなかった。
「え、あ、おはよう。」
「おはよう、あなたが手を止めないからいつ目を開ければいいか分からなかったじゃない。」
「起きてたのか!?」
「あなたに髪を撫でられて起こされたのよ。」
「じゃあ、すぐに声をかけてくれよ!」
クロウが手を離そうとすると、
「別に、嫌だとは言っていない。」
「え?」
アーシェの小声ながらも予想外の返答にクロウは戸惑う。
「だから、あなたに触れられるのは嫌じゃないって言ったの。」
「そ、そうなのか?えっと、俺はどうするのが正解だ?」
「……あと1分、撫でて。拒否権は与えない。」
「わ、分かった。」
少し頬を膨らませながらも、満足そうに髪を撫でられるアーシェ。
(ううん、今何か言ったら怒らせそうだよな。ここは正直に従うか。)
クロウも混乱はしていたが、嫌な反応を示さなかったアーシェに対し髪を撫で続けていた。
そして、満足したアーシェは、
「ありがとう、朝からなんか気分が楽な気がするわ。」
「そうか、ならよかった。てか、こんなんで気が楽になるならいつでもやるぞ?」
「それはダメ!なんか、こう、特別感がなくなるから。」
「そ、そうなのか、分かった。」
「ほら、早く起きてリビングに行くわよ!」
「食い気がすごいのは相変わらずだなーー。」
ギロッ。
隣に一緒に横になっているアーシェの目が、狼のように鋭くなる。
「はい、ごめんなさい、ウェルダンにしないでください。」
「よろしい、成長したわね。」
アーシェは部屋に戻ろうと起き上がる。
その姿を見て、クロウの体は勝手に動き出していた。
アーシェを後ろから優しく抱きしめ、
「な、なに!?」
驚くアーシェをよそに、小さな声で呟く。
「アーシェを、もう1人で苦しませない。今日から、毎日が死闘になるはずだ。だから、辛いことも悲しいことも俺には偽りなく話してくれ。隠し合いは、もうなしだ。」
「ええ、私もあなたに頼ることを頭に刻んだわ。だから、あなたの想像以上に重たいことがきたとしても、逃げないように覚悟しておきなさいね。」
「当たり前だ、俺の覚悟なめんな。」
「頼もしい婚約者ね。だったら、私からも忠告よ。」
スッ。
抱きしめられているクロウの手に、優しく触れる。
「あなたも、リーダーだからって1人で背負わないこと。レイヴァーをまとめるために、あなたが傷ついていい理由なんてことはないんだから。例え話しずらいことがあったとしても、私にはちゃんと言いなさい、これまでみたいに隠すのはなし。」
「ははっ、ばれてたか。分かった、約束する。……もしかして、俺たちの根幹は似ているのかもな。」
「当たり前でしょ、じゃなきゃここまで長く相棒を務められていないし、その先の関係にはなれなかったわ。あなたの温かさ、強さ、逞しさ、全てが頼もしい。」
「俺もだ、アーシェの優しさ、真っすぐさ、純粋さ、俺をいつも助けてくれる。これからはもっと、一緒に頑張ろうな。」
「ええ、よろしくね。」
そのまま2人は離れ、各部屋で着替えをしてリビングに向かう。
そこには、レイヴァーの他4人が2人の事を待ち構えていた。
「あ、来た来た!」
「クロ、アー、遅かったじゃないか。」
「なんで4人共そんなに、ウキウキしているんだよ。」
「当たり前じゃないですか!お2人のご報告をお待ちしていたんですから!」
「ああ、やっぱり話さないとよね。分かったわ。」
スッ。
2人も席に着き4人と向かい合わせになる。
まず、クロウが話し始めた。
「俺たちは、婚約することにした。」
2人の話が展開されていった。
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