第279話 裏切りのわけ

パノラマでの一件が起き、レイヴァーはまずは落ち着けるところを探そうと、必死に走り少し離れた廃村に辿り着いた。


「はぁ、はぁ、ここまで来れば少し休めるだろ。」

「うん、そうだね、いろんなことが起きすぎてサリアは頭がぐちゃぐちゃだよ、整理しないと。」

「賛成です、ただ警戒も引き続きあたりましょう、どこから見られているか、いつ攻めて来るか分かりませんから。」


ジュールを含めた6人は、廃村で先ほど起きたことを整理する。


「ジュールさんは、何でパノラマにいらっしゃったんですか?しかも、蠢く会にバレないように慎重でしたし、アーシェさんを苦しめてた魔法にも詳しそうでした。」

「僕も、蠢く会の行動には目を光らせてたんだ。もちろん、僕だけじゃなくダイカンさん、武器屋のレイさん、多くの人が独自の情報網を使って警戒をしていた。」

「それって、ダイカンの手紙がリィンに届くことも分かってたのか!?」


スッ。

クロウは懐からダイカンから届いたであろう手紙を取り出す。


「ああ、リィンさんに送られてるのだろうという予測はしていた。ただ、まさか成りすまし且つ皆を呼び出すものだとは知らなかった。」

「やっぱり、お父さんの手紙ではなかったんですね、でもなんであたしのお父さんの名前をホルムが知っていたのでしょうか。」

「ノエルランスよ。」


アーシェは鋭い目つきで、ノエルの名前を口にする。


「ノエルランスは私たちが探していた最後の蠢く会のメンバーだった、かなり長い間一緒に行動をしていたのだし私たちの情報が漏れても不思議じゃないわ。」

「ノエルくん、何で蠢く会にいるんだろう。あれだけゴーレムの存在とか、アークに怒りをぶつけてたのに、全部演技だとは思えない。」

「彼は、相当悩んでいるように私には見えたぞ。いや、どちらかと言えば苦しそうだったと言うべきか。」

「ミラ、何か知ってるのか?」


クロウはミラを見つめる。



「……いや、私は知らない。なんせ、まだ一緒にいる時間が短いからな、彼も含めて皆の顔にまだ詳しくない。」


ミラは、ノエルに暗殺されそうになったことを隠した。


その理由はただ1つ。


人殺しをしなくちゃいけないほど、ノエルは追い詰められている。


そんな彼を、つい数分前まで一緒に戦ってた者に批判して欲しくなかったのだ。



「まあ、これで私たちが倒す目標は全て見えたわ。一刻と早く、蠢く会を壊滅させないと。」

「待てよアーシェ、蠢く会を壊滅って、残りの6人全員殺すっていうのか。」

「当たり前でしょ、彼らが犯してきた罪はあまりにも大きすぎるわ。自分が何をしてきたのか、それがどれだけ周りを傷つけたのか、その体で知る必要があるわ。」

「本当にそれでいいのか?あいつらを殺したら、そこで苦しみは消えるのか?この先同じ苦しみが生まれないのか?俺はそうは思わない、一方的に命を絶っても何も解決しない。」


ギリッ。

狼のように鋭い眼光が、クロウを突き刺す。


「この後に及んで、まだそんな甘いことを言うの。蠢く会は、何人の命を奪ったのか数えきれないわ。そんな人たちに慈悲をかけて、更生するチャンスを与えるのがあなたの選択なの?」

「俺は、変わらない人間なんていないと思ってる、今立っているところから先に進めないのは、その道を作ってくれる存在が近くにいなかったからだ。」

「なら、これまで死んでいった人達はどうなるの!生きたくても殺された命に、これから死ぬかもしれない命に、いつか正しい道を歩かせるから我慢して死ねとでも言うの!」

「違う!そんなことは起こさない、起こさせない、俺たちならそれができる。過ちをを犯した者は絶対死ねっていうなら、この世界に自由がなくなる、人という存在がなくなる。間違えない人間なんていない。」


クロウとアーシェの意見が真っ向から対立する。



どれだけ悪を行い、罪を犯した者でも変われる可能性が1%でもあるなら信じたいクロウ。



悪を行った者には、適切な処罰を受けさせ次の被害者を産まないために対策をうちたいアーシェ。



もちろん、どちらが正解で間違いかなんて存在しない。





ただ、どちらな選択がこの先世界を救い、笑顔を増やすかは考えないといけなかった。


「お2人とも、これからの行動を考えるのはとても大切です、ですが、今はあたし達が動きやすい環境を探しましょう。でないと、どちらの選択と取れなくなってしまいます。」


リィンが2人の間に入り、これからの行動を提案する。



「……そうだな、ありがとうリィン。」

「いえ、そしたら。」

「ジュールさんは別行動してもらった方がいいね、サリア達といたら無駄に被害を受けかねないから。ダイカンさんや、レイさんにこのことを伝えてもらっても良いですか?」

「分かった、任せてくれ。気をつけてね、どんな手を使ってくるかわからない。でも、負けないでくれ、この世界の光になれる君たちは、こんな所で終わってほしくない。」

「ありがとうな、ジュール。そっちも頼む。」



こうして、ジュールと別行動を始めたレイヴァー。



まずは、安全に動ける土地を探し始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る