第238話 作戦と異変

カバラに入り、2日が経過。



闘技会当日を迎えた。


それまでの夜はやはり、リィンからクロウとノエルにミラに対する厳しい指導が入念に行われていた。


もちろん、何もなくこの日を迎えることはできた。



当日の朝。


宿屋で朝食をとりながら、話を進めていた。


「10時から闘技会が始まる、私とアレスは9時には会場に向かっておいた方がいいだろう。」

「OK、最大で4回も戦えるのか、ルールが変わっていなければ、どちらかがギブアップするか、審判が止めに入るまで続く。まあ、巨人族は元から強いからな、楽しみだ!」

「とか言って、初戦敗退はやめてよ。2人には可能な限り注目を集めてもらって、私たちが動きやすくなる状況を作ってもらわないといけないんだから。」

「承知している、もし決勝でアレスとぶつかることがあってもすぐに決着はつけないでおこう。手加減も忘れずに、観客にばれない程度にしてな。」

「なめるなよ、そんな簡単にギブアップするほど、俺は柔じゃないからな。」


クロウもミラも、体調は万全。

やる気に満ちており、心配は不要なようだ。


「作戦は変更したけど、アーちゃんとリィンちゃんはどうやって動くの?」

「まずは、闘技会の外を観察するわ。不審な動きがないか、特に王国の兵士が集まり始めたらすぐに伝えに行くわ。」

「何か良い案があるの?闘技場から王国までは数百メートルは離れているよ?」

「はい、あたし達がチャンスと感じた時点で、アーシェさんに花火の要領で空に火の魔法を打ち上げます、それが合図です。」

「闘技会で盛り上がっているから、これくらいは周りも不審に思わないはずだから、2人も闘技場の方角を見ておいてちょうだい。」


アーシェとリィンは闘技場の周囲を警戒しつつ、柔軟に動けるようにしていた。


「闘技会は完全にみんなに任せるよ。そしたら、僕たちは2人の合図で城の中に忍び込むと。表から入るのは厳しそうだったけど、中庭に入れる道は見つけた。そこから、城の中に入り込もう。」

「最悪は、サリアの植物魔法で上から入るってことも出来るし、何とかなるね!」

「ただ、2人が1番難しい作戦なのは変わりないわ。クロウたちは戦い、私たちは警戒、実際に動くのはサリーとノエルランス、潜入なんてしたことないものをするんだから、気を付けて。」

「分かっているよ、危険だと判断したらその場から逃げる、それが命令だろ、リーダー?」

「さすが、分かってるな。チャンスは何度も作りだせばいい、命があるならいくらでも作れる。そんじゃあ、やってやろうぜ!」


6人は出かける準備をしに部屋に戻る。


スタッ、スタッ。

クロウは準備を終え、先に部屋を出る。


「ミラ、先に外にいるからな。」

「ああ、私もすぐ向かう。」


ミラも闘技会に向けて準備を進めていた。




だが、ノエルの様子がおかしかった。


準備の手を止め、ミラから2mほど離れた背後に立つ。


そして、


スッ。

その手にはジュールから預かった、拳銃が。


銃口はミラに向けられており、ノエルの目は決意を固めてるように見えた。



ガタッ、ガタッ。

ミラはそんなことには気づかず、準備を進める。


(今がチャンスだ、僕の手で仇を取れる、今やらなきゃいけないんだ。)


ノエルの指がトリガーに触れる。



しかし、


ふと、クロウの言葉が頭に浮かぶ。




「サリアが不幸の姫アンラックプリンセスだってことを、その目で見た奴はいるのか?証拠は?真実から目を背けて、ただサリアに罪をかぶせてるだけじゃねえのか!」


クロウが、テーベにてエルフに言った言葉が響き渡る。


(くそっ、迷うな、僕は僕の道を信じてここまで来た、間違いなんて起こさなかった、だからこれも間違いじゃない。)


ノエルが自分の中で葛藤していると、



「撃たないのか?」


ドクンッ!

ノエルの心臓が大きく響く。


ミラは気づいていた、自分に銃口が背後から向けられていることに。



「分かって、いたのか。なら、なぜ動かない、僕を倒すことは君なら簡単なはずだ!」

「お前の視線は、憎しみや悲しみに覆われていた。アイアコス、私に復讐をしたいのだろう?なら、今が絶好のチャンスだぞ。」

「何言っているんだ、君は死ぬんだぞ、これからの作戦も台無しになる、この世界から消える、それが怖くないのか!?」

「何あたり前なことを聞くんだ。


スゥー。

ノエルには全身に冷や汗が。


その手に持つ銃は震え、意思が揺らいでるのが見て取れた。



スタッ、スタッ。

そんなノエルの前に、ミラは立つ。


そして、


「私の命が欲しいのなら、いつでも取りに来い、レイヴァーに対して抵抗するつもりはない。」

「な、何でそんなことを、僕のことをばらすことだってできるのにーー。」

「それを、アレスは望まないだろ。彼は誰よりも責任感が強い、少なからずレイヴァーに正式に入隊していない私がリークした場合、アレスは自分を責める。それだけ、バカがつくほど優しいから。」


スタッ、スタッ。

そして、ミラは準備を終えドアに向かう。


「今決めなくていい、幸いなことに今は他にやるべきことがある、それが終わった後で判断しても遅くないだろう。私に復讐するのか、レイヴァーに助けを求めるのか。」


そう言い残して、ミラは部屋を出る。





取り残されたノエルは、頭の中がいっぱいだった。




だが、考えるよりも先に体が動き、荷物を持って外に走り出た。

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