第177話 真実を知る
スタッ、スタッ、スタッ。
甲高い足音が部屋中に響く。
「くそっ、姿が見えてきやがった。あのまま光となって消えてくれねえかなとか考えてたのによ。」
「そんな優しい世界じゃないわ、特に私たちにはね。」
「追放されてる者に慈悲はないか、なあ、この感じってよ。」
「間違いないわ、殺意や悲しみ、苦しみや憎悪、全ての負の感情があそこには結集してる。」
スタッ。
足音が止まり、その正体が見えてくる。
その身は純白に包まれ、身長は2mほど。
ぱっと見はエルフと変わらないように見えた。
だが、
決定的に違う部分が見つかる。
「なあ、こいつ。」
「顔に、口しかないわ。どういうこと、あの体に何が起きてるの?」
「分からねえけど、ピンチなのは本能で理解してるぜ。」
カタカタカタッ。
その手に持つ大剣が震えてるのが分かる。
(武者震い……じゃねえな、俺の体は気付いてる。今の俺があいつとまともにやり合って勝てる確率は、限りなく低い。)
「あら、生きてたのね、運がいいのかしら。」
その白いエルフから、メイリンの声が。
「メイリン、あなた、意識はあるのね、なんでこんなことをーー。」
「黙れ。」
ズザーッ!
ドゴーンッ!
クロウの視界から、一瞬にしてアーシェが消え背後の壁に叩きつけられていた。
「アーシェ!」
ポタッ、ポタッ。
身体の至る所から流血が。
「えほっ、えほっ。ギリギリ生きてるわ、背中に風魔法を張ってなかったら粉々になってたわね。」
「山勘で防御したのかしら、やっぱり運がいいわね!」
シュンッ!
風を切り、スナイパーの弾丸のような速さでアーシェに迫る。
「くっ!」
「あなたは厄介だから、早めに死になさい!」
ガギーンッ!
メイリンの手で刺そうとする動作を、クロウは大剣で受け止める。
「そんなことさせるかよ、お前の敵は俺だ!
ズンッ!
全ての力を乗せ、突き攻撃を放つ。
スッ!
だが、メイリンは大剣に片手を乗せ、空に避ける。
「んなっ、見えたってのかーー。」
「仕方ない、お前から殺してあげるわ!」
ガギーンッ!
メイリンの足蹴りを、右手で受け止める。
グギッ。
今までの敵の衝撃とは段違い、
そして、嫌な音が響く。
「うはっ!」
ズザーッ!
そのまま地面を削りながら吹き飛ばされる。
(くそっ、今ので左手の骨が逝ったな、これじゃあ2刀は使えねえ。)
ギリッ。
クロウの顔は痛みで歪む。
「うーん、かなり本気で蹴り飛ばしたのに体どころか腕も消し飛ばせないのですね、この力を扱い尽くすのはまだ先のようですわ。」
「はっ、冗談きついぜ、こちとら身体中が悲鳴あげてるんだ、そろそろパーティもお開きの時間じゃねえか。」
「あら、まだ延長してるのよ、あなた達が全員死ぬまでね!」
ザッ!
メイリンが走り出そうとした瞬間、
ピカーンッ!
足元が光り輝く。
「私も忘れないでほしいわね! 燃え上がれ!
ボァァ!!
ドゴーンッ!
足元からは炎が巻き上がり、空からは雷撃が。
だが、
「ふふっ、こんなものですか、笑っちゃいますね、レイヴァーの力の弱さに!」
ブンッ!
ファサッ!
片手の一振りで、魔法はかき消される。
「本当に厄介ね、普通なら丸焦げの火力だというのに。」
「あら、そうなの?なら嬉しいわ、ちゃんと強くなってるって自覚できて!」
「狂ってやがるな、てめえは。アンジュのことも殺そうとした、テーベを変えようとしてる王女だってのによ。」
「はぁ、まだあいつを王女だというのですか、愚か者ですね。」
バーンッ!
突如一つの大きな目が開眼し、衝撃波が2人を吹き飛ばす。
「げほっ、なんだ今のは。」
「はぁ、はぁ、分からないけど、もう目は閉じてる。何かの準備か、リセットしたとか。」
「愚かなお前達は、自分に何が起きたか分からないレベルで私が綺麗さっぱり終わりにしてあげますわ。さあ、どちらから死にたいですか?」
クイッ。
メイリンは真っ白な歯をだし、不適に笑いながら首を傾げる。
「はぁ、はぁ、あと何分行ける、アーシェ。」
「どうかしらね、考えることすら無意味なレベルの時間かしら。」
「俺も同じだ、けどっ、ここで逃げるのは。」
「私たちが求めてる結果じゃないわね。どれだけ無理をしてでも、みんなを避難させて私たちも逃げるわよ。」
「ああ、なんとか隙を作るしかない、最後までダンスに付き合ってくれよ、俺のパートナー!」
シュンッ!
クロウは片手で大剣を構え走り出す。
「やってみせるわ、もうこれ以上誰も死なせないために!」
ボァァ!!
アーシェも炎魔法で応戦する。
「はぁ、無駄なことを。」
ガギーンッ!ガギーンッ!
メイリンとの戦いはまだ終わる様子もなかった。
ところ変わり、傷だらけのアンジュはエリカに寄り添う。
「今応急処置をしたる、耐えるんやでーー。」
「そのような時間はございません、このままでは皆さんもやられてしまう。」
「そんなことない!兄さんと姉さんならメイリンを倒してくれる!」
「であれば、これは保険で構いません。今から私は、誠に勝手ながらあなたに私の記憶を流し込みます。それは、全てがいいものとは限りませんが、あなたに知っておいて頂きたい事なのです。私のわがまま、一つだけ聞いてください。」
コツンッ。
シュイーンッ!
アンジュの頭がエリカにくっつく。
すると、魔力のようなものが頭に流れ込む。
(な、なんや、これは!?)
(エリカリット!?なんであなたがこっちに!?)
ふわふわした空間の中で、一緒に会えるはずのない2人が出会う。
辺りには何もなく、雲の上にいるような感覚。
(サリアリット!?それはこっちのセリフや、2人が同じ空間にいれるわけ。)
ズザッ!
突然、同じ姿をした2人の目の前に1人の女性が現れる。
(なんや、誰や?)
スーッ。
そのエルフは、2人の体を通り抜けていく。
(実体がない!?てことは、ここは現実じゃないってこと?)
(わけが分からん、あのエルフはーー。)
クルッ。
2人が振り返ると、そこには手を高々と上げて話すエルフの姿が。
その内容は、
「皆のもの、今ここに宣言する!テーベは、初代主として、私が、ドリュアス・アルテミスが務める!」
彼女の言葉はいったい……。
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