第176話 第二ラウンド
ポトンッ。
真っ二つに切り落とされたドリュアスは地面に落ち、ソーマは元の姿に戻った。
アンジュの攻撃は、的確にドリュアスを貫いたようだ。
「なんで、アンジュ王女がここにいるの、私たちは何も感じ取れなかった。」
「魔力を消して天井に隠れていました。申し訳ございません、皆様がボロボロになって戦ってくれている中、何もしなかった。」
「そこは、俺に謝らせてくれ。これは、俺とアンジュで考えた作戦なんだ。」
「そうやったんか、まあ、ソーマを止められたならなんでもええわ。さあ、早くドリュアスを砕いてしまわな。」
スタッ、スタッ、スタッ。
エリカはソーマの近くに転がるドリュアスに近づく。
「や、やめ、ろ。それは、この世界を救う、唯一のものだ、ドリュアスは、テーベにとってーー。」
「クソ兄貴、あんたは間違えとるわ。ドリュアスは、この世界に確かにあったら良いものなのかも知れへん、けど、それを作るためにいくつの命を犠牲にした。」
「そいつら、も、光栄、なはずだ。国のために、自分を、活かせるんだぞ。」
「クソ兄貴にそんなこと決める権限はない、まずは頭を冷やすんやな。」
スッ。
エリカがドリュアスに触れようとすると、
クロウには、何か嫌な気配が迫っていた。
魔力ではない、他の悍ましい何か。
(っ!?だめだ、あれから何か起きる!!)
「エリカ!離れろ!」
「っ!?」
ズザーッ!
クロウの声に反応し、エリカは距離を取る。
すると、
シュイーンッ!
ドリュアスから赤色の禍々しい魔力が、どこかに向かう。
「なんや、何が起きてる!ドリュアスは壊したはずやろ!」
「この方向は、誰もいないはず……いや、まさか!!」
アンジュが振り向いた方向には、
スタッ、スタッ。
血を流し、足を引きずりながら歩いてくるメイリンの姿が。
「はぁ、はぁ、それは、私のものよ。この時のために、何年も費やしてきた、ソーマ、私を利用してたつもりでしょうが、それはこちらも同じよ!」
「メイリン、てめえは俺に言ってた、よな、世界を変えれるのは俺だけだとーー。」
「そんなことを信じてくれたのが、私にとって好都合だったよ、私にはそこまでの純度に仕上げるのは些か心が痛んだからさ、とても助かったよ!さあ、私の力になれ!ソーマ!」
シュイーンッ!
ドリュアスの魔力がメイリンの周りに纏わり、ソーマの体からも魔力が吸われる。
メイリンの周りの魔力は、本体が見えなくなるほどの濃さであった。
「な、なんで、くそが!貴様は、貴様は俺がこの手でぶっ殺してーー。」
「もう遅いよ、気付かなかった自分の弱さに涙を流すんだね!さあ、私の贄となれ、ソーマ。これが、ドリュアスを持つものの本当の力さ!」
ピカーンッ!
さらに神々しく光るドリュアス。
その光は、謁見の間を包み込むほど。
「くそっ、眩しくて何も見えない。アーシェ!魔力は何か感じるか!」
「いろんなものが混ざり合って、とても気持ち悪いわ。何が起きてるのかもさっぱりつかめない、みんな!警戒はとかないで!」
シュイーンッ!
じわじわと、ソーマの体がメイリンの中に吸い込まれていく。
手、足、体と吸収され、最後に頭が残る。
「なんだよ、なんだよこれ、ふざけんな!俺だって長年頑張ってきたんだよ、俺は、俺はただ、父さんの無念を、晴らしたかっただけ。」
シュインッ!
ドゴーンッ!
メイリンから周りのすべてを消しとばす勢いの風圧が。
そして、皆感じていた。
あそこに生まれたのは、今まで出会ったものの中で1番危険なものだと。
「ちっ、まだ姿が見えねえ。アーシェ、俺が先行する!カバーを頼む!」
「分かったわ、いくわよーー。」
ピカーンッ!
メイリンのいるであろう場所から、何かが一瞬光る。
(なんだ、光?……違う、この匂いは血だ、てことは!)
ズザッ!
クロウは勢いを殺し、大剣を構える。
「全員!守りを固めろ!やばいのがくるぞ!」
「えっ!?」
シュンッ!
ドゴーンッ!
メイリンから赤く光る枝のようなものが複数突き出される。
それは、クロウたち全員を狙い撃ちにした。
ガギーンッ!
大剣で受け止めるも、勢いは完全に捌ききれない。
「くそがっ!」
ドゴーンッ!
クロウは壁に叩きつけられる。
スサーッ。
だが、体の周りを風が覆いダメージは少なかった。
そう、アーシェの魔法だ。
「はぁ、はぁ、風魔法で衝撃は和らげられたかしら。」
「助かったぜアーシェ、あっちの3人は!?」
クロウたちがエリカたちの方を向くと、
「痛っ、ドリュアスの本当の力なんて、聞いたことあらへん。どないすれば……っ!?」
ポタッ、ポタッ。
エリカに向かってきた赤い枝を、アンジュが捌きつつその身で受け止めていた。
手や足、腹からは真っ赤な血が。
「えほっ、ご無事ですか、エリカリットさん。」
「アンジュ王女!何してるんや!」
スーッ。
力なく崩れるアンジュをエリカは受け止める。
「なんで、なんでうちを守ったりなんか!」
「あなたには、謝らなければいけないことがたくさんあります。だから、生きてもらわないと、アルテミス家の方々に顔負けできない。」
「そんなことの為に、命を張るなんて!」
「エリカさん、頭を私にくっつけてください、ほんの一瞬だけ、あなたに私の記憶を共有します。」
ピトッ。
シュイーンッ!
アンジュの中にあるものが、エリカとサリアの中に流れ込んできた。
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