第168話 操られた者
タタタタタッ。
アーシェとノエルは城の先に進んでいた。
やはり、辺りには生き絶えたエルフが。
その姿を見るたびに、2人の心は傷つけられていった。
「こんなことをするなんて、犯人が誰であろうとも許せないわ。」
「けど、レイヴァーのことを、クロウの目標も忘れてはダメだよ、不殺の掟は僕たちが成し遂げるべきものなんだ。」
「分かってるわ、だから、私が消し炭にしてしまう前にしっかり止めてちょうだいね。」
「僕任せなのはどうなのかな、まあ、どうにかするよ。余計な罪を、君たちに背負わせたくない。」
タタタタタッ。
さらに進むと、
「待って、誰か後ろからくるわ。」
「柱の裏に隠れよう。」
スッ。
背後から迫る者に対して、2人は隠れる。
「すんっ、すんっ。ダメね、爆発の炎で魔力が感じ取れない。」
「敵だったら厄介だ、タイミングを合わせて攻撃をしよう。」
「分かったわ、いくわよ!」
ズザッ!
2人が構えて柱から飛び出すと、
「待て!ウェルダンはストップ!」
スッ。
クロウの言葉が響いたとき、アーシェの手のひらがクロウの顔面に迫っていた。
「ク、クロウ!?なんで私たちだってわかったの?」
「足音だよ、人には特定のリズムと履くものによって差が生まれる。それが、2人のものと俺の頭の中で一致したから急いできたんだ。」
「クロくんすごいんだよ!この先に2人が走ってるって言って、本当に当てたの!」
「そ、そう。あ、燃やす寸前で私も止められてよかったわ。」
「本当だよ、こんなところで焼かれてる場合じゃねえ、そっちはどうだった?」
レイヴァーは合流したことで、情報共有をする。
「蠢く会が出てきたってことは、王女やメイリン、ソーマも絡んでる可能性があると見て良さそうね。」
「そっちは、新生モンスターの出現か。ゴーレムではなくても、蠢く会は多くの手札を持ってる、不思議なことじゃないな。」
「だとしたら、この先の人たちがもっと危険な目にあってるかもしれない、サリア達も急ごう!」
「おう!」
ズザッ!
4人が走り出すと、
カタカタッ。
何かが動く音がレイヴァーの耳に届く。
「ん?今何か動いたな、生存者か!?」
「確かに何か動いたけど、僕たちの周りに息してるエルフはもう……。」
クルッ、クルッ。
辺りを見渡すが、皆の目には息を引き取ったエルフしか映らない。
「気のせいじゃないの?それか、何かを踏んだとか。」
「そう、なのか?……いや、あそこだ!」
スッ。
クロウが指差す先に、体を震わせてるエルフを見つける。
「本当だ、彼は生きてるよ!」
「安全な場所に運ぶぞ、ノエル、手伝ってくれ!」
「分かった!」
タタタタタッ。
クロウとノエルは震えるエルフに目掛けて走り出す。
「アーちゃん、サリア達も他の生存者を探そう!……アーちゃん?」
「何か、変。あのエルフ、何か違うわ。」
「違う?違うってなにが?」
「なんで言えばいいのか分からないけど、すごく嫌なものを感じる、魔力とは違う寒気のようなものを。……これは、なに。」
アーシェの不安をよそに、クロウとノエルはエルフに声をかける。
「おい!まだ生きてるよな、ここは危険だから少しでも安全なところに動かすぞ!」
「骨折をしてるね、僕とクロウガルトで抱えて運ぼう。」
スッ。
2人がエルフを抱えようとする2秒前、
アーシェの中で、嫌な感覚の正体がわかった。
(そうよ、あのエルフからは魔力を全く感じない、クロウと同じように。オールドタイプは人族にしか存在しない、魔力を持たない他の種族は死を意味する。だとしたら、考えられることは1つ!)
「2人とも!離れなさい!」
「へっ!?」
クロウとノエルも瞬間的に感じ取った、アーシェの本気の声と微かなエルフの殺気を。
「がぁ!!」
ブンッ!
なんということだ。
骨折をし、身体中傷だらけのエルフが2人目掛け飛びついてきた。
「おわっ!」
「なんで僕たちを襲うんだ!」
そう、助けを求めた動きではない、確実にその手で切り裂きにきていた。
「おいおい、なんの冗談だよ、俺たちは味方だ!争う必要はない!」
「がぁ。」
スタッ、スタッ。
エルフは体を引きずるように動かし、立ち上がる。
そして、一歩一歩近づいてくる。
「なあ、話を聞いてくれ!俺たちはーー。」
「クロウ!その人から離れて先に進むわよ!」
「なんでだよ!こいつは、まだ生きてるじゃねえか!」
「いいえ、死んでるわ。そのエルフからは、魔力を全く感じない、あなたと同じように。」
「はっ!?だったら、なんで動けるんだ……まさか、うそだろ。」
クロウはエルフの目を見て気づく、黒目がなく、真っ白な目で動いてる姿を。
「その人は、もう死んでる。考えられるのは2つ、死んだ体を操られているか、死んだ体を甦らせて戦わせてるか。」
「そんなこと出来ていいのか!?死者を甦らせるなんて。」
「私も実際に見たことはない。けれど、魔族の館の図書館で見たことあるわ、禁忌の魔法として死者を甦らせることができるものを。」
「嘘でしょ、っ!?みんな、周りを見て!」
ドサッ、ドサッ。
気を取られていた隙に、周りには同じように白目で動かされているエルフが多数。
10人はくだらない。
「囲まれてる、それに僕たちに向けられてるこの感じ。」
「ええ、明らかな殺意よ。」
「そんな、こんなことって。」
ジリジリとエルフ達は距離を詰めてくる。
まさしくゾンビのように、着々と。
そんな中、クロウの心は怒りに震えつつあった。
「ふざけやがって、蠢く会だとかソーマだとか、そんなの関係ねえ。相手が誰であっても、俺が、絶対にぶっ飛ばす。」
「クロウ、指示を頂戴!」
「全員、王女と謁見した部屋まで走り切るぞ!こいつらは死んでるかもしれない、けれど2度も死を体験させる意味はねえ、ただ突き進め!」
「サリア達のリーダーっぽい命令だね、OK!」
ズザッ!
レイヴァーはエルフをかわしながら、謁見の間走り出した。
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