第133話 心境の変化
スタッ、スタッ、スタッ。
レイヴァーはサラミスの町に入る。
先頭をミリアと名乗るエルフが歩き、周りは10人のエルフが囲っている。
「先にお詫びさせてもらう、矢を放ったこと、すまなかった。」
「許す……とは言えないけど、治療させてくれるなら水に流すわ。」
「分かった、ではあの奥に見える建物が治療室だ。ぜひ使ってくれ。」
「俺もついていくぜ、アーシェ。」
「ええ、ありがとう。」
スタッ、スタッ。
クロウとアーシェが治療室に向かう。
「では、2人は私の家に来てもらおうか。そこで、これからのことについて話し合おう。」
「分かった、アーちゃん達には誰が伝えてくれるの?」
「おい、頼む。」
「はっ!」
スタタタタッ。
1人のエルフがクロウ達に伝えに行く。
サリアとノエルはミリアの後を続くが、ボソッとサリアが呟く。
「言っておくけど、サリアはアーちゃんを射ったこと許してないから、これから先も含めてね。」
「お前は、何故あの魔族に執着する。エルフの存在意義を忘れたか!」
「そんなの、昔の人が考えた一つの方針でしょ!世界は常に新しくなっていく、過去のことばかりこだわってるだけじゃ、置いていかれちゃうよ。」
「知ったようなことを、まあいい、話は詳しく聞かせてもらう。そこのニューマン、変な動きは見せるなよ。」
「分かっているよ、僕だって体を射られたくないからね。」
スタッ、スタッ。
サリアとノエルは家に向かった。
場所は変わり、クロウとアーシェが向かった治療室。
あいにく医者は不在であったため、クロウがアーシェを治療していた。
警戒はされているだろう、クロウ達に集合場所を告げてきたエルフは、そそくさと消えていった。
ピタッ。
シュッ、シュッ。
消毒液をつけた布で、血を拭う。
「痛いと思うけど、我慢してくれよ。」
「できるだけ優しくお願いね。」
グッ!
矢を引き抜き、止血していく。
「痛っ!ちょっと、優しくって言ったじゃない!」
「これでも優しくやったつもりだよ!素人なんだから多めに見てくれ。」
「あなた、私がいつもウェルダンにするとか言ってたことを根に持ってるんじゃないの?」
「いや、そんなことあるわけ……ないだろ?」
「言葉に迷いがあるわよ!」
パシンッ!
デコピンがクロウのおでこに入る。
「痛っ、治療してやらねえぞ!」
「そうしたら本当にウェルダンにするわよ?」
「なんだそれ!?あー、はいはい、ちゃんとやらせてもらいますよ。」
「丁寧にお願いね、お医者様。」
スッ、スッ。
そこからの治療は、スムーズに進んでいった。
「なあ、アーシェ。一つ聞いていいか?」
「なに?」
「なんで矢を受け止めた?お前なら、魔法で撃ち落とせただろ?」
「そうね、確かにそれは容易くできるわよ。けど、クロウはそれを望まないんじゃない?」
「まさか、俺のことを考えてなのか?……確かに、あそこで暴れたら不殺の掟を破ることになってたかもしれねえ。けど、俺のために手を怪我するなんて。」
スッ。
アーシェはクロウを見つめる。
「勘違いしないで、あなたのために怪我したわけじゃないわ。私も、変わりたいと思ってるだけよ。」
「変わる?どんな風にだ?」
「そうね、簡単にいえばあなたのようにかしら。」
「俺みたいに?話がつかめない、詳しく話してくれ。」
「だから、私はあなたを尊敬してるってことよ。何があっても、誰も死なせないように立ち回ってどれだけ自分が傷つくことになっても躊躇わない。とんだバカだとは思うけど、嫌いじゃない。」
アーシェは目を見つめながら話す。
「そういえば、アルタで前に言ってくれたよな。俺にやれないことは、アーシェがやるって。」
「ああ、そんなこと言ったかもしれないわね。」
「それに、俺はちゃんと返事をしてなかった。だから、今返事させてくれ。」
スッ。
クロウはアーシェに顔を近づける。
「俺も、アーシェにできないことは俺がやる。あまりないかもしれないけど、困ったときはまず俺を頼ってくれ。アーシェは、俺にとって大切な人なんだから。」
「な、何恥ずかしいこと言ってるの!このバカ!」
「な、なんで!?いやだって、今回みたいにお前だけに怪我させるのは俺としても辛いって言うか、不甲斐ないっていうか。」
「これは私の体が勝手に動いてやったこと、そんなに気にしないでいいの!はぁ、変なこと言われて体が熱いわ。」
「大丈夫か?冷えたタオルでも持ってくるか?」
「いらないわよ!それに誰のせいよ!この大バカ!」
ドクンッ、ドクンッ。
アーシェの心臓が激しく響く。
今までのアーシェなら、迷わずエルフを全員倒そうとしただろう。
だが、自分の身を犠牲にしてまでレイヴァーを尊重した。
彼女は、大きく変わってきていた。
(はぁ、なんでクロウに治療してもらうだけでこんなに疲れなきゃいけないの。次はサリーに頼もうかしら……いや、なんかそれも寂しいような。何この気持ち?)
アーシェはやきもちした気持ちを押し留め、治療を終え2人は外に出た。
「さて、ミリアの家に向かうか。」
「そうね、いきましょう。」
「あ、そうだ、アーシェ。」
スッ。
アーシェの前に回り、顔を見つめる。
「な、何よ?」
「うん、顔は赤くないから熱はなさそうだな!」
「あ、当たり前でしょ!そ、そんなのわざわざ確認しなくていいのよ、バカクロウ!」
「俺の名前にバカはついてないんだけどなーー。」
ギリッ。
アーシェの鋭い目つきがクロウを突き刺す。
「はい、なんでもありません、行かせていただきます。」
「ふんっ!早く来なさい!」
スタッ、スタッ。
2人はミリアの家に向かった。
そして、アーシェの足取りは、少し楽しそうに見えた。
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