第111話 町からの使者

エデッサの町から走ってきた2人の男女はなんとか息を整える。


「エデッサにエルフって、ここにいるサリアじゃなくてか!?」

「はい、皆さんが外に出ていってから黒い肌のエルフがどこからか現れて、そしたら町が大変なことに。」


男の子が状況を説明していく。


「クロウ、その人たちは?」


タタタタタッ。

アーシェとノエルも合流する。


「申し遅れました、エデッサの町長の息子、キヨ・フォルテと言います、こっちは。」

「娘のユキです。」

「俺たちがゴーレムと戦ってる間に、町でエルフが暴れてるらしい、早く戻るぞ!」

「エルフが暴れてる?でも、エルフ独特の魔力を私は感じないわーー。」

「いや、いるよ。サリアには分かる、この感じはエルフだよ。」


ズザッ!

サリアがおもむろに走り出す。


「おい!サリア!」

「サリアリットを追いかけよう、クロウガルト!」

「ああ!2人は、エデッサにいたら危険だ。アルタに一旦避難してくれ。」

「わかりました、町をよろしくお願いします。」


タタタタタッ。

3人もサリアを追いかける。



(嫌な感じ、このドス黒い魔力は植物達の叫び、何をしているの、そのエルフは。)


いつものような笑顔が今のサリアの顔にはない。



その顔は、恐怖と怒りに染まっていた。


「おいっ!サリア!」


ガシッ!

後ろからクロウがサリアの手を引き、無理やり止める。


「ちょっと、クロくん!離して!早く行かないとーー。」

「分かってる!けど、少し落ち着け!」

「サリアは落ち着いてるよ、だから早く町を助けに行かないとーー。」

「それが落ち着けって言ってるんだ!」


ガンッ!

クロウはサリアに頭突きをする。


「痛っ、な、なにするの!」

「お前、1人で行ってどうする?1人で全部片付けるつもりか?」

「1人でも、やれることだけやるよ!あとはみんなに任せてーー。」

「え……。」


スゥー。

サリアの顔から少しずつ緊張が解けていく。


「エルフは長生きでも、焦る気持ちも分かる、けど、1人じゃどうにもできないことだってある。だから、俺たちがいるんだろ!」

「クロくん……。」


スタタタタッ。

アーシェとノエルも2人に追いつく。


「やっと追いついたわ、走るの早すぎよサリー。私たちを置いていくつもり?」

「え、あ、それはーー。」

「そうするつもりだったみたいだぜ。このおバカさんは。」

「ちょっと!クロくんーー。」

「ふうん、そう。」


スタッ、スタッ。

アーシェはゆっくりとサリアの前に歩く。


クイッ。

そして、俯いてるサリアの顔を覗き込む。


「……いいわ、反省はしてるみたいね。なら私は何も言わない。」

「アーちゃん……。」

「1人で突っ走ったら、守れるものも守れないことがあるよ。サリアリットなら、分かってるだろうけどね。」

「ノエルくん……。」

「そういうことだ、俺たちはお前と生きる。それが、レイヴァーの意思だ。

「……うん、ごめんね、サリア焦りすぎてたみたい。」


ニコッ。

クロウは優しく微笑みかける。


「よしっ、俺たち全員で急ぐか!」

「ええっ!いくわよ、みんな!」


タタタタタッ。

レイヴァーはエデッサまで走って戻る。




そして、4人が見た景色は。




家や地面から黒い木の根が突き出し、辺りはボロボロ。


多くの人が倒れ、数十分前までのエデッサとは雲泥の差。



「なんだよ、これ。植物魔法か?」

「そうだよ、サリアと同じエルフしか使えない特殊魔法。でも、この感じは。」

「何かわかるの、サリー?」

「うん、これは

「植物の悲鳴?どういうことだい?」


ノエルが問いかける。


「簡単に言えば、サリアの植物魔法は植物に協力してもらって発動してるの。けど、この使い方は無理やり植物を使役して発動してる、危険な魔法。でも……。」

「でも、なに?」


サリアは言葉を詰まらせる。


「この魔法の使い方は、現存するエルフには出来ないはずなの。サリアの記憶にも、図書館の記録にも残ってなかった。」

「じゃあ、私たちの前に見えるこれはなんでーー。」


シュンッ!

1本の黒い木の根がアーシェに突き進む。


「っ!?」

「アーシェ!  拳の響ケンノヒビキ三式サンシキ猛雷タケリイカヅチ!」


グルンッ!

バゴーンッ!

クロウが反射的に回し蹴りで、根を弾き飛ばす。


「大丈夫か!?」

「え、ええ。助かったわ。」

「根を動かした、てことは近くに別のエルフがいるのか?」

「うん、多分サリア達の近くにーー。」


ドクンッ!

サリアの心臓が大きく響く。


そして、背後に冷たい視線を感じた。


クルッ。

「あなたね、これをしたのは!」


サリアは振り向き、もう1人のエルフを捉える。



「ははっ、俺様の魔力を感じたか?完全に消してたはずなのによ!」

「魔力じゃないよ、サリアが感じたのはあなたの殺気。」

「なんだあいつ、真っ黒なエルフ?」


他の3人も黒いエルフを目にする。


「なあ、サリアリット、この世界はつまらないよな?」

「何を言ってるの?それに、なんでサリアの名前をーー。」

「当たり前だろ、だって俺はーー。」


シュイーンッ!

バゴーンッ!

サリアの周りに急に風が巻き起こり、ダガーを構え黒いエルフに突撃する。


「ソーマ!なんであんたが、こんなところにおるんや!」

「へへっ!出てきたかエリカリット!俺の愛しの妹よ!」

「気安く呼ぶな、ゲス兄貴!サリアリットは、絶対に渡さへんで!」


ガギーンッ!

サリアはエリカリットに変わり、戦いが始まってしまった。

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