第68話 感情の解放

3人は、クロウの姿を見て動けなくなっていた。


決して、何か魔法を使われたのでも、拘束されてるのでもない。


ただただ、恐怖によって体が動くことを拒んでいたのだ。


「あの姿、クロくん、だよね。」

「ええ、間違いないわ。けど、普段のクロウからは感じられない負の感情が溢れかえっているわ。」

「まるで、殺人鬼じゃないか。」


ドシンッ。

ノエルランスは尻餅をつく。


ズザッ、ズザッ。

仮面をつけたクロウは、ゆっくりと男の方へ歩く。



一歩一歩、着実に。



「殺す、殺す、殺す。」



彼の言葉は、アーシェの耳に届いた。


「まさか、負の感情に支配されてるの!?あれは、クロウが力を解放してるんじゃない、アレス家の力に使われてる姿。」

「そんな、じゃあ今のクロくんはーー。」

「不殺の逆、必殺の姿になってる。でも、規格外のクロウをどうやって止めれば。」


ズザッ!

クロウが大剣を振りかざす。


その刃先は、男の首を向いていた。


クロウの顔は見えないが、殺意が痛いほど突き刺さる。



ドクンッ!ドクンッ!

アーシェの心臓が大きく鼓動する。


(何を迷う必要があるの、アーシェリーゼ。私は、クロウがいなかったらもうここにはいれなかった。死んでたかもしれないし、自分で自分を殺してたかもしれない、生き方を教えてくれた彼を無かったことになんてしたくない!)


ズザッ!

体の緊張を解き、アーシェは大剣目掛け魔力を溜める。



そして、


「させないわ!氷の刃よ!凍刃フリージングソード!」


ガギーンッ!

クロウの大剣と氷の刃が鍔迫り合う。


バヒューンッ!

その衝撃波は、周りの草木を吹き飛ばす勢い。


「殺す、殺す、殺す。」

「あなたに殺させないわ!私が、必ず救い出してみせる!あなたは勝手に私を助けた、私の人生の道を作り出した、だからその責任はしっかり取ってもらうわよ!!」

「うがぁぁ!!」

「はぁぁぁ!!」


バギーンッ!

アーシェとクロウがぶつかり合う。


「殺す、殺す。」

「ほら、私を狙いなさい!あなたが殺したい相手は、私よ!」


ガギーンッ!ガギーンッ!

2人は激しいぶつかり合いを繰り広げる。


「アーちゃん、少し耐えてね。ノエルランスくん!あの人を捕えるよ!」

「な、何だ、何なんだ、あれは。」


ブルブルブルッ。

ノエルランスは体の震えが止まらない。



「何してるの!早く!」

「怖い、怖い。」

「もう、なんで!」


ズザッ!

サリアはクロウに殴られた男を助け起こし、


「守れ!守護シールド!」


バサッ!

木の葉が男を覆い隠す。


「これでよし、後は!」



ガギーンッ!ガギーンッ!

アーシェは全力でクロウを止めようとする。


しかし、力を解放したクロウに押されていた。



「なんて力、こんな力まで持ってるなんて、アレス家の人間はどうなってるの。」

「うがぁぁ!!」


ガゴーンッ!

氷の刃を砕き、アーシェが体勢を崩す。


「うぁぁ!!」

「やばっーー。」


シュッ!

クロウの拳がアーシェの眼前に迫る。



バサッ!

アーシェの体を木の葉が覆う。


「守れ!守護シールド!」


バフッ!

その拳を、サリアの植物魔法で弾く。


「ありがとう、サリー。」

「ううん、サリアも手伝うよ。必ずクロくんを取り戻そう!」

「ええ、もちろんよ!」

「殺す、殺す、殺す。」


ズザッ!

アーシェは氷の刃を作り出し、サリアはダガーでクロウの2刀とぶつかり合う。


ガギーンッ!ガギーンッ!

2人の全力で、クロウと互角か少し下回るほど。



「殺す、殺す、殺す。」

「死なないわよ、あなたの力なんかで!」

「そうだよ、クロくんは誰も殺さない、殺せない!」


バゴーンッ!

2人は距離を取る。


「はぁ、はぁ、流石に疲れるわね。」

「まだサリアはいけるよ、任せて!」


ズザッ!

サリアは一対一でぶつかり合う。


「クロくん!戻ってきて!サリア達を置いていくなんて、許さないよ!」

「殺す、殺す。」

「こんな力、全て使い切らせれば!」


ガギーンッ!

サリアは距離を取り、


(エリカリット、後でいつもの2倍体を貸してあげるから、サリアに力を貸して。)

(……はぁ、ええよ。うちもあんたに死なれたら困る、やったるわ。)

(ありがとう、お願い。)


ヒュイーンッ!!

サリアの周りに木の葉が舞う。


そして、


憑依セカンド交代チェンジ!」


ドゴーンッ!

サリアはエリカリットと入れ替わる。


「殺す、殺す、殺す。」

「はぁん、あんたずいぶん変わってしもうたね、けど、かなり楽しめそうやない!やれるもんなら、やってみ! 初舞ハジマリノマイ剣舞ブレイドダンス!」


シュッ!

ガギーンッ!ガギーンッ!

踊るように斬りかかるエリカリットの攻撃を、クロウは上手く受け流す。


「やるやない、けどその力はあんたのものであってあんたのものやない、そんな付け焼き刃の力じゃうちには勝てんで!」


ガギーンッ!ガギーンッ!

さらに2人の戦いは激しくなる。



少し距離を空けたところで、アーシェは考える。


(この感じ、サリアがエリカリットと交代したわね。でも、それだけじゃクロウを止めるには少し足らない。私は始まりの力ファーストギアは使ったばかりだから、すぐには使えない。……迷う必要もないわね!)


ズザーッ!

エリカリットはクロウに弾き飛ばされる。


「付け焼き刃でも、巨大な力には変わりないな、何かもう一つ解決の鍵があればーー。」

「それならあるわよ、エリカリット。」

「アーの姉さん、何する気や?……その目、なるほどな、ええよ、うちも力を貸したるから早く決着つけるで!」

「ええ、あなたとなら絶対にクロウを止められる、信じてるわよ!!」

「任せとき!!」


シュイーンッ!

アーシェの周りに、今まで見たことのない力が集まってくる。


辺りの植物は揺れ、空気も重くなってるようにも思える。



そして、


中堅の力セカンドギア入力オン!」


バゴーンッ!

アーシェは2つ目の力を解放した。

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