第49話 リィンの意思
スタッ、スタッ、スタッ。
レイヴァーの3人は、レッドパンサーとライアとの戦闘を終えナウサに戻った。
「先にギルドに報告に行くか。」
「そうね、蠢く会のことも伝えたいし。」
「じゃあ、ダイカンさんとリィンちゃんのところにレッツゴー!」
3人は多少の傷を負ったが流石の強さ、かなりピンピンしたコンディションで帰還した。
そこに、彼らのこれまでの苦労が滲み出ていた。
キィーッ。
ギルドのドアを開けると、
「あ、お帰りなさい!大丈夫でし……って!怪我してるじゃないですか!」
「ん?あぁ、ちょっと新種のモンスターと蠢く会の奴らとやり合ったからな。これくらい、後で治せばーー。」
「後じゃダメに決まってるじゃないですか!皆さんには軽傷かもしれませんが、そもそも3人とも戦闘に特化しすぎてる体になってしまってるんですよ!」
「え、それは私とサリーも含まれてるの?」
ギリッ。
珍しく優しい目が尖り、リィンの顔が険しくなる。
「当たり前です!私は今まで多くの冒険者を見てきたから分かります!」
「何かサリア達問題あるーー。」
「あります!」
ズンッ!
リィンは3人の前に仁王立ちする。
レイヴァーの3人ですら気圧されるほどだ。
「まずクロウさん!」
「はい!」
「お腹周りに打撲の痕、そして右足に裂傷、体全体の筋肉に過多の疲労!そんな体じゃ、本来の50%の力も出せませんよ!」
「お、おお。」
サッ!
次にアーシェの方を向く。
「次にアーシェさん!」
「は、はい。」
「魔力の著しい低下、両腕に打撲痕、頬に切り傷!見てるだけでこっちが痛くなります!」
「ご、ごめんなさい。」
サッ!
最後にサリアへ向く。
「最後にサリアさん!」
「ごくりっ。」
「両足に切り傷、上半身の筋肉の弛緩、両腕に打撲跡!いつも笑顔で乗り切ってるあなたでも、私の目は誤魔化せません!」
「う、うん。」
シュンッ。
3人は萎縮して、リィンにお叱りを受ける。
「確かに、皆さんのおかげでまたこの町は救われたのかもしれません。ですが、その戦士が傷だらけの状態だと私たちも心配なんです!無理させたんじゃないか、私達は信頼されてないんじゃないかって!」
「そ、そんなことないわ!私たちは、自分の意思でーー。」
「だったら尚更です!その命は、もうあなた達だけのものじゃありません、ナウサのギルドみんなのものなんです!」
ドクンッ!
3人の心臓にリィンの言葉が突き刺さる。
「ギルドにいち早く報告来てくれたのは感謝してます、ですが、まずは治療してきてからお話は聞きます!それまで、ここから先はあたしが入れませんよ!」
「わ、分かった!すぐ診てもらってくるよ、ありがとうな、リィン。」
「分かればよろしい。では、お茶を用意して待ってますね。」
「ええ、少し待ってて。」
スタッ、スタッ、スタッ。
スーッ、ハァー。
3人はギルドを出て、深い呼吸をする。
「こ、怖かった、リィンちゃん。」
「あぁ、数年世話になってるけど、1番怖かったぜ。」
「まあ、私たちも認識できたわね、信頼されてるってこと。そして、私たちのものさしで自分のことを判断してはいけないって。……じゃないと、リィンにまた同じことを言わせてしまう。」
「そうだな、俺たちレイヴァーの最初の課題は、周りのことをもっと考えるだな。」
3人は反省し、治療室で怪我の処置を受ける。
やはりリィンの言うとおり、処置室の医者もその怪我で平然と歩いてるレイヴァーに驚嘆しており、何かあればすぐ言うように念を押された。
数十分後、3人は再びギルドに戻ってきた。
「おう、おかえり、レイヴァーの初任務ご苦労だったな。」
「ああ、いろいろあったけどなんとか終わらせてきたぜ。そいうや、商人は?」
「無事に戻ってきたよ、ありがとうな。」
「良かった!そうだ、リィンちゃんは?」
クルッ、クルッ。
辺りを見渡してもリィンの姿が見当たらない。
「今お菓子を買いに行ったぞ、お前達にあげるって。」
「なんでそんなことを?私たちにお茶の準備までしてもらって、それだけで十分なのに。」
「あいつは、同じ過ちを繰り返したくないんだ。」
「どういうことだ?」
ズザッ。
レイヴァーは椅子に腰掛け、ダイカンの話を聞く。
「あいつは、元々ここナウサの町で俺の補佐をしていた、まあ、今みたいな感じでな。」
「そうだったのか、初めからアルタにいたわけじゃないんだな。」
「そうだな、でもある原因であいつは一度塞ぎ込んでしまった。5年前にあいつが1番信頼してたパーティがいてな、そいつらがお前達みたいにとても腕が立って、信頼されていた。……けど、リィンが最後に見送ってから、次姿を現すことはなかったんだ。」
「それって、まさか……」
シーンッ。
部屋全体が静寂に包まれる。
「ああ、当時の新種のモンスターに壊滅させられた。その時、リィンは気付いてたんだ、パーティの全員が疲労困憊だった事に。けど、優しいあいつらは苦しい顔一つ見せずにクエストに向かった。」
「その結果、もう……。」
「そうだ、あいつは半年くらいギルドの受付嬢としての役割を全うできなくなった。責任を感じてるんだ、自分が止めてたら生かせることができた命だったって。」
「でも、リィンは何も悪くねえだろ!戦士として、そいつらは最後までーー。」
「あいつは、優しすぎるんだ。だから、自分に関わる全ての人を家族同然に考えてる。……なあ、お前達は確かに強い。これは、ギルド長としての命令じゃない、リィンの父親としてのお願いだ。無理はするな、死んででも生きて帰ってくれ。」
クイッ。
ダイカンはレイヴァーに頭を下げる。
それは、1人の父親としての姿であった。
「ああ、分かった。約束だ、ダイカンもリィンも絶対に悲しませねえ。」
「ええ、私たちはあなた達がいなかったらここまで来れなかった。」
「それに!あの可愛いリィンちゃんに涙流させたくないし!サリア達、女の子泣かせる悪い子じゃないからね。」
「ありがとうな、レイヴァー。」
キィーッ。
ドアが開かれ、リィンが戻ってくる。
「あ、皆さん!すみません、少し外出てて。」
「いいえ、私たちも今来たところよ。」
ズザッ。
クロウは突然立ち上がりリィンに向け歩き出す。
「どうしました?クロウさんーー。」
バフッ。
クロウはリィンの頭を自分の胸に抱き寄せる。
「ありがとうな、リィン。俺は、俺たちは、リィンのおかげでこれまでも、これからも生きていける。何があってもお前の元から離れない、これからもよろしくな。」
「っ!?」
リィンの顔には恥ずかしさと嬉しさが込み上げていた。
その顔は赤く、そして笑みが溢れる。
「クロウさん。」
「なんだ?」
スーッ。
流石に深くリィンは呼吸する。
そして、
「人前でこんなことしてはいけませんよ!」
「ええ!?」
「はあ、クロくんはやっぱりバカだね。」
「そうね、体の治療はできてもバカを治す薬はないみたいだから。」
ズザッ!
リィンはクロウから離れ、お菓子を用意しに向かう。
「何を間違ったんだ、俺は?」
「ほら、早くこっちに戻りなさい。突っ立ってたら邪魔になるわよ。」
クロウは頭にハテナを浮かべ椅子に戻る。
その裏で、リィンは静かに誓っていた。
(あたしも、離れません、何があっても。)
笑顔のリィンがお菓子をテーブルに並べ、クエストの報告が始まった。
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