第12話 人と魔族の出会い

フワーッ。

アーシェの意識が静かに戻ってくる。


「っ……ここは、いったい?」

「気が付いたか、お嬢さん。」

「あ、あなたは?」


ズキンッ。

アーシェは身体のいたるところに痛みを感じる。


「痛っ、あなたが治療してくれたの?」

「まあ、治療したのは私だが、ここまで連れてきたのは他の冒険者の戦士だよ。」

「そう、なのね。っ!?」


アーシェは重大なことに気がつく。


自分は魔族、ここは人族の国アテナイ。



今、人族と魔族の関係性は最悪。

数少ない行商人のみが受け入れられている。


アーシェは顔こそ人と変わらないが、頭の黒い角が見た目で魔族と判別できてしまう。


そして、それを隠すために魔法を使い、念の為の帽子でカモフラージュしていた。


その帽子を、頭に感じなかった。




つまり、魔族とバレてしまう。


「どうしたんだい?そんなに慌てて。」

「いや、その、私はーー。」


サッ。

頭にカチューシャをつけていることに気づく。


そのカチューシャは、2つの角のデザインとなっており違和感なく付けられていた。



「こ、これは?」

「うん?何かおかしいのかい?」

「あ、いえ、なんでもないわ。その、助けてくれた冒険者はどこにいるの?」

「どうだろうな、1時間ほど前に出て行ったから、まだギルドあたりにいるのではないか?」

「ギルドね、ありがとう、お世話になったわ。」


スタッ。

タッ、タッ、タッ。

アーシェは傷を庇いながら、ギルドへ向かう。


「私を助けてくれた人、多分私はアテナイとスパルタの境界線ギリギリのところだったはず。それだったらかなり強い人、話だけでもしたいわ。」


スタッ、スタッ、スタッ。

ギルドの目の前までたどり着いた。


「人族の町、スパルタと違ってとても平和ね。」


キィーッ。

扉を開け、中に入ると少人数の冒険者達の視線を集める。


「あらっ、あなた少し前に運び込まれた人よね?」

「多分、そうね。あの、私を運んでくれた人知らない?」

「それだったら、さっきここを出て行ったはずーー。」

「ギルド長、この近くにはモンスターは侵入してきてないみたいだぜ。畑を荒らしたのは人の仕業じゃねえかな……あっ。」


扉から入ってきたのは、クロウであった。


クロウはギルドの仕事で、畑が荒らされた理由を探っていたようだ。


「あなたが、私を助けてくれたの?」

「うん、まあ、そうだな。もう動けるのか?」

「少し痛むけど、おかげで動けるくらいには回復できてるわ、ありがとう。少し、お話ししても?」

「……そうだな、外で話そうぜ。」


スタッ、スタッ、スタッ。

クロウとアーシェは、エデッサの真ん中にある噴水の近くのベンチに腰掛けた。



「改めて、私を助けてくれてありがとう。あなたのお名前は?」

「うん?クロウ、クロウガルト・シン・アレスだ。お前は?」

「私はアーシェ……アーシアよ。」


アーシェは

まだ人族を信じきるには、時間が足りなかった。



「アーシアか、なあ、聞いてもいいか?」


ジッ。

クロウはアーシェの顔を見る。


「何かしら?」

「1つ目、お前だろ?」

「っ!?」


ギリッ。

アーシェの目が鋭くなる。


「だったらどうする?あなたも私を売り飛ばす?」

「売る?そんなことするわけねえだろ、、俺にそんな権利はねえ。」

「なら、なんでこれを付けたの?」

「ああ、なんか隠してるみたいだったからな。多分、アテナイに住んでるやつじゃないのは分かった。」


クロウは真剣な顔で話す。


「魔族と人族が険悪なのは知ってるでしょ。あなたが助ける理由が見つからないわ。」

「そんな、種族間の関係性なんて俺はお前を助けたいと思ったから助けた、そんだけだ。」

「……変わった人ね、あなた。」

「お前に言われたくねえよ。」

「はっ?」


ギリッ。

2人の目つきが鋭くなる。



そのピリついた空気感を周りの人も感じとる。


「なに?私が変わってるとでも?」

「そりゃそうだろ、なんてったって。」

「なによ?」

「お前、


ドクンッ。

アーシェの心臓が大きく鼓動する。


「ど、どういうこと?」

「お前は相当強いだろ、けど、あの周りは傷が少なかった。あったのは、物理攻撃でできた傷だけ。お前は武器を持ってない、なら魔法を使った痕跡がないのは奇妙だ、なんでだと思う。」

「……。」


アーシェは何も言い返せない。

そう、余計なことを言うと、自分が何者なのかバレそうと感じたからだ。


「さっき言ったけど、その命はお前のものだ。けど、無下にするのはだから、何があっても生きられるときは生きろ。

「……その通りね、分かったわ。」


スーッ

2人のピリついた空気が和らぐ。


「そう、あなたに何かお礼がしたいの。何でもいいわ、何か望みはない?」

「何でも、か?」

「ええ。……あ、えと、私にできることならーー。」

「なるほどな、ちょうど良かったぜ。」


アーシェは自分の発言に後悔する。

何でもというのは、言いすぎたと。



そして、クロウが求めたもの。




それは、



「これでいいの?」

「ああ、それで頼む。」

「分かったわ、でも、なんで。」



アーシェは疑問に思いつつ願いを聞き受ける。


「なんで、肩マッサージなの?」

「いや、俺大剣背負ってるからさ、背中は特にきついんだ。背中って、1人じゃ治すの難しいんだぜ。」

「……はぁ、焦って損したわ。」

「何をだ?」

「うるさい!」


スパーンッ。

アーシェがクロウの頭を叩く良い音が響く。


「痛っ、何すんだアーシア!」

「あなたといると疲れるわ。けど、これだけじゃ私の気が済まないわ、他に何かないの?」

「だったら、クエストに同行してくれよ。」


ここから2人は行動を共にしていくのであった。

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