第8話 従者としての務め

キュッ、キユッ、キユッ。

大きな城を掃除するメイド姿の女性が複数人。


床を拭く者、窓を拭く者、掃き掃除をする者と様々。


「ねえ、昨日の城下の噂聞いた?」

「聞いた聞いた、暴動を起こそうとした魔族がいたらしいけど、すぐ鎮圧されたらしいね。ハデス様に刃向かうなんて、馬鹿な魔族。」


辺りには、城下の話をするものが多数。



そして、その中に1人黙々と掃除に徹する者がいた。


「ふぅ、ここが終わったら次は入り口のほうね。」


スタッ。

掃除道具を持ち、城の入口の方へ向かう。


彼女が、アーシェリーゼ・ヴァン・アフロディテ。

前魔王ザインの娘で、今は現魔王ハデスの元で従者として暮らす。


自分で決めたことに対する信念が固く、周りの魔族とはあまり良い関係を構築できていなかった。



いや、あえて構築していないというのが正解かもしれない。


それもそう、魔王ハデスによってアーシェの家族の消息は不明。今も、ハデスへの復讐と家族の情報を集まるために日々従者として暮らしているのだ。



ただ、努力家というのも間違いではない。


10年間も従者として働いた結果だろう。

今は従者の中でも1位、2位といった高い役職にまでなっている。


辛いことを乗り越えさせてくれたのは、ただ1つの気持ち。




それだけである。




「アーシェさん、少しいいかしら?」

「ん?なに?」

「これ、城下に買い出しに行ってきて欲しいんだけど、数が多すぎて他の人には頼めなさそうなの。」

「別にいいけど、今日何かあるの?そんな話は聞いてない気がするけど。」


アーシェは顎に手を当て、思い返す。


「なんでも、急に決まったらしいのよ。ハデス様が幹部会議をするとかで、多くの人が集まるらしいわよ。」

「幹部会議?……そう、分かったわ。私が買ってくる。」

「ありがとうね、よろしく頼むわ。」


スタッ、スタッ、スタッ。

メモを受け取ったアーシェは、城下に行くために一度部屋に戻り着替える。



「幹部会議、ね。数少ないチャンスは、今日ってことか。」


私服に着替え、アーシェは今住んでいる町、の城下に向かう。



城下は商いや、他種族の行商人、食事処や賭博など多くのもので賑わっている。


もちろん、アーシェは全く持って興味は示さないが。



「肉に魚に、野菜に豆に、後は……って、これを1人に買いに行かせるなんて私じゃなきゃ無理な欲求じゃない。」


アーシェは日頃から鍛えていた方もあり、スタイルはいいがその身からは想像もできないほど力持ちでもある。

それを頼りにしている従者も少なくない。



「はいよ、毎度ありがとうな!」

「いつもありがとう。」


アーシェは順調に買い物を進める。



「後は、魚と豆ね。早く帰って、いろいろ準備しないとーー。」

「そこの長い銀髪のお姉さん!」


アーシェの耳に男の声が聞こえる。


(右前から私の方に声がかけられてる。銀髪のロングヘアーは私しかいなかった、またね。)


アーシェは声のする方に顔を向ける。



そこには、黒い狼の顔をした魔族が。




「ねえねえ、この後暇?少し遊びに付き合ってくれよ。」

「私はあなたみたいに暇じゃないの、用がないならどいてくれる?」

「そういうなよ!こんな綺麗なお姉さん見つけたら、声をかけなくちゃ失礼ってもんだろ!」

「そっ、なら声をかけ終えたんだから私は行くわね。」


スタッ、スタッ、スタッ。

アーシェはスルーして隣を歩いて行く。


「おい、まあ待てって!」


ガシッ。

ジュワァ!

アーシェの手を掴んだ男の手がレアぐらいの焼き加減で焼かれる。


「熱っ!?なんだ!?」

「あ、ごめんなさい。虫でもついた気がして、反射的に燃やすところだったわ。」

「てめぇ、顔がいいからってなんでも許されると思うなよ!」


チャキンッ!

男の魔族は懐からダガーを取り出す。


「はぁ、やめといた方がいいわ。あなたじゃ私に勝てない。」

「舐めんなよ、買い出しに来てるような従者が! 闇の刃ダークダガー!」


ボワァァ!

シュンッ!

ダガーに闇を纏い、斬撃として撃ち出す。


「はぁ、ちゃんと忠告はしたわよ、後悔しないでね。 燃やせ!火炎弾ファイアーショット!」


ボァ!ボァ!ボァ!

手を伸ばし、火炎の弾丸が3発男に向かって射出される。


1つのサイズが、闇の斬撃を遥かに上回る。


「んなっ!?ただの従者が、連続で魔法を使えるなんてーー。」


バゴーンッ!

炎で弾き飛ばされた男は、壁に叩きつけられる。

その壁は、綺麗に男の跡を残す。



そう、魔法は本来一つの魔法を1発放つのが正しい使い方。


しかし、魔法に長けている者は自己流で数発放つことも可能にしている。



「あ、言うの忘れてたわ。最近の従者はかなり強いのよ、女だからって甘く見たら痛い目にあうから忘れないでね。



ザワザワザワッ。

辺りが騒がしくなる。


(こんなところで目立つのは得策じゃないわね、早く必要なもの買って帰りましょう。)



スタタタタッ。

アーシェはその場から離れる。



数分後、傷だらけな男の魔族は町の衛兵に回収された。



買い物を終え、城へ戻ると一つの噂が流れていた。



魔王ハデスが全ての重鎮を集める、と。

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