クラフターとしての本質


いつからだろうか。いや、最初からだったかな?クラフターになってから、ただただ自分の力で加工することにこだわっていた。

素材を知る。それはトーマスだけでなく、裁縫を教えてくれたアルマにも、革細工を教えてくれたペターにも言われていたことだ。

それを理解していた。いや、理解した気でいた。

素材によって加工方法が違うのは当たり前だ。それは魔力加工だとしても違いはない。

しかし、素材一つ一つに癖があるとまでは考えていなかった。もしそれが付与魔法に対してもあるのなら?付与が違うというのが、それぞれの癖によるものだとしたら?

たった一つの助言ではあった。しかし、それによってさまざまな可能性が頭の中に浮かんでいた。

急いで自分のクラフト小屋へと戻ったクレイはまたミスリルゴーレムの端材を机の上に置き、魔力で包み込む。

しかし今回は付与ではない。クラフターの魔力は少し特殊で、様々なことができる。

通常の加工に加え、能力の付与、これが主にクレイがやっていた使い方だ。

それを今回は素材の調査に使う。素材の加工など変化させるのではなく、魔力で包み込んで隅々まで調べてみる。

水のように隅々までしみこんでいく魔力。それによって端材の性質を確認していく。

付与の時は魔力がすべてはじかれ、中に入っていくことはなかった。しかし、ただ魔力で包んでいくだけであると、魔力がほんのわずかな隙間にすら侵入していく。

付与も加工も素材としての形や特性を変質させるもの。それゆえかこういった細かな隙間にすらはじかれてしまうようだ。


「…こうして調べてみると魔力が通る隙間って結構あるんだな…」


パッと見た感じ素材としての隙間はあまりない。おそらく水の中に入れても周囲が濡れるだけだろう。しかし、魔力の通り道のようなものはあるようで、外側だけでなく内側へも魔力が流れてこんでいくのがわかる。

しかし、これはあくまでただ魔力を流しているだけの状態。これが加工となると話が変わってくる。


「これをどうにか加工につなげることができれば…でもどうすれば…」


ただ魔力を浸透させるだけだと意味がない。試しに浸透させた後に付与をしようと魔力の質を変化させたら内部に入っていた魔力すべてはじき出されてしまった。つまり今の状態では付与はできないということになる。


「魔力が通る隙間はある…ならそれをどうにか利用することができれば…」


とりあえず浸透した魔力の道を広げることができるか試してみる。

付与など魔力の質を変えるとはじき出される。なので一応魔力加工にしてみるのだが、それでもやりにくさはある。

細い針の先で砂を積み上げるような繊細さが必要になってくる。こんな繊細さはクラフターになったばかりだとできないだろう。しかし、これまでに何度も素材加工を含め、様々な加工を魔力でやってきた。まだまだ甘いところはあるが、それでもこれくらいならば時間をかければ可能になるだろう。

小さな端材ではあるが、中に浸透していく魔力は結構な量入る。魔力の量だけで言えば付与を一つか二つぐらいつけれそうなくらいだ。

問題はそれをどうするかだが…。


「これ隙間広げることできないかな…」


端材の内部が冒険者ギルドの倉庫内のように迷路になっている。あの倉庫もかなり広い建物なのだが、素材を置くための棚がところどころにあるせいで全体的にみると迷路のようにもなっている。その棚を一か所に集めればかなり広くなりそうだな、とは思うがそれでは素材が取り出せなくなるので意味がない。

そしてこの端材も似たようなもので違いはそのところどころにあるのが棚ではなく壁であるということ。この壁を動かせればあの倉庫のように広い空間を作ることができるかもしれない。

とりあえずそれができるかどうかを確かめてみる。素材加工によって変形させることができればいいのだが…。

とりあえず一度いつも通りに魔力加工の方法で魔力を変質させると、浸透させていたすべての魔力がはじかれるように端材の中から飛び出した。


「うっ…これじゃあだめか。なら…」


おそらく魔力加工をしようとすると少し魔力が太くなるイメージなんだろう。だからすべての魔力を変化させると素材に押し返されるようにはじかれた。

つまりそれをするには部分的に魔力を変質させる器用さも必要になる。


「…やったことはないけど、これも練習だ…」


今まで付与にしろ加工にしろ、全体的に魔力を変換させていっていた。部分的な変換はしたことはないが、それでもおそらく今後これが必須になる技術だろう。とりあえず端材が変化することはないようで、何度でも挑戦できそうだからできるまでやっていこう。

魔力を浸透させながらルートを頭の中で覚えていく。迷路のようだがきちんと道はできている。下手な場所をふさぐとそこから先の道がふさがれて無駄になってしまう。そうならないためにも動かすべき場所も考えながら練習していく。


「…はぁ…」


いつも以上に神経を使う作業に思っていた以上の疲労感を感じる。

額に浮かぶ汗をぬぐい、一息つくと扉がノックされた。


「お兄ちゃん…」


心配そうな表情を浮かべた妹、ケティがそっと扉からこちらを見ていた。

どことなく不安そうな表情を浮かべているケティに笑みを浮かべて近づく。


「どうかしたの?」

「お母さんとお父さんが心配してて…」

「あぁ…依頼があるからってここしばらくずっとこもってたからな…」


ここ数日ご飯はクラフト小屋の前に用意してくれていた物を食べていた。

しかし、それ以外はずっと小屋の中で作業していた。ケティの顔を見るのも数日ぶりだ。


「はぁ…あまり心配ばかりかけるのも悪いから今日は家に帰ろうか」

「うん!」


クレイの言葉にケティは笑みを浮かべた。しかし、その表情はすぐに険しくなる。


「どうした?」

「……お兄ちゃんくしゃい…」

「…まず体洗わないといけないね」


クラフト小屋には着替えは置いてあるが体を洗う風呂場はない。まずは体を洗うことを決めてケティと一緒に自宅へと戻った。


自宅へと戻って一旦気持ちをリセットできた。

お風呂に入り、ご飯を食べてから甘えてくるケティを一緒にベッドへと入る。

思っていた以上につかれていたのか、ぐっすりと眠り、自然に目が覚めるとすでに昼近くになっていた。

とりあえず急いでお昼ご飯を食べ、昨日の続きをすることにした。


「さぁてやるか!」


身も心も軽くなったので、心機一転しきりなおす。

一つ深呼吸をして再度素材へと向き合う。魔力で端材を包み込み、少しずつ浸透させていく。

何となくだが昨日よりも魔力が扱いやすい。もしかしたら今まで気を張っていたせいで感じなかっただけで、思っていた以上に疲れていたのかもしれない。

その疲れが取れたからか、魔力の扱いもイメージしやすい。

迷路のように入り組んでいる端材の内部。その道一つ一つが手に取るようにわかる。


「よし…内部の構造はわかった。あとは…」


構造は把握できた。まあ、問題はこの後なのだが、少しずつ魔力を一番奥の方へと流していく。

昨日何度も失敗した。しかしその失敗の中で学んだことも有る。

流れ込んでいく魔力は少しずつ流し込めばある程度狙った位置で変質させることができる。逆に一気に変質させようとすると素材の外側で魔力が詰まり、そこに引き寄せられるように内部の魔力が巻き込まれてはじき出される。

つまり内部からの加工をする場合、一定の魔力を内部に送り、内部で魔力加工を発動、迷路のように入り組んでいる隙間を少しずつ広げるように加工していくことで、通常付与できない物にも付与できるようになる。

あくまでこれは魔物の素材によるものなので、加工品に関しては必ずしもそうとは言えないが、それでも新しい付与の仕方が判明したことになる。

昨日は途中で集中が途切れたりしてうまくいかないことも有ったが、今日は疲れもとれ、気分もリフレッシュできたのでしっかり集中できる。

覚えた構造で順番に魔力加工で内部の壁を押して隙間を広げていく。

一つ一つ。奥から隙間を整理していくように、無駄のないように整理していく。まるでパズルのようなその作業を続けていく。


「…よし、とりあえず一段落」


およそ半分ほど作業が終わった。まだ慣れていないからというのもあるが、端材であるのに結構時間がかかってしまう。

しかし、それでも昨日より気楽にできるようになっている。


「やっぱ休憩は必要なんだろうなぁ…」


身体を伸ばして一息つく。


「よし、もうひと踏ん張り頑張ろう」


気合を入れ、再度加工を続ける。

その後も集中して加工ができ、魔力加工が完了した。

パッと見た感じでは何も端材に変化はない。しかし、魔力の浸透は全く別の物になっていた。

ところどころにあった隙間はなく、無駄なく綺麗な魔力が浸透していく。そして一つ大きな魔力だまりができる場所が作られた。


「今のこれなら…」


おそらく付与ができるだけの事前準備はできたはず。

魔力を付与魔法用の物に変異させ、端材を包み込む。この加工をする前は全く反応がなかった。しかし、今回は違った。いくつか付与のリストが出てくる。

いつもの耐久値上昇。そして鉱石系だからか、切れ味上昇もある。

しかし、それとは違うものが増えている。

それが『衝撃吸収』。発生した衝撃を吸収する能力。盾としての素材としては申し分ない付与能力だ。


「…これ付与した状態で加工できるのかな…」


衝撃吸収は盾の能力としてはかなり有能かもしれないが、加工するのには癖がありそうだ。


「ま、これはあくまで端材だし、そこらへんは親方と相談すればいっか」


そう考え衝撃吸収の付与をかける。

特に何の抵抗もなくすんなりと付与が完了し、端材を鑑定してみてもちゃんと衝撃吸収が付与されていることが確認できた。


「できた!さっそく親方のところにもっていこう!!」


端材を手に、クレイは大急ぎで鍛冶屋へと駆け出して行った。





あとがき


なんか書いてて混乱してしまった(´・ω・`)わかりにくかったらすいません。

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