第五話 探しもの。

「探しものはなんですか?」


「……」

 あたしは思わず笑ってしまっていた。声を出すほどじゃないけれど。いつかみたいに吹き出すほどじゃないけれど。

 なるほど。シンプルだが、面白い問い掛けだ。

 問い掛けであり、お題だ。

 まるで世代じゃないあたしだって知っている。テレビ、CM、動画サイト、街中、友だちのおすすめ、好きなアーティストのカバー。

 耳にする機会は山とある。


『探しものはなんですか?』


 その後に続く言葉は、『見つけにくいものですか?』だろう。

 シンガーソングライター井上陽水の超超超…………超がいくつあっても足りないくらいの有名曲。有名曲であり名曲。


『夢の中へ』


 一応、知っている限りで思い出してみよう。

 七〇年代に発売された曲でありながら、古今東西様々な媒体で流され、古今東西様々なアーティストがカバーしている。それはもうアーティストのジャンルを問わずにカバーしている。

 印象的なエレキギターのリフから始まり、そこに乾いた音色のアコギが乗っかる。よく動くベースラインにシンプルなドラム。それから、もちろん井上陽水のあのなんとも形容しがたい声。アップテンポで、二分三十秒ほどの短い楽曲――なのだが、歌詞にもある通り、夢の中へ連れていってくれるような、そんな心地にさせてくれる、心にゆとりが持てるような楽曲である。

 最大の特徴は、やはり歌詞か。

 一体どういう発想、どういった切っ掛けがあれば、こんな歌詞が生まれるんだろう? と、唸ってしまうような歌詞。名歌詞。

 歌詞に関してはググれば出てくるだろう。ていうか、わざわざググらなくても、空でそんくらい思い出せるだろう。そのくらい有名だし、なんせ短いし、基本同じフレーズ繰り返しだから。

 だが。

 だが、それだけに難しい……!

 無茶振りゲーム。

 悩むのはその方向性だ。話を持っていく方向。歌詞になぞらえるか、しかしそれだと知らない人にとってはピンと来ないだろうから多少アレンジが必要だろう。そこの調整をやりながらも、お話作っていくのは、いくら無茶振りゲームといえども無茶である。では、まるで違う方向に持っていくか? しかし今回のお題、今までのお題と違って少々それが難しい。

 理由は――、


 お題がシンプル過ぎる。


 今までの無茶振りゲームを思い出してみよう。


 イエティと闘ったときのお話。

 自分がカートゥーンアニメになったときのお話。

 狸合戦に参戦したときのお話。

 十年前に犯した罪についての告白。


 ……こうして並べてみると、なんじゃそりゃって感じもするが。だんだん難易度が上がっていってる気もするな……。まあ、置いといて。

 無茶振りゲーム。

 無茶な振りに対して即興でお話を作るというシンプルなゲーム。だが、お題はシンプルであればシンプルであるほど難しい。指標に困るのだ。

 例えばの話、いきなり、

「なんか面白い話してよ」

 って、振られたら振ってきた奴に対して殺意が湧くだろう。殺意は言い過ぎにしても、なんかしら穏やかではない気持ちが湧くだろう。あたしだったら湧く。穏やか寄りの殺意が湧く。

 今回のお題。その辺りの匙加減は絶妙だ。流石雨梨。一見すると、如何ようにも料理出来るように思うが、実はそうでもない。それは、お話の土台となる根本の部分を最初から全て自分で据えなければならないからだ。素人がやろうとすると火傷しかねない。

 ううむ……。

「ああ、そのことなら――」

 あたしの一瞬の躊躇いを察したのか、珍しく、吉川さんが先手を切った。

 ――吉川さん。

 先週のことが頭を過ぎる。

 混迷を極めた無茶振りゲームの一戦。その勝敗は言えば、両者敗北という極めて不本意だけれど、普通に妥当だとしか自身思えない結果となった。

 反省。

 しかし、その原因を作ったのは彼女である。責任をなすり付けようとしているわけでは決してないとも言えない(そもそもそんなもんないが)。

 そんな発端となった彼女がどうお話を展開していくのかは些か気になるところだ。

 毎回毎回何かを取り込み、意味不明だけれど、彼女なりの進化――深化――を遂げる吉川さん。果たしてあの一戦から何を学び、どう深化しているのか……。

 気になりますね(実況解説風)!!

 ……伝わるかな? これ。


「言ってませんでしたっけ? 見つかったんですよ。常磐線(じょうばんせん)の脇に落ちていました」

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