第四話 罪と罰。6
「は?」
「え?」
雨梨と吉川さんが同時に声を上げた。
「ワシはそう思っとるんじゃ。でも、言われてみれば確かにそこはおかしいと思える」
ここで敢えて素に戻る。後頭部をかきかき。
「いやあ、あたしとしてはそう思っているんだけどさあ。吉川さんは違うって言ったじゃん? アシモフ先生がやったんじゃないって。それは安直だってそういえば言ってたよね? え? え~? じゃあ何が答えなのー? 教えてよー、吉川さーん。あたしもうよく分かんなくなっちゃってえ。だってえ、設定複雑過ぎるんだもーん」
「……っ!!」
ぶりっこしたようなあたしの声音で、やっとあたしのしたことの意図に気付いたのか、吉川さんは悔しそうに歯噛みする。あたしはその姿を見てにやにやと笑った。
くく。くくくくくくく。あはははははっ。ははっ。既に罠は張っておいたのだよ。吉川さん!
無茶振りゲーム――お題出題者へのオチの丸投げ。
それも最悪の形で。
ゲーム開始当初からあたしと吉川さんの間で投げ合っていたオチへの言及。根幹の話への言及。主導権の譲り合い。面倒な設定の押し付け合い。
結局のところ、今回のゲームは、今回のゲームに限って言えば、話のオチを付けることじゃなく、如何に相手にそれを丸投げするかということにあると思うのだ。
何がって言われてもわからんけど。
あたしとしてはね。
ここまで来てしまえば、勝敗や得点じゃなくて、もう云わば意地の張り合いみたいなものである。普通にオチ付けるわけにもいかないだろう。
あたしは散々自論を展開させて、設定もある程度固めて、しかもお話の中で有り得そうなそれっぽいオチを吉川さん自らに潰させた上で、ここで、このタイミングで敢えてぶん投げてみせたのだ。
時間的にも、ここまでの流れ的にも、吉川さんは答えざるを得ないだろう。そうするようにあたしも仕向けた。
あたしは言う。挑発するかの如く。
「どや? なんや思い出してきたか?」
「……っ!」
吉川さんの顔が真っ赤になった。自分の言った言葉をそのまんま返されてよっぽど悔しいと見える。
やっぱりと言うべきか、すぐには言葉を返さず吉川さんは押し黙るように俯いた。髪の間のほんの僅かな隙間から顔を覗けば、眉間には皺が寄っていて、口元はぎゅうっと結び付けられ、必死に必死に、ここまでした話を頭に巡らせて思い悩んでいる様子だ。
視線を雨梨に移すと、雨梨は呆れたような瞳を返してきた。「ば・か」と声を発さずに口を大きく動かす。あたしはふっと笑って肩をすくめた。勝者の余裕。
さて。瞳をもう一度吉川さんに向ける。果たして、彼女はどう返してくるか。
流石に、ここまできてまーた話を混ぜっ返すような行為はしないと思うけど。
でも、吉川さんだしなあ。
何をするか分かんないところがあるし……。
「ん」
よかった。どうやら覚悟を決めてくれたみたいだった。
上げられた顔からは決然とした意思が見て取れ、あたしは長かった戦い(?)の終わりを悟る。
吉川さんが口を開く。
あたしはゆっくりと吐き出される言葉を緊張して見守る。
「は、はれ…………?」
はれ?
「はっ!? 私は何を……。
夢……、夢を見ていた気がします……。
とても、長い夢を……」
「……」
「……」
あたしは雨梨と顔を見合わせる。お互い何とも言えないような言葉にし難い表情を浮かべている。
あたしたちの様子に構わず――いや、敢えて気付かない振りをしてるのか――吉川さんは続ける。
「何も思い出せません……」
こいつ……っ! オチぶん投げやがったっ!
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