転生アサシン
夜野やかん
第1話
白い。
最初にそう思った。
どこまでも白い空間で目を覚ました。
風や匂いから、室外というよりは広い部屋の中のように感じるが、周囲に色がついたもの、と言うより家具も小物も何もない。
壁の位置も天井の位置もわからないほどに辺りは真っ白だ。例えるとするならば、白色の闇に包まれているように。
なんなんだ、ここは。
遅れて、疑問がわく。
妙に現実感のない空間である。真っ白な部屋で目が覚めるなんて聞いたこともないし、少なくとも見覚えはない。どこだ、ここは。
夢か、それとも、拉致。
思考がはっきりしてきた。周囲を見回す。
「!」
両脇に警備員の制服を着た男が立っていた。
その男たちの存在と、気づくまでにこれだけの時間を要した自分に大きな恐怖を抱く。気配に気づかないままここまで近づかれるのは初めてだった。
人生の半分以上殺し屋をやっていてこんなことがあるなんて―――。
“殺し屋”?
ズキン、と頭が鈍く痛んだ。不快な痛みに頭を抑えようとして、カチャ、という音がなり、初めて気づく。手枷がつけられている。
手枷は金属製の小さな箱のようで、俺の手首から先の両手を格納している。
...だんだん思い出してきた。
俺は依頼に応じて対象を殺す、俗に言う『殺し屋』だった。
依頼を終えた帰り道、突然腹部に鋭い痛みと殺気を感じて反応できないまま―――。
「ああ、死んだのか、俺。」
「左様。」
白い空間に重厚な声が響いた。
両脇の警備員を見るも声の主は彼らではないらしい。
少し高いところに5つのもやのような、影のようなものが浮かんでいる。男か女か、人であるかどうかすらもわからない。
「ここはなんだ?天国か?死にかけの俺が見てる幻影か?」
「被告人は静粛に。」
カン、と木槌の鳴る音がすると同時に、5つの影は5人の人のような形に変化し、空中に腰掛けた。
「被告人?俺が?」
「そうだ。お前は『セト』だな。」
裁判のような応答に困惑する。
セト。そうだ。俺の名前だ。俺はセト。苗字は知らない。
「裁判長、夢かどうかを確認するために手枷をとってくれないだろうか。頬をつねらせていただきたい。」
「さて、被告人、セト。男性、17歳。人を殺して金をもらって生計を立てていたな。」
俺の頼みは華麗にスルーされ、俺についての情報が列挙される。
「俺はセトだが歳は知らん。いかにも俺は殺し屋だが『人を殺して生計を立てる』なんて回りくどい言い方をするな」
「被告人は私語を慎むように。」
チッ、と思わず舌が鳴った。結論が見えてこない。死んだと思ったら裁判が始まったこっちの身にもなって欲しいものだ。
「裁判長」
前の5人のうち一番左に座っている影が真ん中の影に呼びかける。
「被告人は状況を整理できず混乱しています。一度しっかりとした事情を説明されてはいかがですか。」
「ふむ。一理ある。」
裁判長と呼ばれた真ん中の影は頷くと再び口を開く。
「夢という認識も間違っていないし、天国という解釈とは少し違う。ここは死後の世界の一段階前―――君の記憶の中だよ。」
「死後の世界―――の、一段階前?」
裁判長は頷いて続ける。
「私たちは君の人生を裁く『裁判官』だ。厳密にいうと少し違うかもしれないが、君の人生における素行や罪、親切などを加味して来世を―――
裁判長の言葉はとてもどうでもよかったので、途中からセトは聞き流すことにした。言葉が止んだところでセトは切り出す。
「裁判なんだろ。めんどくさいから判決だけ言ってくれ。言い訳するつもりもねーよ。」
ざわ、と空気が揺らいだ。
「ふむ...」
再びざわついたあと裁判長が空中から巻物を取り出し、広げて読み上げた。
「懲役17267391918だ。」
「は?」
「ああ、君の世界の言葉でわかりやすく言うと...4852万年ほどかな。」
「どこで4000万年も過ごせって言うんだよ」
アホか、という感想を飲み込んでそう質問する。懲役4000万年とかガキの喧嘩か。
「『
「地獄、ね。」
地獄で4000万年?
生涯より死後の時間の方が200万倍長いってのはかなり複雑である。
裁判長は木槌でテーブルを軽く叩き、
「被告人からは『言い訳するつもりもない』と言質をとっている。減刑はなし。閉廷!」
その言葉と共に警備員が俺の両脇を掴み、おかしな回転動作をする。俺は頭が揺れる気持ち悪い感覚と共に視界が暗転する。
転生アサシン 夜野やかん @ykn28
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