第5話 献血

今まで俺はリスカ・アムカを繰り返してきたが、これからは他人の為に血を捧げたい。そう思った。


でも残念ながら俺は献血できない。俺の場合は「服薬してること」と「6ヶ月以内にピアスの穴を開けた」という2点が、献血のルールに引っ掛かっている。


俺は血を捧げることすらできない。


なんで献血したいと思ったかというと、少しでも他人の役に立つことで、俺の存在価値や自己肯定感を高めたかったからである。


他人の為、と言いながら全ては自分の為なのだ。


「南条あや」っていうネットアイドルの元祖みたいな人が昔いて、彼女はリストカットの衝動を抑える為に頻繁に献血をしていた。目的がなんであれ、献血は困っている人の役に立つ。


仮に南条あやが今の若者だったとしたら、小説家やエッセイストやインフルエンサーとして才能を発揮してたと思う。ちなみに南條あやの「卒業式まで死にません」という書籍が俺のアパートの本棚にある。素晴らしい名著だと思う。今もたまに読み返す。文才がすごい。そしてすごく心が優しいのが伝わってくる。


彼女は医療系のwebサイトで自分の日記の連載を持っていた。精神疾患を持つ若者を中心に人気を集め、ファンクラブができるほどだった。


ちなみに彼女は18歳の時にODで亡くなった。まだ少女だった。


昨日、スーパーの前を歩いていたら、幼い女の子が母親と手を繋いで笑って歩いていた。あの子ももしかしたら思春期を迎えて大人になったら、死にたいとか思うのかな。


なんて事を考えた。



こないだ、また耳に穴を開けた。いつの間にか俺の耳は穴だらけ、ピアスだらけになっている。これも自傷の一環かもしれない。どうでもいい。


ついでに俺の眉毛はもうほとんど生えてこない。恒常的に剃りすぎて毛根が死滅した。自分でちょっと眉毛を描くしかない。


最近、髪がかなり伸びてきた。でも寒いから切らない。


猫だって冬になると毛が増える。ふわふわもこもこで暖かい冬毛は体温を逃さないように保温機能も高く、冬の寒さから身を守る。


昨日の夜、また実家に帰った。猫に会いたかったからだ。俺がリビングのこたつに入ってスマホをいじっていると、俺の胡座の上に猫が乗って、寝始めた。俺は優しく猫を何度も撫でた。猫は常に暖かい。湯たんぽみたいだ。かわいい。愛おしい。


俺は実家の猫を溺愛している。もし、俺に子供がいたとしたら、こんな感じに愛するのだろうか。と不毛なことを考えた。


俺は結婚なんてできません!



とりあえず俺は惰眠を貪っている。アパートに篭って、暖かいベッドで寝てばかり。音楽聴いてスマホいじってタバコ吸ってゲームして動画見て小説読んで寝てる。そして軽く酒を飲む。そんな休日。どこにも行く気にならないし、行ったとしてもパチンコ屋かカラオケしか行かない。パチンコ打って、せっかく稼いだ金を水の泡にするくらいなら、俺はベッドで寝る。


今日はクリスマスイブで、365日の中で1番ラブホテルが混む日だ。みんな彼氏・彼女とやりまくり。かなりどうでもいい。俺にとってはいつも通りの休日だ。でも、今朝コンビニに行った時、酒とタバコと、あとショートケーキを買ってしまった。ケーキを買ったことで俺も少しだけ特別感を味わおうとしている。


別に寂しくなんかない。


俺は孤独な時間が普通の人よりもかなり多かった。高校2年からは孤立していた。20代前半のほとんどを引きこもって生活していたし、今も孤独は感じている。でも、孤独な人は孤独な人なりの人生の楽しみ方もあるから、俺はそれほど自分の抱える孤独を問題視していない。孤独への耐性もかなり付いている。


今、コンビニのショートケーキを食いながら氷結を飲んでいる。うまい。ぼーっとタバコも吸っている。


音楽聴きながら甘いものを食って嗜好品を煽る。こういう何気ない瞬間が俺にとって小さな幸せだったりする。


俺は俺の道をゆく。



俺は休みの日は横になってばかりだが、生産的な事を何もしないで1日が終わるのも勿体ないから、何かしたい。と思いつつ何もしない。俺はだらしない人間だ。


近所に男友達の1人や2人でもいれば「クリスマスイブに集まって遊ぼうぜ」みたいな予定が立つこともあるかもしれないが、俺は実生活の中で友達がいない。


友達がいない事が俺の中で当たり前になりすぎて、友達がいた頃の感覚を忘れた。


友達はいらないが、彼女は欲しいと思う。


でも実際に女の人から好かれやすいのは、男友達が多い男だ。


俺は常にマイノリティみたいな立場で生きてきた。でも、世の中には俺が思う以上にマイノリティが多くて、もはやマイノリティはマジョリティなんじゃないかとも思う。


俺のネット上の友達もマイノリティが多かった。そこで徒党というかコミュニティが出来ていて、俺には居心地が良かった。でもコミュニティの主宰者が自死してしまったことにより、俺のいたメンヘラコミュニティは自然消滅した。


Aさん、天国でも元気にやってるか。



コンビニで酒は1本しか買ってこなかった。普段は備蓄してあるお茶も終わってしまったので、ペットボトルに水道水を入れて飲み始めた。


最近の水道水は冷たくて、うまい。


夏場の水道水はクソぬるい。


日本では蛇口を捻るだけで水が出てくる。発展途上国では、めっちゃ汚い水が出てきて、それを濾過してからじゃないと飲めない。水を汲むために何キロも歩いてる子どもが世界にはたくさんいる。


イスラエルとハマスの戦争が始まってしばらく経つ。ガザ地区では90%以上の人が飢餓状態に陥りかけているというニュースを見た。WHOは即時の停戦を呼びかけたが、きっと無駄だ。


日本でこうやってダラダラできてる事自体が幸せなのだと改めて思う。


とりあえず今日はアマプラで適当に映画でも見て過ごそう。体が疲れてて、何もやる気にならん。



そんなわけで1年もそろそろ終わる。


とりあえず今年も生きてて良かった。


生きてる限り希望は残されている。0.01%くらいかもしれないけど、ZEROじゃない。


もしかしたら明日には人生が一変するような奇跡が起こるかもしれない。


せっかくバッターボックスに立っていても、バットを振らなければボールには絶対に当たらない。俺はデタラメなスイングでもバットを振り続ける。いつかボールが前に飛ぶと信じて。





6話に続く

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る