第53話





「いや〜、すまない、すまない。あの的は純ミスリル製であることには間違いはないのだけれども、純ミスリルはピンからキリまでキリまであるのは知っているでしょう?それはその中でもかなり純度が高いやつらしくて、なんとビックリ、純度98%!神に至っていない只人が生涯をかけて一つ作れるかどうかという至宝の一品だよ。」


 特待生エクストラクラスの者たちは目を疑った。何故なら、彼らの目の前にいるのは


「本当にごめん!だから許して!絶縁しないで!何でもするから!」

「・・・・・・・・・・・・」


 軽そうな言葉の割にはと、それをがいた。


「・・・・・・今回はシエル様に何も危害がなかったので保留とします。次に物を渡してくる時は構成物質も含めて教えて下さい。いくら膨大な知識を受け継ぎ、記憶ですら知識として継承される私達【世界最巧】でも普段は力を封印して現人神に至らないようにしているのですから、場合によっては対処不可能なこともあるのですよ。そもそも私達【世界最巧】の事情を貴方は知っていますよね?・・・・・・過去の行いも含めて未だ物申したいことがありましたが止めておきましょう。次はお気をつけください、エルサレム神聖法皇国法皇ローズ・L・エルサレム猊下」


 流石にこの状態をし続けるのは問題が発生すると思い、ソロンは無言を解いた。


「はぁ~、一国の王にして現人神である法皇ローズ猊下に対して遠慮のない言葉を言えるのは貴方だけよ」

「ご安心ください、シエル様。ので」


 シエルは思いっきり溜息をついて警告にも忠告にも聞こえる言葉を放ったが、ソロンの返事はやや事務的なものであった。


「【世界最巧】は調停者としての権力を持っていることをお忘れですか?」


 調停者――それはのこと。その解決方法は調停者の自己判断で行えるため、時として強引に解決したり、善を悪に、悪を善に変えたりすることができるという絶大な権力を持っている。ただし、その絶大な権力故に調停者は個人が名乗ってなれるものではない。【世界最巧】はそんな調停者を名乗ることが可能なものの一つだ。


「【世界最巧】は如何なる国にも属さず、何者にも縛られることのない絶対的な中立存在。今代は私がシエル様に惹かれたからこの国に留まっているだけで、正直に言えば国が滅びてもどうでもいいです。ついでに言えば、シエル様に仕えている間は【世界最巧】としての権力を使っていませんし」

「「「「「は?(え?)」」」」」

「・・・・・・なんですか、その反応は?」


 事実、シエルに仕えてからソロンは【世界最巧】の称号を名乗ったことはあるが、その権力を行使したことはただの一度もない。よく勘違いされやすいが、【世界最巧】など、中立寄りの立場の称号持ちは誰かに仕えたり、命令に従ったりしている間は称号を名乗ることは自由だが、権力の行使は決してしない。行使した瞬間、中立ではなくなることを意味するからだ。


「この規則は何代目かの【世界最巧】が決めたものであり、それ故に【世界最巧】は常に中立であり続けなければならない」

「【世界最巧】が代々その規則を守っているおかげで、世界または大陸クラスの称号持ちや現人神などの中立派は風見鶏をしていても罰せられることはないのよね〜」

「だからこそ、中立派を一掃したい者達にとって、今回ソロンがとった行動は棚からぼたもちというか、千載一遇の好機というか・・・・・・今代の【世界最巧】がやらかしてくれないか、期待して常に監視している。勿論、私達のような中立派ではないけど、中立派は存続してほしい一部の者達はそんな彼らの妨害であったり、最悪の場合のフォローをするための付き人であったりするんだけどね〜」


 中立派の規則を決めた【世界最巧】となると一桁台――ソロンの記憶が正しければ3代目――であり、その頃は激しい戦争の名残りが未だ残っていた時代とされている。特に数千年も生きれる幻想種―—天使、悪魔、妖精、精霊、ハイエルフ、エルダードワーフの六種族の総称―—と最強種―—竜(龍)族や神族のこと―—の中には、争いはもうりだと考えている者も少なからずいた。そのため、全種族の中でも最も短命で最弱の種族である人間族である【世界最巧】を筆頭とした中立派が結成された。


【世界最巧】が結成した中立派の加入対象者は以下の2つ。


①現人神や、『世界』または『大陸』クラスの称号持ち

②神族や竜(龍)族などの単体でも影響を成し得る種族


【世界最巧】が結成した中立派の存続条件は以下の3つ。


①中立派に加入する場合は、中立派に属する称号または役職などを十二始祖王に提出すること。脱退する場合は、脱退理由も付け加えて提出すること。

②中立派の者が特定の個人または集団に与する場合、中立派として入っている称号や役職などが持っている権限・権能等を一切行使しないこと。ただし、名乗ることは特別に許可する。

③中立派の者が特定の個人または集団に与している間、中立派として入っている称号や役職などが持っている役目は放棄してはならない。ただし、条件②に反する場合は自身が属する陣営でも、敵対している陣営でも、それらの陣営を擁護する陣営でもない、完全なる第三者の陣営による『協力』または『代行』を許可する。


中立派に属する者が一人も上記の条件のうち、いずれか一つ以上違反しない限り、たとえ派閥争いや戦争が起きたとしても、どちらの陣営にも与せず、それを咎められることも罰せられることもなく、もしも咎められたり罰を受けたりした場合は、与えた者とそれを命じた者にそれ以上のことを与えることとする。なお、この条件を意図的に破り、中立派の解体を策謀した場合は無効とする。また、十二始祖王のうちの二人、『神王』にして『原初の一』神族の始祖『“世界”の総体』“世界”の始祖の賛同がなければ、この規則を破棄し中立派を解体させることはできない。


 こうして、十二始祖王の後ろ盾もあり、中立派は存続し続けていた。

 勿論、風見鶏目的で入る者、中立派を解体させようと目論んでいた者も後を絶たないが、その全てを『神王』にして『原初の一』神族の始祖『“世界”の総体』“世界”の始祖は見破り、中立派の加入・解体には至らなかった。


 余談だが、ソロンは【世界最巧】ではあるが、『◯代目』といったものはない。正確には、既に100代を軽く超える程には代替わりが行われており、100代目以降からは数えなくなった。


「まぁ、どんなに対策をして完璧に作り上げようが抜け穴というものは必ず存在します。これはその一つですね。ちなみに、私が、というより【世界最巧】が使ったのはこれが初めてです。しかし、この抜け穴は昔から知られていましたよ。むしろ、知っていて、敢えて黙認という名の実質認可同然の対応でしたし」

「まぁ、中立派と言っても一枚岩ではないし、むしろ、どちらかの陣営に与したくないという理由で入る者が圧倒的多数だったからね。与したくないわけがどちらの筆頭も良い人であり、その人の下に就いても良いと思うから、どちらに与するか決められないという者はどちらにも支援したり協力したりするし、どちらの筆頭も悪い人であり、どちらにしてもその人には従いたくない、その人の下には就きたくないと思うからどちらも支援せず、むしろ妨害工作を行い、両方が共倒れになるように計画したりする者もいるほどだから。」

「前者は兎も角、後者に関してはその方が世界にとっても良い方向となることが多くて、中立派の行動制限で干渉できず見逃しました、では責任が本人達ではなく、制限した者たちに行くのよ。だからこそ、世界にとって悪い選択肢になるような制限は緩めているのよね。実際に6年くらい前に起きた悪徳貴族の大粛清と同じようなことが数千年前にも起きたらしいね。それも神殺しにまで発展したって聞いたけど、実際の生き証人と当時の記憶や記録を引き継いでいるであろう人に質問してみたいわ?」


 他の者達も興味があるようで、興味がないような態度を取りながら耳をこちらに傾ける者、目を輝かせながらこちらを見る者、どこからかメモとペンを取り出して取材する記者のように書く準備をする者、などと三者三様の態度をとっている。


「・・・・・・これって言っても大丈夫な内容なのですか?」

「・・・・・・内容を聞かれた君が私に話して良いか質問する時点で答えは分かり切っているでしょう?もしも話してはいけない内容であれば、禁則事項に抵触したとかで話せなくなるはずだから。最悪、神罰式が動くからそれで分かるでしょう?・・・・・・多分」


 ソロンはローズに確認をとる。もしも禁則事項に抵触するのであれば、言えなくなるだけならまだしも、最悪の場合、ここら一帯を吹き飛ばす危険性があったからだ。しかし、ソロンは自分にもローズにも警告が出ていないということは大丈夫なのであろうと思った。ただし、辺り一帯を吹き飛ばしかねない神罰式の起動にだけは予兆を見逃さないように細心の注意は払っているが。

 それにこの場にはすでに、同じクラスの同級生と、教職員の中でも第三皇女派に属し、かつ、信用できる者達――ソロンが自ら調べた――しか残っていないので、話しても問題はないと判断した。


「まぁ、良いってことなのでしょうね。まずは質問への回答ですが、実際に起きましたし、確かに神殺しにまで発展しました。しかし、6年前に起きた悪徳貴族の大粛清と同じかと言われればノーです。あれよりも規模は小さかったですね。何しろ、それ以前に“世界”への反逆事件が起こり、そこで悪さをしていた神族の大半は一掃されましたから。・・・・・・あれ、これは言えている?制限が緩和された?」


 その瞬間、ローズだけでなくエルフィーまでもソロンの方を向き、驚いた顔をしていた。





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