第51話





「『固有能力【小さな炎】』?自分が知っている付与系の固有能力の中では一番伸び代もあるし、第四段階《解放》状態まで行けば、神族や “世界” 以外が行使する付与系ではほぼ最強の能力となる。もしかしたら、神族と互角にやれるかもしれない能力のことかな?」

「お、以前話題にしていたね。是非とも我が国の軍に入ってほしい。本音を言えば、第3皇女殿下直属の近衛・親衛隊『グラン・ウォール』に入ってくれたらな〜、とか君はボヤいていたやつだよね?君が珍しく求めていたから記憶に残っているよ」


 以前、ソロンはとある討伐対象の情報共有を行うために軍閥会議に参加した際に呟いたことだ。その場には極一部の者達しか参加できず、失言しても多少は目を瞑ることが暗黙の了解となっているところで、ふとソロンが口にしたこと。それは、


『最近までは夜間しかシエルを残して王宮外に出かけることが少なくなってきたが、学園に入学した場合、男子寮と女子寮で別々になる可能性があるし、たとえ同じ寮にしてもらったとしても入浴や着替えの際はどうしても離れなければならない』


 性別の違い故に目を離さなければならない状況が存在する。そんな時でも護れる人材候補として上げたのが『固有能力【小さな炎】』。最初は弱い護り火のような力しかないが、その伸び代と最大効果は付与系の魔導や固有能力の中でもトップクラスであり、一部の固有能力しかない《極限解放》も存在している。


「見つけられたらなとは思っていましたが、まさかこんなところでとは・・・・・・一度、全校生徒の固有能力や魔導について本気で調べたほうが・・・・・・」

「止めなさい。あなたが本気で動くと、要らない情報まで入手して外交問題どころか国際問題にまで発展する危険性があるのですから」

「いや、ツッコむべき点はそこですか?」


 ソロンの発言にエルフィーはツッコミを入れ、そのツッコミにルカが更にツッコんだ。本来の正しい反応はルカのように『全校生徒のことを調べられる』という点に驚くことなのだが、ソロンの眼についてローズから大まかに聞かされているエルフィーにとっては、様々なことに活用しているため日常茶飯事だった。


「・・・・・・要らない情報?スリーサイズとか、身体的・年齢的な悩みとか、そんな感じのもの?国際問題にまで発展するかな?・・・・・・」


 しかし、ソロンの発言により場の空気が固まった。


「ソ、ソロン君?まさかとは思うけどさぁ〜、今までの調査もそんなことまで調べていたの!?」

「え?え?嘘ですよね??冗談ですよね???」

「ソ〜ロ〜ン〜!あなたは何ていうところまで調べているのよ〜!!」


 エルフィーは何度も瞬きをしながら困惑し、ルカは胸を腕で隠すようにして目で訴え、シエルは困惑と怒りがごっちゃ混ぜになった表情で、全員顔を真っ赤にしながら非難してきた。


「ん?何か問題でも?女性の裸を見ても何にも面白くも得にもなりませんし、はっきり言って、興味外なのですが?まぁ、胸や身長を大きくしたいと思うのも分からなくはありませんが・・・・・・」


 そしてさらなる爆弾を投下してきた。清々しいくらいの完全な無表情で平然と言うので、周囲の者達――特に男共――も『こっちがおかしいのか?』と疑問に思えてくる。勿論、おかしいのはソロンの方だ。


「君には性欲が・・・・・・・・・・・・そう言えば性欲がないんだっけ。【世界最巧】となった時点で種としては完全と言えるし、遺伝するわけでもないから子孫を作っても意味がない。神でないのに神として祀られる理由でもあったね」

「そう言えば、ソロンが私に仕えてくれるのも、私の才能故だったわね。容姿や雰囲気など、何処か惹かれるというか引っかかるというか、そんなところがあったのもあるけど、一番の理由は私の未来を自分で直に見たいから、とかいう・・・・・・」


 ソロンには人間が持つ三大欲求のうちの一つ、性欲というものが存在しない。他にも睡眠欲や食欲もだ。最低限はあるが、それも最低限。生命活動にも通常生活にも何も支障をきたさないほどに弱すぎる。その代わりに、探究欲や保護欲が強い。


「そもそも歴代の【世界最巧】も性欲がなかったと記憶していますが?代わりに探究欲が強く、そのためなら食欲や睡眠欲を完全に抑えることが簡単にできたとか」

「やけに説得力があるね。【世界最巧】は記憶までのかい?」


 【世界最巧】は蓄えた知識をそのまま引き継ぐことで有名である。

 そもそも、【大陸最巧】の称号を得るだけでも長い年月が必要となる。それなのに、赤子のときから称号を得られ、そのまま死ぬときまで入れ替わりがない【世界最巧】は異常すぎる。となると考えられるのは、『何度も輪廻転生をし続けている』、『知識や技能などを継承している』、『何度も若返りを繰り返している』、などといったことになる。

 この中で『若返りの繰り返し』はあり得ない。何故なら、【世界最巧】が死んだ時、最後にいた国と神聖法皇国が互いに費用を出し合い、世界規模の国葬とするからだ。よって、完全に死んでいることが確認されている。

 『輪廻転生』についても否定的な意見が多い。歴代の【世界最巧】たちは性格が異なっているのもが多く、統一性がないからだ。

 そのため、消去法かつ一番あり得ると考えられている『知識や技能の継承』が有力視されている。

 ちなみに、世界クラスの称号が付けられた者が死んだ場合には基本的に国葬とされるが、【世界最巧】だけは必ずあらゆる国の役に立つことを行ったり、論文を発表したり、助言をしたりしている――ソロンも魔法帝国に所属しているとはいえ、魔法帝国の不利益に繋がっているとしてもローズ経由で論文を発表したり、各国の相談役として助言したり、援助を行ったりしている――ため、感謝と敬意を表して葬儀には参加している。とある時代で全世界の国々の王や重鎮たちが一同に集まり、その死ぬ間際までともに支え合いながら生活し、その最後を見届けたという事例も存在する。もし正当な理由で費用が出せなかった場合でも、余裕がある国が費用を立て替えるという条約も存在する。また、正当な理由で葬儀に直接参列できずとも、理由によっては周辺諸国から冷たい目で見られるが、その場で黙祷することが不文律となっている。もしそうしなければ、次の【世界最巧】から見放されるという恐れもあるからだ。これは王位や重鎮の家督を継ぐ者なら知って然るべきものである。つまり、これを知っていなければ、いくら継承権が高くても王になることも、重鎮の家督や役職を継ぐことは不可能である。


「あなたがあなた自身に付与できる能力の中に『呪術』『毒』『能力低下』に対する耐性または無効、『自動治癒能力』、『不死鳥の炎フェニックスフレイム』、『神炎』のいずれかは存在しますか?」

「え~と・・・・・・・・・・・・、ありま・・・すね。後半2つは聞いたこともありませんが、前半の3つを纏めた『状態異常耐性』というものと『自動治癒能力』を持っています」

「おや?まだ能力の《解放》は出来ていませんよね?なのにもう『状態異常耐性』を?これは恐るべき才能ですね。もしシエル様に会っていなければ、私が直接教えていたかもしれませんね。今はシエル様一筋と決めているので無理ですが。では、『状態異常耐性』の炎を纏いながらあの的を軽く突いてみてください。ただし、力を加えたり、触ったりするのは禁止ですよ。腕が溶けても構わないと言うのであれば行っても良いですが、そうでないなら止めてください。最低でも火傷はしますので」


 ソロンは後半の2つは覚醒すれば行使可能な技であり、今は使えるわけがないと思いながら尋ねたものだが、エイダンから返ってきたのはソロンがまだ使えないと思っていたものであり、結構驚いていた。通常は第一段階《解放》後で使えるものであったからだ。

 それはともかく、ソロンはルカの依頼通り、的を突くようにお願いした。ただし、触れると最低でも火傷を、酷ければ腕の溶解という恐ろしい現象が起きると忠告はしておく。ただ、偶然の事故が起きる可能性もあるので、念の為にエイダン自身の体を保護する加護を施しておく。公には見せてはいけないものであり、ソロンがかけたもので壊せたと言われる可能性もあるため、コッソリとではあるが。


(まぁ、日頃から高濃度の万能回復薬エリクサーを含めた様々な治療薬を亜空間にいくつか入れて持ち歩いているので、腕の一本どころか、頭だけの状態になっても、意識があれば生やして治せるのですがね・・・・・・。)


「さて、どうなることやら?」


 ふと、ソロンが呟いた一言。それは、


「さて、あっちはどうなっていることやら?」


 奇しくも、皇城で法皇国に戻る準備――といっても、何度も不在にしているせいで溜まった仕事をしてくれている枢機卿たちへの詫び土産である――をしていたローズの言葉とほぼ一致していた。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る