第35話 入学初日の顔合わせ①




 入学初日、それは大半の新入生にとって、緊張と期待を胸に懐きながら登校する日である。それは皇族であるシエルにとっても同じことであった。


「え〜と、入学初日は自己紹介と学校見学も兼ねたリクリエーションだけで、あとはなかったはず・・・よね?あぁ、部活勧誘会もあったわね。ただし、部活に関してはほぼ自由。何なら、帰宅部でも良かったはず・・・・・・」


 シエルは現在、自室で独り言を呟いていた。一応、付き人としてレナがいるが、彼女は微笑ましく、主のことを見守るだけだった。

 そんな時、


コンコン、

「シエル様、お迎えに上がりましたが、いらっしゃいますか?」

「ソ、ソロン!もうそんな時間なの!?すぐに行くわ!」


 時間になっても来ないシエルのことを心配してきたソロンがシエルの部屋の扉をノックした。


ガチャッ、

「ま、待たせたわね、ソロン」

「いえ、登校時間にはまだ余裕で間に合う時間帯なので大丈夫ですよ。寧ろ、私の方が早すぎただけです」

「そ、そう。なら良かったわ」


 シエルは平然を装っていたが、ソロンは部屋の様子とレナの苦笑で何となく理解した。『恐らく、支度に迷っていたのだろう』と。


「今日は筆記用具とノートだけで十分だと思います。校舎内の案内の他には、クラス内での実力の披露程度だったはずですし」


 ソロンのそのセリフでシエルの顔が真っ赤になった。

 ソロンなら普通に教えてくれるだろうとシエルは思っていたが、こちらから言う前に言われて恥ずかしくなったのだ。


「は、早く行きましょう!」

「クスッ 仰せのままに、私のお姫様マイ プリンセス♪」




 そんな一幕もありながら、ソロンとシエルは自分達の教室に着いた。

 ソロン達、エクストラ特待生クラスの教室は学園の裏側寄り。つまり、学園食堂や購買部などの建物と、模擬戦等に使われる闘技場や訓練場などの施設に挟まれたあらゆる学年・学級の中でも特に良い教室だ。


「いえ、これはですね」

「え、えぇ。・・・そ、そうね・・・・・・」


 シエルも絶句したようだ。何故なら、エクストラ特待生クラスの教室は、生徒会室及び教職員室として今まで使ってきたメイガス棟と呼ばれる建物だ。

 ソロンにとっても予想外かつ珍しく数秒間絶句した程だ。


(絶対にあの “老害” 共が企んだことだろう。入学式のいたずらといい、その前のクラス発表の件といい、そして今回の事といい・・・・・・、後で意趣返しでもしてやりましょうかね?)ブツブツ


 はっきり言って、このようなイタチごっこ――『ソロンの言う “老害” 達がソロンにちょっかいを出し、そのことにソロンは意趣返しをし、その仕返しを彼ら彼女らはする』という繰り返し――を繰り返すから、ソロンだけでなく、周りの者達まで巻き込まれてしまうのだが、そのことを彼らは既に忘れていた。


 ――――閑話休題それはさておき


「ふむ、メイガス棟の2・3階すべてが教職員室であり、4階が会議室、・・・・・・生徒会室は1階にあるが、基本的に一部の部屋だけしか使っておらず、常に使っていない空き部屋が何部屋かあるため、有効利用したっと。恐らく、徹夜で仕事をしている教職員の仮眠室にされないようにするための建前などでしょうが・・・・・・」

「ソロン、何をブツブツと独り言を呟いているの?というか前から思っていたけど、よく下を向いて独り言を呟きながら、柱や壁、人など障害物に当たらずに歩けるわね」


 ソロンはオドの消費が少ない探知魔術を常に発動しているので当たっていないだけである――流石のソロンでも秒速500mを超えた速度で飛来してくるものは避けられないが――。


「探知系の魔導を学べば誰にでもできることですよ。後は・・・・・・少々、コツを掴む必要がありますけどね」

「へ〜、探知系か〜。それってどれくらいの範囲なの?」

「さっきまでであれば半径1kmくらいといったところでしょうか。ですね。まぁ、結構な魔力や集中力、精神力などを使うので、長時間も使えませんが」

「もしかして千里眼って?」

「えぇ、シエル様が予想している通り、探知系に特化した “眼” ですね」


 ソロンとシエルは雑談――という名の一種の講義――を行いながら教室へと向かった。教室の前まで来たところでソロンは一度止まり、シエルの方に振り向き、


「シエル様、一応、念の為に申し上げておきますが、ここからは何が起きても冷静に平然とした態度でお願いしますね」


 と、シエルにとって当たり前のことを言われたので、キョトンとした。

 しかし、入学式の一件――理事長の悪戯いたずら――もある。また、今回のエクストラ特待生クラスに選ばれた生徒達は、殆どが高貴な者、有名な者、秀でた実力がある者であり、中にはやや暴力的な者もいると聞いた。なので、問題行為が個人レベルではなく、国家的・政治的な問題にまでなる可能性があるということを言いたいのだろう、とシエルは判断した。


ガラガラ

「おはようございま・・・「!!」・・・・・・」

「はい?・・・・・・どういうこと?・・・・・・」


 ソロンが扉を開けた瞬間、後ろの方の席に座っていた女性が急に立ち上がって、ソロンのことを『様』付けで呼んだ。


「お久しぶりですね、リーゼロッテ様」

「覚えていてくださったのですね!お久しぶりです、ソロン様!!」


 ソロンを『様』付けして呼んだ女性――リーゼロッテは嬉しそうに顔を綻ばせた。

 そして、シエルはつい先程思っていた自分の判断が間違っていたことに遅れながら気が付いた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る