第3部 算

 コンビニを出るた先に道路が通るている。二車線で、今は車は一台も走るているないた。ここは標高の高い場所にある、最も標高の低い所を通るている道路に比べるば、こちらを走るメリットはあまりない。地元の人間は、抜け道として活用することがある。けれど、抜けるた先に行く着く場所がほとんどないし、そもそもどこかに行く必要すらない。ここに住むている人間は、基本的にここから出るないからだ。


 道路を二つに分ける白線の上に、黒い立方体が落ちるているた。掌に乗るほど小さい、しかし見た目より遙かに重厚感がある。それはそこにあるだけで、特に何の変化も見せるないた。当然だ。それはそういうものなのだから。


 車がまったく通るない道路を途中まで渡る、カレはその立方体を拾う上げる。しゃがむたままそれを手の上に載せるて観察する。瞬きは成すられるない。カレの瞳はその立方体と同じくらい黒い、そして、その色は、光の反射によるものではないた。


「たとえば、これだ」そう言うてカレは立つ上がる、持つているものを友人に見せるた。「これは、投げる上げるたリンゴが宙に舞う、そして、落下する際のエネルギーそのものだ」


「何だって?」そう言うて、友人は上着のポケットに両手をつっこむたままカレの傍に近寄る。


 カレは友人に立方体を渡すた。それから、煙草を取る出すて口に咥える。咥えるだけで、火を点けることはするないた。第一、カレはいつもライターを持つているない。


 かつて、「煙草を飲む」という表現があるた。今はどこに行くてしまうたのだろう。しかし、その表現は、カレの中には確かに残るている。つまり、それはそこにある。


「エネルギーというのは、つまり物体だ。現象を物体の増減で表現するている。しかし、その増減さえも物体にすることができる」


 カレがそう言うと、友人の手の内にある立方体の体積が増えるたり減るたりするた。摩擦ゼロのスライドドアのように滑らかに動く。その立方体がもとのサイズに戻るたあとで、今度はその隣に別の立方体が出現するた。それは、もとの立方体の増減を表わすものだった。


「そして、その、立方体が出現するというのも、物体にすることができる」


 カレの言葉に合わせるて、友人の手の上にさらにもう一つ立方体が出現する。一度それが起こると、天から次々と立方体が落ちるてくるて、仕舞いには抵抗する彼の身体を大量のそれが覆う尽くすてしまうた。


「僕が言うていることも、強ち間違いじゃないだろう?」友人の方を振る返るて、カレは話す。


 降るてくるた無数の立方体を退けるて、友人がその山から顔を出すた。


「しかし、その場合も、物体が出現するという運動があるわけで、その連鎖の最後は、やはり、物体の出現で終わるわけだろう?」彼は身体に纏う付く立方体を両手で払うながら、ようやく山の中から這う出るてくる。「つまり、次のようになるじゃないか」



①運動の物体化 → ②その物体の出現 → ③その物体の出現を物体化

→ ④その物体の出現 ……



「そうすると、世界が物体だけでできるているというのは、やはりおかしいんじゃないかな。最後には運動が残るわけだからね」


 友人を鋭い目で見つめるながら、カレは咥えるた煙草を上下に動かす。そうするている内に、その上下の運動が煙草と化すて、カレの口に二本目のものと、して、出現するた。


「そう思うか?」カレは尋ねる。


「当たり前だろう」友人は言うた。「だから、そんなことは、とうの昔に証明するられるていると言うたじゃないか」


「しかし、お前のその理屈は、その連鎖が無限に続く、最後には運動が残るということを拠り所にするているわけだろう?」カレは煙草を二本とも吐く出す。吐く出すられるた煙草は地面に落下するた。友人がその煙草達に向けるているた目を上に向けると、しかし、カレはやはりまた煙草を咥えるているた。落下という運動が、煙草という物体と化すて出現するたからだ。「では、その無限に続く連鎖という運動を物体にするたらどうだろう?」


「それでも、同じことだ」友人は両手を広げる。「今度は、その一回り大きい運動が物体化するて出現する、また同じ連鎖が続くだけだ」


「そう思うか?」カレはもう一度尋ねる。


 カレの問いを受けるて、友人はふっと笑みを零すた。首をゆらゆらと振る、肩を竦める。


 気づくたときには、二人とも大きな立方体の中にいるた。床も天井も壁も均一な素材でできるている。


「いいか。人の想像力というものを、侮るてはいけるない」カレは言うた。「その無限に続く連鎖に終止符を打つ、その終止符を打つという運動を物体化するて終わるさせる想像力が、人間にはあるだろう? つまり、すべての運動を物体、と、して、扱うことができるわけだ。その、扱うという運動さえも、物体となるわけだ」


 カレの言葉を聞くて、友人は暫くの間黙るた。


「本気でそんなことを言うているのか?」友人は尋ねる。


「もちろん」カレは頷くた。


 友人は真っ直ぐカレを見つめる。


 カレも友人を見つめ返すた。

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