魂の在り処Ⅰ
1
朝陽に輝くのは、
鉄くずやら、元は美術品だったかもしれない
そこは、そういう場所だった。不要なものをひとまとめに捨てるために、
余裕のない戦時下に行われた処置だ。
そして、数十年に及ぶ戦乱の果てに国が名を変え、統一国家〈アッシュガルズ〉と
途方もない量の使えない物が、放り込まれた。
この王都〈ウォルスタンド〉南西一帯の
不意に、瓦礫の山の一つが、崩壊した。
物凄い、騒音が響き渡る。
その場にいれば、思わず、顔をしかめてしまうのが自然であったが、そこにいた少年はべつだった。ここをねぐらにしている少年には、慣れ親しんだ音の一つだからだ。
「またお前か……!
チョビ髭の厚ぼったい唇の男が、盛大なしかめっ面で、少年を怒鳴りつけた。ついで、
巨大な
「ロウェル・コールフォール! それが、俺の名前だって、言ってんだろっ。お前にも変な
ゴーレムをそこに押しやった張本人である少年が、
少年――ロウェルは力強い
ロウェルの特徴といえば、
それよりも目立つ特徴が、両腕に備わった
薄汚れた、
それを自在に操り、つい今しがた、金ぴかのゴーレムをぶん殴り、ぶっ飛ばしたばかりである。
錆びついた鋼鉄。本人が気に入らなくとも、そういう名が付くのは、さもありなんというところだ。
「お、おおっ……! 無事か? 立てるのか?」
デジールが、瓦礫のなかから直立した金ぴかのゴーレムを見上げ、感動したような声を上げた。
一歩、二歩とゴミを散らかしながら、ロウェルのほうへ近づいてきていた。
ロウェルをしっかり見定めた様子だ。
ロウェルに詳しい仕組みまではわからないが、それが核となる動力源で、そこが無事であれば、再度組み立て直せるということだけは、理解していた。
「しょうがないなあ……」
ロウェルは、唇をへの字にした。頭上で金ぴかゴーレムが、大きな握り拳を振り上げるのを見守る。
叩きつけてくるのを待って、ロウェルがあたりで跳ねるゴミに混ざって跳んだ。
金ぴかのゴーレムの胸に、錆びついた杭打ち機がくっついた、左腕をお見舞いした。
握り手の
きつく絞り留めていた内部のバネがぐんと押し出され、白色の杭が鉄槌となって追い打ちをかけた。
ガシャン! と積み重ねた皿を床にぶちまけたみたいな音を伴い、金ぴかゴーレムが、バラバラになる。
崩れる途中、金ぴかの“メッキ”の一部が剝がれ落ち、くすんだ岩肌が露わになったが、そこにもう、突っ込む気はなかった。それほど、毎度のことだったからだ。
「よしっ。まず、一
比較的安定した瓦礫部分を足場に下り立ち、ロウェルは宣言するように言った。
すかさず、左腕の杭打ち機の握り手を引き上げ、ギギッと軋ませる。いつでももう一発、放つための、習慣的な動作だった。
「なっ、なにが一善じゃーい! こっちだってな、借金の回収っていう大事な仕事なんだぞ! いつもいつもいつも‼ 踏み倒しの手伝いばかりしおってからにぃ!」
ふるふる震えて、泣き面でデジールが砕けたゴーレムのなかから、精結晶のある部分を探す様子に、ロウェルは同情を誘われた。
たしかに、と思わないでもない。
「お前らも、たまには払ってやれよなー。少しでいいから」
振り返り、被害の及ばない遠くのほうで見物していた友人たちに向けて、びしりと指差した。
一人はばつがわるそうに、肩をすくめた。
一人はお手上げ、という感じに両手を上げる。
一人は借金してたっけ、というふうに首を傾げる。
まあ、無理だよな。同じくゴミ溜めをねぐらにしているロウェルにしても、金銭的余裕などこれっぽちもないのだから。
「まっ、いつか返ってくるって。ゴミのなかから、
あまり深く考えず、デジールを励まし、ロウェルは日課のために廃棄区画をあとにした。
「……んなこと、あるわけないじゃろがいっ!」
デジールの泣き声が、ゴミ山に反射して幾重にも響いていた。
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