3・不満

 正直、ドキリとした。

 隠している本音を見透かされたのかと焦った。

 なんて答えるべきか──真実なんて易々と口にできるはずがない。

 とはいえ、明らかに間違っていることもある。それについては、否定しておいたほうがいいだろう。


「嫌いじゃないですよ、ナツさんのこと」

「……本当に?」

「本当です」


 いろいろ思うところはあるけれど。もっとぶっちゃけると「なんだ、この人」と思うことは多々あるけれど。


「じゃあ、なんでそんなにオレを元の世界に戻したがるの?」

「それが『あるべき姿』だからです」


 これは、半分嘘で半分は本音。


「ナツさんは本来こっちの世界の人じゃありません。だったら向こうの世界に戻るべきでしょう?」

「……戻ったら、青野はもう二度とオレと会えなくなるよ?」


 それはそうだ、こっちの世界の夏樹さんが戻ってくるのだから。


「戻れば、ナツさんは向こうの世界の青野行春と会えますよ」

「……」

「向こうの世界の俺なら、ナツさんと恋人らしいことをしてくれるのではありませんか?」


 俺としては戻ることのメリットを伝えたつもりだったけど、ナツさんの顔は浮かないまま。それどころか、心なしか怒ってさえいるようだ。


「青野が、オレの相手をしてくれればいいじゃん」

「それは無理ですね」

「なんで? そんなにナナセのことが大事?」

「大事ですね」


 これは、嘘──とも言い切れない。星井のこと、女友達としては誰よりも大事に思っている。

 ナツさんは「ふーん」と小さく洩らした。やっぱり、自分が俺の一番ではないことが、お気に召さないようだ。


「なにやってんの、ふたりとも! 置いてくよ!」


 いつのまにか、星井たちとの間にだいぶ距離ができていた。「今、行く」と速度を速めようとした俺の横をすり抜けて、ナツさんはひとりで先に行ってしまった。

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