14・瞑想(その1)
案の定、西階段はほぼ
最上階の行き止まりのところで腰をおろした俺は、軽く呼吸をととのえ、大きく息を吸い込んだ。
まずは、ゆっくりと鼻から。そうして取り込んだ空気でしっかりと腹をふくらませ、今度は口からゆっくりと息を吐きだす。深呼吸の基本。これが瞑想前には重要だ。
(──よし)
この「よろしくない熱」をおさめるには、頭のなかを空っぽにするのが一番だ。
目を閉じ、規則正しい呼吸を意識しながら、俺は様々な邪念を払いはじめた。
ナツさんの甘えるような仕草、ふくらませた頬、尾てい骨の尖り、脇腹に触れたときに跳ねた背中──全部ぜんぶ。
(いいぞ、この調子……)
ところが、もともと邪念に支配されがちな俺の脳みそは、ナツさんのあれこれが消えたとたん、夏樹さんの存在をチラつかせはじめる。
(そういえば、ふたりで瞑想したことあったっけ)
アルバイト先のイベントに出場することが決まり「プレッシャーで押しつぶされそう」とこぼす夏樹さんに「瞑想」を提案したあの日。
(可愛かったな、あのときの夏樹さん)
ピクピク動く白いまぶた、上下する薄い胸、なかでも細く息を吐き出すときの唇は、半開きでそこはかとなくエロくて──
(いやいやいや)
ダメだ、このままだとまたもやよからぬ熱が復活してしまう。
すみません、夏樹さん。瞑想中は、あなたのことも頭から追い払わないといけないんです。あなたの存在のすべてが俺には大事だけど、今この時間だけは封印させてください。
(そう……集中、集中して……)
意識を自分の息づかいに向けることで、頭のなかの空白が徐々に広がっていく。
よし、いいぞ。このぶんなら、問題なく平常心を取り戻せるはず──
(え……っ)
それは、あまりにも突然だった。弾力のある湿っぽい「何か」が、いきなり俺の鼻先を撫でたのだ。
俺は、驚きのあまり目を開けてしまった。そこで真っ先に視界に入ってきたのは、見覚えのある誰かさんの顔だ。
「あれ、寝てなかったんだ?」
にやりと笑った唇から、あっけらかんとした言葉が飛び出した。もちろん、そう言い放ったのは、教室に置いてきたはずの諸悪の根源だった。
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